XX 未来における、学園寮のとある一室にて
一通りテオと村で過ごした日々を語り、一息つく。
指折り数えてみるが、うん。これで殆ど全部だ。
殆ど、というのは私が生まれ変わったということを除いてだ。それ以外は赤裸々に、全部語らせてもらった。
「大体、こんな感じだったと思う」
「ほほう、ほほう」
女の子座りをして身を乗り出すカエデは、鼻息を荒くしながらも私の話に頻りに感心したように頷く。
それほど面白い話だとは本人からしたら思えないのだけど、他人からしたら面白いものなのだろうか。
視線を横にずらすと体育座りをして枕を抱きしめているルーナが顔を少しばかり赤くしてぴこぴこと耳を動かしていた。
触りたいな……
湧き出てくるその気持ちをぐっと堪え、彼女に話題を振る。
「テオの話聞いて、ルーナはどうだった?」
「わふっ!? あっ、いやっ、えっとっ、そのっ……テオドール君は格好いいなぁ、と……」
「えーどこが? テオのしたことってリリィの弱みにつけこんだぐらいじゃない?」
「そっ、そんなことないよっ!」
ルーナは抱きしめていた枕を放り投げて、意気揚々と立ち上がって力説する。
「一度逃げたら戻ってくるのにはそれ以上の勇気が必要なの! それなのにテオドール君はリリィちゃんを助けるために戻ってきたんだよ! それって、とっても凄いことなんだよ!!」
「お、おう……あなたがそう思うなら、そうなんじゃないの……?」
ぐっ、と拳を握りしめて叫ぶルーナに、カエデはたじろぐ……というか引く。
恋する乙女は強し。色んな意味で。
ルーナは私とカエデの反応にハッと正気に戻り、ぽすん、とベッドの上に今度は正座して座る。
「しっかしテオも罪な男ねーリリィにしか眼が行ってなくてこんなかわいールーナちゃんを蔑ろにするなんて」
「わふっ」
つんつんとカエデに言葉と肉体的に突かれるルーナは可愛い声を上げた。
それにほんわかと癒やされつつ、話を続ける。
「カエデはいつも言ってるけど、テオが私を好きっていうのも違うと思う。どちらかといえば……兄妹として?」
「いやいやルーナには悪いけどテオは絶対リリィのこと好きだと思うわ。彼氏とか作ったらすっごい嫉妬するタイプよ、あれ」
「うん、私もそう思う。だってリリィちゃん可愛いもの」
「ルーナのほうが可愛い」
「う……うん、ありがと……」
間髪言わずに断言すると、ルーナはぽんっ、と頭から煙を吹きそうな勢いで赤くなる。
ああもう、本当に可愛い。家に持って帰って、マルタと一緒に抱き枕にしたい。
「ルーナ、一生私の抱き枕になってほしい。そうしたら今よりもテオの近くにいられる筈」
「わふっ!? えっ、ええっ!? そっ、それってどういう!?」
「はいはい、ルーナが可愛いのはわかるけど、そういう悪質な冗談はやめなさい。リリィの冗談はわかりづらいから」
冗談じゃないんだけど。
けどこれ以上言ったらルーナが卒倒してしまいそうな気がするし、ここは自重しておこう。
「それじゃあ、明日も早いしそろそろねよっか。本当、リリィが一人部屋になってよかったよねー」
「前だってカエデと二人部屋だったし、結局変わらないと思う」
「わかってないわね、こういうのは気分よ気分」
「カエデちゃんは相変わらずだね……」
「それじゃあリリィ、明かり消してー」
「ん、わかった」
私は傍らにあった本の該当ページを開き、魔力を注ぐ。
すると昼間相当の明るさを放っていた光球が段々と小さくなっていき、淡いオレンジ色の光を放つようになった。
そして本を机の上へと瞬間移動させる。暗闇の中、ぽん、と小さな音が聞こえた。無事に定位置についたようだ。それを合図として、三人並んでベッドに横になる。
一人じゃとても広いベッドも、三人となるととても狭く感じる。だけどそれもまた心地良い。
「それじゃ、本日最後はルーナが思うテオのいいところを全部聞いちゃいましょうかねー」
「わふっ!?」
「ほらほら、とっとと喋る! じゃなきゃそのおっきい胸もんじゃうぞー更に大きくしちゃうぞー」
「そっ、それはダメ!」
騒がしい部屋の中、私には早速微睡みが襲ってきた。
ルーナの恥ずかしさが混じった告白を子守唄として、私はゆっくりと眠りにつく。
こうして、今宵のパジャマパーティーは閉幕するのだった。
……万が一。
万が一、テオが本当に私のことを好きだとして、告白とかしてきたとしたら。
その時、私は一体どうするのだろうか。
友達として断るのだろうか。それとも愛を感じて受け容れるのだろうか。
或いは――
「……なんて、ね」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、闇に紛れて消える。
なんにしてもそういったことを考えるなど、あの時から数年を経た今となっても出来なかった。