表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

閉ざされた部屋の中で

作者: gumi

私には友達が居なかった。

  

あるのは、友達っぽいモノと、友達ではないモノ。

 

友情の力なんて信じていた頃がなつかしい。

 

みんなと友達だと思っていた。

 

みんな好きだったし、なによりたくさんの笑顔が好きだった。

 

笑顔にさせるためならと、持ち金も貯金もパーティーに使い、消えていった。

 

多少生活が苦しくても構わずいままでやってきたのも全て、笑顔があったからだ。

 

しかし、彼女達は私を裏切った。

 

私の事を避け、パーティーにも来なかった。しかも偽の理由をつけてまで、だ。

 

そんな彼女達を許すことはないだろう。

 

もうパーティーに来てほしくないし、呼ぶつもりもない。あの子達にそんな資格はないからだ。

 

そう思い、この小さな地下室部屋に閉じこもってきたが、食料の備蓄も無くなってしまった。

 

それに、居なくなる前まで居候させてくれたカップケーキ夫妻にも、別れの言葉を言いたい。

 

・・・・・・いや、ちがう。行動への本質は別のところだ。

 

町唯一のパーティーポニーが居なくなったということで、ポニービルは大混乱になっているだろう。

 

(そんなポニービルを見るのも面白いかもしれない・・・・・・)

 

意気揚々と、私は出かける準備を始めた。

 

               ***

 

久しぶりの外の空気は、案外すがすがしかった。

 

だが、空気を味わう時間すら、私には残されていなかった。

 

(今日はイベントだということを、すっかり忘れていた!)

 

よく考えれば、今日は夏至のお祭りの日。トワイライトと仲良くなった日だ。

 


大混乱のポニービルも見たかったが、それよりも人に見られては、隠れている意味がない。

 

残念だが、食料も買ったし、カップケーキ夫妻への挨拶はまた今度にすることにした。

 

地下へと走る足が、ふと止まる。聞き覚えのある声がしたのだ。

 

声の主を探すが、あまりぐずぐずしてもいられない。

 

・・・・・・いた!あれは、フラタシャイだ!

 

どうやら、動物たちと話しているらしい。しかし、もともと声が小さい子のため、よく聞こえない。

 

耳を澄まし、体勢を変えると、なんとか聞き取れるようになった。

 

私のことを話しているのかもしれないと、期待が高まる。

 

しかし、聞こえてきたのは信じられないような言葉だった。

 

「・・・・・・だからね、エンジェル。あなたはあのバカピンキーのように居なくなっちゃだめよ?」

 

動きが、止まる。

 

「まったく、あの子ったら周りの迷惑なんて全然考えないの。おかげでこっちは振り回されっぱなし」

 

迷惑・・・・・・。私の存在は、迷惑?

 

「エレメントオブハーモニーの力も使えないから、町中大パニックだし。」

 

世界から色がなくなっていく。

 


「でもよかったわ」

 

やめて

 

「だって、わたし」

 

言わないで

 

 

「あの子のこと前から嫌いだったんだもの♪」

 


 

―私は彼女に飛びかかっていた

 


               ***

 

 

フラタシャイがはじめに目にしたものは、薄汚れたコンクリート造りの壁だった。

 


そして、次に目にしたものは・・・・・・睨みつけてくる「元」親友の姿。

 

現状が理解できない。汗を拭おうとして、初めて自分が拘束されていることに気づいた。

 


怖い。

 

本能がそう告げる。彼女と視線をあわせることすら・・・・・・怖い。

 


「久しぶりだね!フラタシャイ!」

 

しかし、聞こえてきたものはいつもと寸分変わらない声で、思わず顔をあげてしまう。

 

すると、先ほどの表情はなんだったのかと拍子抜けしてしまうほど、その顔にくもりはなかった。

 

安心と同時に襲ってくるのは、激しい怒り。

 

「ピンキー!なにしてるの?!ほら、とっとと、この拘束を解いてちょうだい!」

 

しかし、その声にもピンキーはひるまなかった。

 

「なんで?だって私、楽しいことだーいすきだもの!あなたもそうでしょ?」

 

その言葉に、さらに怒りは増す。

 

「ええ!そのとおりね!でもねピンキー。私は楽しくないのよっ!」

 

直後、一瞬の静寂が訪れ、やがてピンキーがゆっくりと口を開いた。

 

「あなたが楽しいかなんて、関係ないのよ?今の状況が分からない?」

 

