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恋心  作者: 水城朱音
10/14

第10話:言ってはいけない言葉

それから、課長はさっきの告白が冗談だったかのように私に接してきた。

だから私もなるべく気にしないように振舞うのが精一杯だった。



「亜子?」


そろそろ帰ろうって事になり、会計を済ませようとレジにやってきた時、突然声を掛けられた。


振り返らなくてもわかってしまう。


これは紛れもなく祐樹の声だ。


課長もいるのだ。気づかない振りをしようか…しかしそんな考えは全く無駄に終わった。


なぜなら、肩を掴まれ振り向かされたからだ。


「おい、聞こえてなかったのか?」

「えっ?あっ!祐樹…ぐ、偶然ね…」


目の前に居る祐樹の存在に頭の中が真っ白になってしまった。

何を言えばいいのか、まったく頭が働かない。

何故こんな所にいる?あぁそうだ…夕方メールした時に友達とご飯食べると返事が来ていた。


「亜子、お前こんな所で何やってるんだよ」

「な、何って…し、食事…?」

「残業じゃなかったのか?」

「そ、そうよ?」


相当私の態度がおかしかったのか、突然課長が割り込んできた。


「君、川原さんの知り合い?」

「…一応弟だけど…あんた誰?」

「弟さんね……俺は川原さんの上司で藤崎健吾だけど…」

「ふーん…なに?彼氏?」

「ゆっ祐樹!?」

「いや。告白はしたけど、付き合ってはないよ」


笑顔でそう言った課長に対して、なぜか祐樹が怖い顔で睨みつけている。


「じゃあ、藤崎さんには悪いですけど、亜子は俺が連れて帰りますから」

「へ!?ちょっと!な、何言ってるの?」

「それでは。失礼します」


そう言うと課長の返事も待たずに、祐樹は物凄い力で私の腕を掴むと引っ張って歩き出す。

こんな祐樹は今まで一度も見た事が無かった私は怖くなってしまい手を振り払う事もできずそのまま引っ張られるようにお店をでた。


「ねぇ!…ちょっと!腕…痛い!」


お店からかなり離れた所で腕の痛さに我慢が出来ず、精一杯の力を振り絞って祐樹の手を振り払う。

いきなりの祐樹の行動に胸が苦しくなる。

それと同時に私は物凄く怒っていた。

店を出るまでは確かに祐樹が怖かった。

しかし、ちょっと考えれば課長に失礼極まりない行動をしたのだ。


「もう!!一体どうしたっていうのよ!?」

「……」

「ちょっと!黙ってないで何とか言いなさい!!」

「…別に…ただ…、今日合コンでさ。何とか抜け出したかっただけ…」


合コンですって!?冗談じゃない!


「はぁっ!?たったそれだけの理由で私をあの場から連れ出したって言うの!?あの人は私の上司なのよ?どうしてくれるのよ!」

「わかったよ。謝ればいいんだろ!?すいませんね!」

「何なの!その言い方!!」

「うるせぇ!!こんな時だけ姉貴面すんな!!」


祐樹が言った言葉がグサリと胸に刺さった。



姉貴面―――



一番祐樹には言われたくなかった言葉。



その言葉に傷ついた私は自分が泣いている事にも気がつかなかった。


「なっ、何よ!祐樹のばかっ!!」





そう言って私は祐樹に鞄を投げつけるとその場を駆け出した。



==========================================



朝、隆司が合コンは今日になったと言って来た。

正直一昨日、昨日と具合の悪かった亜子が心配ではあったけど、約束は約束だ。

夕方頃、亜子からメールが来て残業になったと言っていた。



なのに、目の前には亜子と知らない男。


これは夢じゃないのかと思った。だけど、亜子は実際ここにいる。


ムカついた。

だから気が付いた時には亜子に声を掛けていた。


絶対気がついているはずなのに亜子はこちらを振り向こうとしない。

イラついた俺はすばやく近づくと亜子の肩を掴むとこちらに振り向かせた。


わざとらしく振舞う亜子に俺は言葉がきつくなる。

亜子の態度が変なのに気がついたのか男が俺達の間に割り込んできた。


この男、亜子の何なんだ?まさか彼氏じゃないよな?


そう問うと返ってきた答えは「告白したけど、付き合ってはいない」と笑顔で言いやがった。


ガツンと頭を殴られた気がした。

こういう言い方するって事はまだ諦めてはいないって事。


そんな男と亜子を一緒になんかできるか。


そう思ったが早いか「俺が連れて帰ります」と亜子の腕を思いっきり掴むと有無を言わせず店から連れ出した。


暫く歩いて、亜子が俺の手を振り払い、俺を睨みつけてきた。

亜子の表情を見れば物凄く怒っているのは分かっていた。

しかし、そのときの俺は頭にき過ぎてて、言ってはいけない言葉を口にしてしまったんだ。


「姉貴面」


それを言った瞬間の亜子の蒼白な顔。目には涙。


血の気が引いた。亜子の涙を見たのがこれが初めてだった。


「祐樹のばかっ」






そう言うと鞄を投げつけられ、去っていく亜子の姿に声を掛けることも、まして追いかける事すら出来ない俺に悔しさと悲しさが胸の中に湧いた。







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