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ここは恋文専門郵便局 ーあなたの恋、届けます。ー  作者: 藤原ゆう
2.秘密の恋、届けます。
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4.契約

長い廊下を歩いている間に、何人かの人とすれ違った。


玄関にいた衛兵と同じ軍服を着た男性や、飾りのないシンプルなドレスを着た女性など。


彼らは皆一様に、カールに挨拶しては、コトハに好奇の目を向けて行く。


一度などは、明らかに睨んできた女性もいる。


(ああ、怖い……)


コトハはなるべく目立たないように、カールの陰に隠れるようにして歩いた。


「ここが、俺の部屋だ」


そう告げられた時は、どんなにホッとしたか。


しっかりとした木製の扉を開け、カールは先にコトハを中に通した。


中は広々としてはいたが、調度はベッドとテーブルと椅子、そしてクローゼットだけの、至ってシンプルなものだった。


「部屋では寝るだけだからな」


言って、カールは肩をすくめた。


暖炉には湯が湧いていて、カールは手際良く急須に湯を入れると、コトハに椅子に座るよう促した。


「そんなとこに突っ立ってないで。取って食いやしないからさ」


「当たり前ですっ」


けれど彼には前科がある。

コトハは警戒心を解かないで、椅子に座った。


「どうぞ」


それを見計らったように、カールは品のいいカップにお茶を淹れ差し出した。


物腰はさすがに貴族。優雅だった。


カールは自分もゆっくりとお茶を味わうと、コトハを見た。


「さてと。落ち着いたところで、本題に入ろうか」


「本題?」


「君を城に入れてあげる代わりに、条件があるって言っただろ?」


(そういや、そうだった……)


城に入れたことに気を取られ、すっかり忘れていた。


「これは契約だ。君が城にいる間、俺は全面的に君を守る。その代わり、今夜の舞踏会に俺の恋人として出てくれ」


「……な、なんですと?」


「簡単なことだ。俺の隣でちょっと愛想笑いを浮かべてくれてたらいいんだ」


「い、いやです」


「いや?」


「だって、好きでもないのに恋人のふりなんて。わたし、そんなこと出来ません!」


「なら……君を城に置いておくことは出来ないな。俺の庇護がなければ、君はただの不法侵入者だ。すぐに衛兵に捕らえられるだろう。俺の命令でね」


ニヤリと笑うカールを、コトハは呆然と見返した。


「恋人のふりなんて、今夜だけだ。舞踏会が終われば解放してあげる」


「舞踏会……」


「当然、王女もお出ましになる」


その一言で、コトハの心は大きく揺らいだ。


「王女さまも?」


「そう。今夜は王族主催の舞踏会だからな。俺はこのためにわざわざ国境から戻って来たんだ」


「……」


王女さまも出る舞踏会。


チャンスはこの時しかない。それはコトハにもよく分かった。


「分かりました。でも、でも、半径1メートル以内には近づかないでくださいね」


カールはくくっと笑った。


「それじゃ、恋人にならないだろ。腕を組むんだ。がっつり密着するさ」


かあと顔が赤くなるのが分かった。


「じゃ、じゃあ、キ、キ、キ、キスは絶対なしですよ」


必死に予防線を張るコトハだったが、一枚も二枚も上手のカールには通用しない。


「それも……保証できないな。酒が入れば、どんな女でも可愛く見える」


「最低ですね」


「よく言われる」


「……」


むーんと口を尖らせるコトハを尻目に、カールはまた肩を震わせ笑っていた。


「じゃあ、契約成立ということでいいんだな?」


「……腕組むだけですよ」


「努力しよう」


「……腕組まなきゃいけないんですか?」


「しつこい」


「……分かりました」


かなりしぶしぶだった。


「ふむ。それじゃ、その格好で舞踏会に出るわけにもいかないな。さっそく支度に取り掛かろう」


思い立ったら、カールの動きはかなり早く、すぐに女官が数名やって来た。


「この子を、今夜の舞踏会で一番の姫君にしてくれ」


そんなの無理です!


反論する間もなく、コトハは女官に別室に連れて行かれた。


「初めまして。コトハさま。わたくし、カールさま付きのハンナと申します。今からドレスを仕立てるのは無理ですから、王宮の貸衣装がございます。これが何とか合えばいいのですが……」


それからコトハは取っ替え引っ替え、まるで着せ替え人形のようにドレスを着せられた。


ようやくハンナのOKが出た時には、コトハはぐったり疲れていた。


「カールさまがエスコートされる以上、宮廷一の花にならなけば。さあ、次はお化粧ですわ」


(ああ!お姫さまになるって、た〜いへ〜ん……)


もうコトハはされるがまま、女官たちに解放されるまで、無我の境地に至っていた。







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