とあるアパートの怪
こんな話を聞いた。
坂水は、大学入学とともに引越しをすることにした。
夢の一人暮らしだ。
でもまあ、貧乏なので安い物件を探し、住宅地にぽつんと建つ古いアパートの一階を借りた。
アパートは外階段で、2階建て 各階は4部屋ずつ。
入って右側に簡易キッチン、左にトイレ。その部屋に更に奥にもう一部屋。突き当りには大きな窓。
ただし風呂は無し。でも徒歩10分ほどに今時銭湯がある。
一人暮らしには充分で、なんでこんなに安いのか、不思議なぐらいだ。
102号室が坂水の新しい城になった。
大学に通いはじめ、高校時代の友人も含め多くの知り合いが出来た。
「俺一人暮らしなんだ~。」などと気軽に話したりもした。
「いーなー」とか「家事がめんどそう」とか言われつつも楽しい気分だった。
ただ、地元の鳥丘だけが、場所を話した時 一瞬何とも微妙な顔をしたことが心に引っ掻かかった。
・・・本当は、少し気になる事があった。
夜、何か変な音がする。低い何かのノイズのようにも聞こえる小さな音
だがそれ以上に気になるのは、家鳴りなのか、ミシリ、ミシリ、という音・・・いや、音ではないのかもしてない。寝ようと横になると不思議な圧迫感を感じるような、上から音がするようなそんな感じがするのだ。
一人暮らしの不安と、上の住人の生活音だと思っていた。
なのに、鳥丘のあの表情
まさか事故物件なのか?妙に安いし。
不安は日ごとに増えていった。
そして、唐突に気が付いた。
このアパートで住人を見た事が無い・・・人の出入りは見かける事がある。だがその日のうちに出ていく。泊まってる人を知らない。
焦燥と不安、恐怖。
夜ごとの音が気になってしかたない。
すべての部屋が埋まってるハズなのに、ここは、何が起きているんだ?
不安から2階の窓を見上げる。
202号室と203号室は遮光カーテンが引かれてるのか窓は真っ暗。
いや違う。202号室の窓は あれは板を打ちつけてあるんじゃないか?
目の前が暗くなるような気がした。息が荒い。
・・・鳥丘は、何かを知ってるんじゃないのか?
振るえる足で表に戻ると203号室に入る人が見えた。
このチャンスを逃してはいけない!
203号室から出てくるのを待った。
長い、時間に思えた。実際には15分ほどだった。
必死に話しかけ、203号室について尋ねた。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
なんて事は無い、サーバーが置いてあるんだと。
その人は小さい会社の社員で、毎日チェックに来てる。
はー、なんか気が抜けた。
そうか、あのノイズのような音は単にその音が夜になると静かになるから聞こえてただけ。なんて馬鹿馬鹿しい事に怯えてたんだろう。
他の部屋もきっと似たような事なんだな、あー馬鹿らし。
今日から安眠できる。穏やかな気持ちで寝床につけた。
夜中に目が覚めた。なにかを感じる。
焦りと恐怖? 家鳴り・・・不快ではない、不吉なんだ。今すぐ逃げたい。
謎の衝動に苦しめられた。
鳥丘に話を聞こう。何か知ってるはずだ。
聞けばきっと安心できる。くだらない理由なんだ。
朝早くから大学に行き、鳥丘が来るのを待った。
鳥丘が 口外しない、不動産屋にクレームを付けないことを条件にしぶしぶ話してくれた事を聞いて一刻も早くアパートを出ることを決めた。
今の不動産屋は信用できない、違う所で探そう。
その日から必死に探し、アパートには帰らず友達の家に泊めてもらった。
俺は とんでもない恐ろしい場所で寝てたんだ。
事故物件なんてそんな生易しいものじゃない、命に係わる場所に。
鳥丘の話はこうだった。
まず俺が102号室に住んでる事に驚愕し、もっと早く話すべきだったと謝ってくれた。
202号室は、鳥丘の兄の先輩の先輩が借りているという。
話に聞いただけで実際見たわけじゃないけど、あそこは本棚なんだ。
ちょっと行き過ぎた本好きな人が、本の保管用にきちきちに本棚を並べてぎっしりと本を並べ、エアコンを24時間付けている場所だと・・・
ミシリ、ミシリは たぶん床がたわんでる音じゃないかな・・・古いアパートだから、そろそろヤバいのかも。
兄にこの事伝えておくから!一階が空いたら移った方がいいって。本当に悪かった!
これが俺の恐怖体験。
上の部屋がどんな部屋かなんて普通知らないよな。
でも、誰の上の起きるか判らないことだよ。