第5話:俺の好きな人
俺は3年前から好きな女が居る。
そいつは俺より年上で、朝には滅法弱い人。
父さんはある日いきなり会わせたい人がいると言って、俺を無理やりレストランまで連れて来た。
そして訳がわからないうちに席に通され、ふて腐れているとある女性が現れた。
その人は父さんが今付き合ってる人。斉藤真紀だったっけ?
これまでにも、何回か会った事があった。
軽く会釈して顔を上げると、彼女の後ろに女の人がいるのに気がついた。
その人は真紀さんの隣に座ると自己紹介してきた。
それが亜子だった。その時俺は初対面にもかかわらず、一目で惚れてしまっていた。
今までの俺には無かった感情が駆け抜けて、正直どうしたらいいか惑った。
この俺が一目惚れなんて…
でも、出会い方がまずかった。
その後父さんたちが結婚して、姉弟となってしまった俺はこの気持ちを気づかれないように必死に3年間過ごしてきた。
それこそ、どうでもいい女と付き合って。亜子からすればきっと、ちゃらちゃらした男に思われているに違いない。
父さんたちが別の家を買って引っ越して行った時、亜子は当然、別々に部屋を借りて住もうと言い出した。
だけど、どうしても亜子と一緒に居たかった俺は、折角立てた一戸建てを売るのは勿体無いと必死に説得した。
俺の説得に、確かに一理あると判断したのか、亜子は一緒に住む事を承諾してくれた。
それから一緒に住むようになって分かった事は亜子は朝に弱い。
そんな彼女を毎日のように起こしに部屋に行き、寝顔を見てはどんな思いをしているのか…
今日も朝6時半きっかりに鳴る目覚まし時計の音を聞いた俺は、台所で作業していた手を止めて亜子の部屋に向った。
部屋の前まで来て一度深呼吸する。
今まで何回も入ったことのある部屋だけど、この扉の向こうに亜子がいるのかと思うと、気持ちを落ち着かせないと何をするか分からない。
だからこうやって深呼吸してからじゃないとこの部屋には入らない。
ガチャッ
「おい、亜子!いい加減目覚まし止めろよ!毎朝毎朝うるせーぞ!!」
「うぅぅん」
そう言いながら更に布団に顔を隠すと二度寝をしようとしている。
俺はわざと大きなため息を吐くと、亜子から布団を剥がす作業に取り掛かる。
布団をむんずと掴み思いっきり引っ張り上げると、そこには丸まって寝ている亜子の姿。
いい加減にしないと襲っちまうぞ…
そんな事を考えてるなんて知らない当の本人は、寒さに負けて観念したのかもぞもぞと身動きすると起き上がり、眠そうな目を必死に細めて睨みつけてきた。
「ちょっと!寒いじゃない!何すんのよ!?」
「寒いじゃねーよ!起きろって!」
腕を組んで見下ろしてやる。そうすれば亜子は逆らえないのを俺は知っている。
「あーはいはい。起きればいいんでしょ?」
亜子は仕方ないといった風にダラダラとベットから降りてクローゼットまで移動する。
そんな亜子を一瞥すると「ったく、やっと起きたか…」と、やれやれと俺は部屋から出て行った。
台所に戻ると、作りかけの朝食を仕上げに掛かり、亜子が1階に降りて来るまでにはダイニングテーブルへと運ぶ。
何度も言うが、朝に弱い亜子は俺が朝食を用意しない限り食べないで会社に行ってしまう。
今までどうしてたんだろうかと思ったが、きっと義母さんが作っていたんだろう。
丁度全ての皿をテーブルに置いた時だった。
ドタドタと足を音をさせてどうやら2階から降りてきたらしい。
亜子はそのまま洗面所のほうへ行く。暫くすると、リビングの扉が開き亜子が入ってきた。
俺はそれを確認して声を掛けた。
「やっとお出ましか。飯なら出来てるから早く食えよ」
「うん。ありがと」
そう言って椅子に座り、おいしそうに俺が作った料理を食べているのを見るとなんだか餌付けしている気分だ。
てか、亜子だから俺は料理を作ってやってる。
これがどうでもいい今の彼女なんかには、絶対にやらない行動だろうと思う。
それからご飯を食べ終えたのか「ご馳走様」と律儀に両手を合わせた亜子は、急いで支度すると玄関から大声で呼びかけてきた。
「じゃあ、行ってきまーす!」
それに「おう」っと返事をすると亜子は出て行った。
これが俺達の朝の光景。この先変わる事があるのだろうか?
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もちろん、皆さんの意見も参考にしたいと思っています。
ではでは。失礼しました。




