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TS少女の異世界人生録  作者: 千智
俺が私になった理由
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04 スキルと祝福と代償と

 あの日。俺が普通ではないことを知った日。

 俺はやはりこの世界も普通ではないことを再認識することとなった。


 魔法陣に異常がないか調べた母は、複雑そうな顔をしながら言う。


「適性属性なし……ってことは、もしかしたら『祝福(ギフト)』持ちなのかも」

「『祝福(ギフト)』?」

「ああ、リリィは知らなかったわね。生き物には、先天性のスキル……じゃわからないか。ええと、特別な能力や才能が備わっていることがあるの。それを『祝福(ギフト)』って言うのよ」

「……レベルは?」

「? なぁに、それ」


 ふと思い浮かんだ単語を聞いてみるが、首を傾げられた。スキルはあってもレベルはないらしい。

 まぁこの話でレベルまであったらどこのゲームに生まれ変わったのだろうかと慌てる羽目になっただろうからこれでよかったのかもしれない。

 とりあえず、そのスキルの強弱や多い少ないが強さの基準なのだろう。


「ううん、なんでもない」

「そう? それで、その『祝福(ギフト)』の中でも強力なものを持つ者には、大抵の場合『代償』といった形で不得手な分野が現れるの。体力が全くない代わりに他の追随を許さない程魔法に優れていた英雄の話もあるわ。リリィには何か心当たりはない?」


 それに俺は少し考えてから首を振って答える。

 母はやはり、それに少しばかり眉を(ひそ)めた。


「そう……とりあえず『祝福(ギフト)』があるにせよないにせよ、適性属性がないってことは『代償』とかだから、魔法は教えられないわね。リリィなら、きっといい魔法使いになると思ったんだけど」


 その寂しそうに言った母の言葉に俺も落ち込む。

 期待を裏切った、という部分もそれなりにあるけれど魔法が覚えられないと知ったのが一番大きい。

 こうなれば自力で魔法を覚えて目的を叶えるのができなくなってしまったからだ。


「じゃあ俺が剣を教えよう!」


 そこで父が扉を勢い良く開けて現れた。

 手には二つの木剣を持って。

 いきなり姿を表した父にいつ帰ってきたのか、とかどうして既に剣を持っているのか、とか言いたいことは色々あったけれど、動揺もせずにあらあらと言う母の肝っ玉にも驚いた。


「剣は少し早くないかしら。リリィはまだ三才だし……」

「いやだからこそ、だ。魔法が使えないなら剣を早めに習っておくにこしたことはないし、もし『祝福(ギフト)』が剣術系だったらそれこそ早く知ったほうがいいだろ?」

「確かに、そうだけど……リリィはどうしたい?」


 心配するような目で俺を見遣る。

 前衛と後衛。確かに前衛の方が危険度は高いだろう。

 だが、魔法が使えないとわかった以上何かしらの護身術は必要となる。危険が迫った時にいつも誰かがいてくれるは限らないのだから。魔法を志した時の理由だってそこにある。

 剣術指南、大いに結構。体力付けにも一役買うだろうから一石二鳥。


「やってみたい」


 俺のその一声で、父から剣術を習うことが決定した。

 それが前回の冒頭へと続くことになる。


 ☆


「よし、今日はここまで!」


 木剣を弾き飛ばされ丸腰となった俺に父が上から告げる。

 その一声に俺はようやく力を抜くことが出来た。

 先程から笑っていた膝が操り糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「おっと……リリィ大丈夫か!?」


