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ここは恋文専門郵便局 ーあなたの恋、届けます。ー  作者: 藤原ゆう
2.秘密の恋、届けます。
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2.王城前広場にて

前回の失敗を元に、コトハは慣れない裁縫で肩掛け鞄を作り、その中に王女宛の恋文を入れて意気揚々と王都に向かって出発した。


縫い目はガタガタだが、間近で見なければ分からない。


初めて雑巾以外の物を作ったにしては上出来だろう。


その鞄を体の横で揺らしながら、コトハはいつもよりも早いペースで歩いていた。


さっさと片付けなければ夜になっても帰れなさそうだったし、何より、気分が高揚していたせいもあるだろう。


(主さま、どんなサポートしてくれるのかな)


もっと詳しく聞いておけば良かったと、少し後悔していた。


だけど、聞いても答えてくれたかどうか怪しい。


(だよね。主さまだもん。教えてくれないよね)


主さまについての考察を繰り広げているうちに、王都へ着いてしまった。


いつもの門兵に手形を見せ、難なく門通り抜けると、そこからは王城まで真っ直ぐに伸びる大路を行けばいい。


(アウルは……今日はいないのかな)


広場の端に並ぶ露天に目をやったが、彼の姿を見つけることは出来なかった。


仕方ない。いつも彼を頼っていては、本当にいつまで経っても、一人で何も出来ないままだ。


コトハはアウルを探すのを諦め、大路を歩いて行った。


大路は凄い人出だった。


祭りなどがあるわけではなく、いつもこんなに人が多い。


それは、ここが王都の目抜き通りだからで、いろんな種類の店が並び、王都の住人も旅人も、皆この通りに集まって来るのだ。






そんな人波を掻き分けるように歩いて、コトハはやっとの思いで城門の前に辿り着いた。


そこは観光地になっているようで、大路ほどではないにせよ、旅装の人や家族連れなどが多かった。


(さあ、どうしよっかな)


主さまの言っていたように、城門は数人の警備兵にがっちり守られていて、とてもじゃないが、コトハの力でどうにか出来るとは思えなかった。


(うーん。壁を乗り越えるなんて、そんなこと出来っこないし)


あれ。やっぱり無理なんじゃない?


コトハは大き過ぎる城を前に立ち尽くしていた。







そんなコトハを遠くから見つめる人物がいた。


「なんだか毛色の変わった子がいるねえ」


その人はさも楽しげに笑った。


じっと城門を睨んでいる少女。


いったい何を思って、あんなに城を見ているんだろう。


「声、掛けちゃおっかなあ」


軽く言って、彼は一歩一歩、ゆっくりコトハに近付いて行く。


そして、彼女の真後ろまで来ると、耳元に口を寄せた。


「ねえ。僕と遊ばない?」


少女はビクッとして振り向いた。


彼は一層満面の笑顔で彼女の反応を楽しんでいる。


少女は固まったまま、動かなくなってしまった。


「あれ?おうい。どうしたの?」


彼は彼女の目の前で手をひらひら振って見せる。


「気を失っちゃったの?まさか」


こんなことなら声をかけなければ良かった。


彼がそう思った時、背後に気配を感じて振り向いた。


「誰?」


「失礼。その子の雇い主です」


思い切り不機嫌な顔の男だった。


(ああ、なんか面倒くさい……)


そう思った時、不機嫌な男は、その表情に見合った低い声で、


「カール・モンティーノ卿ですね」


「何故、俺の名を?」


こんな不機嫌そうな男、一度見たら忘れない。


と言うことは、彼とは初対面だ。


怪訝そうに見返すカールに、不機嫌そうな男は微かに微笑んだ。


男のカールが見ても、ドキリとするような微笑み。


(なんだ、こいつ)


「その子をしばらく、卿に預けてもよろしいか?」


「はあ?何言って」


「その子を城に。王女さまの元へ」


「……俺は、関係ないだろ」


「あながち、そうとも言えません。どうか、その子の願い、叶えてやって頂けませんか?」


男の漆黒の瞳が、抗うことを許さない。


カールは、無意識のうちに頷いていた。


男は満足そうに会釈すると、来た時のように、音もなく去って行った。


ハッとして、我に返る。


頭がぼんやりとして重たかった。


「あの……」


下の方から、戸惑った声がした。


見下ろすと、あの子が不安そうにカールを見上げている。


「城に入りたいなら、俺が入れてやるけど。俺の条件を飲めば、ね」


少女がコクリと喉を鳴らした。


この状況を把握しきれないでいるらしい。


(俺だって、そうだ)


たった今。この子じゃない誰かと話していたような気がするのに、思い出せないなんて。


何だかモヤモヤとして、気持ち悪かった。


「条件て、何ですか?」


少女が思い切ったように、そう言った。








「やれやれ。あなたは割と過保護だったらしい」


建物の陰から、笑いを含んだ声がした。


「うるさい」


物陰から出て来たのは、流れるような金髪の男だった。


とても整った顔をしていて、通りすがりの女の子が振り返っては、顔を赤らめ去って行く。


「お前こそ、なんでこんな所にいるんだ」


「少々、騒がしくなってきましてね。あっちや、こっちが」


「……」


「もう少し急いで頂ければ、ありがたいんですが」


「そっちの都合だけで言うなよ」


「あの子のために力をお使いになったということは、あなたもやる気にはなっていらっしゃるのでしょう?だったら、お分かりのはず」


「……」


「お願いしますよ」


「分かってる」


短い答えだったが、金髪の男は満足したようだった。


「それでは、また……」


そう言って、姿を消した。


「ったく。言いたいことだけ、いいやがって」


また元どおりの不機嫌な顔になって、漆黒の男は人混みの中に紛れ、すぐに姿が見えなくなった





そこから少し離れた場所に停めてあった馬車に乗り込む二人がいた。


その二人とは、カールとコトハ。


二人を乗せて、馬車がゆっくりと動き出す。


それは警備兵に止められることもなく、城門の中へと入って行った。






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