背筋が凍っていくのがわかる。

 

さきほどの挑戦的な言葉は、もう出なかった。

 

「あ」とも、「う」ともつかない声が口から漏れて、それを聞いたピンキーは、心底楽しそうに笑った。

 


壁に飾ってある「モノ」を見れば、容易に想像がついてしまう。これから私を待っているものは・・・・・・

 


 


『死』だ。

 

               ***

 


 

きつい拘束のせいで、だんだん息ができなくなってきた。

 

ゼイゼイと喘ぎはじめた私を、ピンキーは迷惑そうに見つめる。

 


「ねえ、大丈夫?じゃないよね、こんな状況だもん」

 

「だして!!助けて!誰か・・・・・・!」

 

すると、ピンキーは小さく鼻をならした。

 

「誰も助けて“くれなかった”よ」

 

ゆっくりと、間伸びしたその一言は、私を絶望させるのに充分だった。

 


涙がとめどなく溢れてきて、とまらない。

 

皆、助けてくれなかったのか。

 

結局、親友なんて居なかったのか。

 


泣きじゃくる私を見たピンキーは、こちらへと歩いてくる。

 

ゆっくりとした足取りは、まるで私の死刑宣告を告げにきた看守のように錯覚させた。

 

ゆっくりと、ゆっくりと・・・・・・奥に悪意を潜ませて近づいてくる。

 

やがて、私のそばへ来ると、小さく囁いた。

 

「可哀想に・・・・・・フラタシャイ。今、どんな気持ちなの?絶望?悲観?」

 

「それとも憎しみ?ねえ、パーティーしない?ガミーの誕生日の次の日パーティーと・・・・・・」

 

低いモーター音と共に、回転するモノを見た。

 

 

「フラタシャイ永遠にさよならパーティー♪」

 

 


―目の前には、チェーンソーを高々と掲げるピンキーがいた。

 

               ***

 

  

『人間には幸福のほかに、それとまったく同じだけの不幸がつねに必要である。』

 

ドストエフスキー 「悪霊」に出てくる言葉である。

 

もしこれが本当なら、今まで恵まれた生活をしてきたこの子には、どれだけの制裁が必要だろう。

 

翼を見る。

 

なにもついていないアースポニーにとって、それはひどくうらやましくもあり、と同時に、憎たらしくもあった。

 

ポニービルでは、気候を操るペガサスは、なにより優遇されている。

 

今現在、気候を操る魔法は発見できていないし、天気が変わらないと作物が育たない。それは、死に直結するからだ。

 

まずはここからだ・・・・・・

 

轟音をあげる「それ」を翼に押し付けた。

 

「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁ」

 

ほどよい厚みを持った皮がはじけ、グチャグチャと音をたてながら、抵抗なく刃ははいってゆく。

 

ときおり、筋のようなものがブツンと切れる感触が伝わった。

 

(これは筋肉だ・・・・・・)

 

本能的に、そう感じた。おそらく間違ってはいないだろう。

 

もういいだろうというところで、刃を止めてみる。

 

すると、痙攣する翼は半分以上が胴体から離れ、宙ぶらりんの状態で垂れ下がっていた。

 

不揃いな切り口からの出血はひどく、滴り落ちる血液はため池のようになり、やがてじわじわと広がっていった。

 

これではもう空をとべまい。

 

思わず笑顔になる。血の滴りがおもしろくて、永遠に見ていたいと切に思った。

 

どうすれば、この子を永遠に見ていられるだろうか?

 

朦朧とした頭のなかで、そう考える。

 

(剥製にして飾ればいい・・・・・・)

 

声が聞こえた。誰の声か、確認する必要はない。

 

そいつは、ピンキーの中にずっと潜んでいた。悪意の塊。

 

ポニーの剥製の方法は、もう頭に入っている。まるで人格が変わってしまったかのような、妙な相違感を覚えた。

 

しかし、そんなことはどうでもいい。

 

鳴り響く轟音も、私への祝砲のように感じた。

 

今この瞬間、私は、『狂気的』に、そして『魅惑的』に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

―私のなかの「ピンカミーナ」を受け入れた。

 

 

               ***

 

  

取れかけた翼はいらない。

 

かろうじて繋がっている翼を口でくわえる。

 

おもいきり引っ張ると、ぷつんという音がして、翼は地面に叩きつけられた。

 

『ああああああああああッ……』

 

片方取れた翼はいらない。

 

