あの人は誰
うまくいかない。全然うまくいかない。
全部リセットしたい。
今までの自分、やってきた事、全部きれいに丸ごと消してしまいたい。
どうせ消すなら、それを俺にくれ、その人は言う。今までのだめなお前、そのお前のしてきた事、全部くれ、その人は言う。
僕は喜んであげるのだ。そんなものいらない、と言って、ゴミが減ってよかったと笑うのだ。
でもあの人にあげてしばらく経って、愚かな僕はようやく自らの過ちに気付く。
過去の自分、今までしてきた事、全てが土台となって、手を伸ばす事が出来る世界がある事。その土台はどんなに醜くても、立派な僕の踏み台なのだ。
僕はあの人に言う。
返して欲しい、とわがままを言う。
あの人は笑う。奪えるものなら奪ってみろ。お前の捨てたものは、お前が思っているより大きいぞ。お前には取り返す力も、持ち帰る力も無いだろう。
でも僕はどうしても取り返したかった。
だから、またやり直したんだ。
始めから全部、ゼロからスタートしたんだ。
そして、僕はあいつからあの土台を取り返した。
その日、僕はあの醜い土台を心から愛する事が出来たんだ。