 限界まで体力を使い切り、もはや気力で動いていた俺を父は支える。

 力なく一度頷くと、父はほっとしたような表情を見せた。

 鍛錬中とは違って優しい一面を見せる父に、『父さん』と同じような不器用さを見た。


 そういえば、二十歳になったら一緒にお酒を飲む約束があったっけ。 ふとそんなことを思い出す。

 生前の父はそれはもう厳格な人だった。

 目上の人には礼儀をちゃんとしないと怒鳴られた。不注意で人にぶつかったりすると殴られた。

 不機嫌な時には沸点が低いという嫌いはあったけれど、俺にとって父は正しい人だった。

 あの父がいたからこそ、姉も俺も悪いこと一つ起こさずに、反抗期もなくまっすぐに育ったといえるだろう。

 そんな父と酒を飲む。 それは固い約束でもあり、俺の目標でもあった。まだ未熟だとしても、一人前だと認められるということなのだから。


 胸の奥がじくじくと酷く痛む。

 ああ、生前を思い出すといつもこうだ。

 俺はその痛みと原因から目を逸らすように、思考を切り替える。


 何の話だったか、そう父の話だ。

 父は剣技においては一切の妥協(手加減はしているだろうけれど)を許さない人、だというのは最近知った。

 というのも俺がまだ喋れない頃、母がいない時にこっそりと寝床に入ってきて『パパ。 パーパ』とすりこんでいた印象が強いからだ。

 ちなみに初めて喋った言葉は『パーマ』で妥協しておいた。 あの時の残念そうな顔は記憶にしっかりと残っている。

 歩けるようになった今になっても、隙を見れば抱き上げてくるようなダダ甘な様子。

 ただ、剣術を教える時だけはその甘さも鳴りを潜めている。

 今思えば、母の心配するような目は父のこれをよく知っていたからかもしれない。


「よっと」

「ぅ、わっ」

「ん、よし。 じゃあしっかり捕まってろよ」


 そのまま俺は抱きかかえられ、父に運ばれる。

 仕方がなしに俺は父にしがみつき、なるべく下を見ないようにする。

 まだ身体の出来ていない俺は、指導後は大抵こんな感じで父に運ばれていた。

 楽なのは楽、でいいんだけど。もし落ちたりしたらと考えると少しだけ怖い。


「そういえば、今日も何もなかったか?」

「うん」

「そうか……じゃあ、やっぱり剣じゃないのか。他の武器だったらいいが、もし魔法関連だとしたら酷いもんだ」


 少しばかり憎々しげに呟く父は、俺を落とさないように抑えている手で俺の頭に触れる。

 無骨で大きい手は、その見た目に反して穏やかな手つきで撫でてくる。壊れ物でも扱うかのように丁寧なそれは大変気持ちよく、ナデポとか言われる理由もなんとなく理解できた。

 男だった時にはそんなことはあまり感じなかったし、やっぱり女の身体だからなのだろうか。

 好意を持ってなければあまり意味は無いと思うが。


「他には何かあるか? 例えば、人の能力が見えるとか……」


 その言葉に首を左右に振る。

 父の言うのは『鑑定』というスキルらしい。

 後天的にも手に入れることはできるのだがその場合開放されるのは一部だけで、『祝福(ギフト)』ではその一部を全て掛けあわせたような性能を誇るとの噂だ。

 それ以外にも幾つかの例をあげてみるが、どれも当てはまらなかった。


「うーん……わっからんなぁ」


 そう言って頭を悩ませる父。

 そんな父に心の中で小さく謝る。

 実は俺には、自分の『祝福(ギフト)』が何であるか予想はついている。

 というか確信していた。


『遊んで!』

「おっ?」


 下から声が響く。

 聞き覚えのある声に下をのぞき込むと一匹の茶色い子犬が人懐っこそうな顔をして尻尾をはちきれんばかりに振っていた。

 その犬の口が開くと同時、またその声が聴こえる。


『遊んで!』

「今日も来たのかお前。リリィ、大丈夫か?」

「……うん。下ろして」


 そうして俺が降ろされるのと同時、我慢できないとでも言うように俺に飛びかかってくる。

 いくら子犬とはいえども俺の身体も小さく、その勢いに耐え切れないで尻もちをつきながら後ろに倒れた。


「わっ、ちょっ……」


 顔を舐めようとしてくるのをなんとか抑えつつ、上半身だけを起こしあげる。

 隙を見てわしっ!と子犬の脇を掴んで持ち上げた。

 へっへっへっ、と舌を出しながら息をする子犬は動きを封じられたのを意にもせず、口を開く。


『リリィ、もっと遊んで!』

『ちゃんと遊ぶから、ちょっと休ませて』


 言葉を合わせて返す。

 きっと父には「わんわん、わんわん」と言っているようにしか聞こえないだろう。 その証拠に父の口から笑みがこぼれていた。

 これが俺の『祝福(ギフト)』。

 犬だけじゃなくて、猫も鳥も、人も。恐らくだけれど、一定以上の知能ある生き物の言語を理解し、使いこなす事ができる。そういうスキル。


 ……うん。確かに、便利だとは思う。これのお陰で情報収集も楽に出来たし、いろんなことをろくに動けない頃から知ることが出来た。

 しかし。しかし、だ。あの時も思った(最も、あの時は仮にこれが神様がくれたものだと仮定したら、だった)けれど、やっぱりもっと別のものがある筈だ。

 男の身体が良かったと今更我侭はいわない(実際に目の前に神様がいたならいってしまうだろうが)。けど、魔法を犠牲にするにはあんまりじゃないかと!

 実は『代償』だけしかありませんでしたーとかよりはよっぽどマシだが、それにしたって魔法を犠牲にするほどじゃないと思う。


「それじゃあリリィ、パパは先に戻ってるからリリィも程々にな」

「うん、わかった」


 短く答えて、俺はまた子犬と向き合う。

 未だ名もない子犬は俺の苦悩を知ってか知らずか可愛らしく首を傾げている。

 それを見て俺は、これまでにないほど盛大なため息を吐くのだった。

 千智です。

 感想、質問などは(今はあまりないでしょうけれど)随時受け付けております。

 それではこれからもよろしくお願いしますです。

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