チェーンソーをあてがい、切断を試みる。

 

皮膚は破れ、肉が露出し、骨が砕かれ、なおもチェーンソーは進んでいった。

 

『や、めてっ・・・・・・お願い、いやあああああああああああああああ』

 

切断された翼は、別の独立した生き物のように痙攣し、思わず飛び退いてしまう。

 

しかし、そのうちにそれもなくなり、やがてゆるゆると血の気を失っていった。

 

(もはや動かなくなったモノには興味がない。それは無機物のようなものだ。)

 

血液が滴る翼はピンカミーナの蹄によって、放り投げられた。

 

続いて目に入ったものは、

 

「キューティーマーク……」

 

それは、本来、個人の才能を現すものだが、私には個体識別のためのマークにしか見えなかった。

 

「自分であることの証明」

 

ふと形容しがたい苛立ちを感じて、チェーンソーを落としてしまった。

 

一瞬我に返る。

 

「自分であることの証明。」

 

私は私。ピンカミ―ナも、ピンキーパイも、私……?

 

鈍痛がした。何かを忘れているような……

 

 

 

 

 


「なんだっけ?」

 

チェーンソーは低く唸り声をあげるばかりだった。

 

               ***

 

 


「ごほっ、ぐ……」

 

血の塊を吐き出し、痛みに目を潤ませながらも彼女はまだ生き永らえていた。

 

翼がもがれ、キューティーマークの部分の肉は抉られ、四肢を落とされてもなお。

 

不幸にも、どれも死に直結するような傷がなかったのが原因のようだ。

 

始めのうちこそは地獄のような痛みに絶叫していたが、もはやそんな力は残されていなかった。

 

ひとおもいに殺してくれたらどんなに楽だろうか。

 

だが、相手は笑いながらこちらを見つめているだけで、なにも手を下そうとはしなかった。

 

おそらく衰弱死するのを待っているのだろう。

 

しかしフラタシャイには最期に伝えたいことがあった。

 

どうやら彼女はなにか誤解をしているらしいのだ。私はそれを解かなければいけない責任があった。

 

これ以上犠牲者を増やしてはいけない。

 

皆のお荷物でしかなかった。

 

人の影に隠れて自ら行動できない、そんな自分が大嫌いだった。

 

だけど最期こそは、皆の役にたてるんだね―。

 

大粒の涙が零れ落ちた。

 

フラタシャイは大きく息を吸って、彼女―……ピンキーパイに言葉をかけた。

 

「ピンキー、あなたは誤解をしてる。」

 

ピンキーの笑顔に、亀裂が入った。

 

「私たちは、あなたを……」

 

せりあがってくる血の塊を嚥下し、言葉を紡ぐ。

 

親友達、ペット達への感謝の思いで、胸がいっぱいになった。

 

「私たちはあなたを……」

 

皮肉を言うダッシィ。

 

ものしりのトワイライト。

 

強くて優しいアップルジャック。

 

一番仲の良かったラリティ。

 

そして、

 

笑っている私。

 

笑っているピンキーパイ。

 

仲良かった頃の記憶が戻ってくる。

 

あのころの眩しさに涙があふれてきた。

 

友情って、魔法なんだと切に感じた。

 

「私たちはあなたを、さ」

 

眼前に、歯が振り落とされるのを見た。

 

               ***

 

 

血でぬめった床を歩く。

 

端にはかつての友人達が、見るも無残な姿で飾られていた。

 

そこにあるのに、いないとわかる空虚感。

 

おもえば、ピンカミ―ナを受け入れたあの時から私は死んでいたのかもしれない。

 

「自分であることの証明」

 

私はとっくのとうに自分ではなくなっていたんだ。

 

「……馬鹿だなあ」

 

気づいてたはずなのに。

 

彼女の最期の言葉を思い出す。

 

『私たちはあなたを、さ』

 

あの後に続く言葉なんて、知ってたはず―。

 

 

「私たちはあなたを、避けてなんていなかった。」

 

 

「そっか」

 

私のせいだったんだ。

 

『ガミーの誕生日の次の日は、私の誕生日だったんだ。』

 

勝手に勘違いして、暴走して。たくさんの子を殺してしまった。

 

「あ」

 

なにしてんだろ

 

「ああ」

 

ほんとに馬鹿だな。

 

「あああああああああああああああああああああああ」

 

―皆死んでしまった後に気付くなんて。

 

閉ざされた部屋の中で絶叫が木霊した。


                          END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