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ここは恋文専門郵便局 ーあなたの恋、届けます。ー  作者: 藤原ゆう
3.鬼畜の恋、届いてます。
19/42

1.夏です。

「暑い……」


コトハは居間の椅子に座り、その辺にあった厚手の紙を団扇代わりにあおいでいる。


「暑いわあ……」


チュニック風の服は半袖に変わっていたが、前の袷は着物と同じでかっちり首元を締め付ける。だから、コトハは襟元を少々だらしなく肌蹴させていた。


ない胸だから、一向に気にならない。


(この世界にも季節があるんだもんねえ)


けれど元の世界にはクーラーという文明の利器がある。


こちらには扇風機すらない。元より科学的な発達は期待するだけ無駄のようだった。


少しずつ分かって来たことだが、この世界にはなんとファンタジーな萌え要素。“魔法”が存在するみたいなのだ。


主さまが王城に突如現れたのも、彼が魔法の使い手だかららしい。


だからと言って、その力を皆が皆使える訳でもないようで、使い手はごく少数のようであった。


(主さまって、ほんと謎……)


魔法について、主さまに詳しく聞いたわけではない。


聞いたところで、彼が答えてくれるかどうか甚だ疑問だった。


「お前は知る必要ない」と言われておしまいのような気がする。


だからコトハは、主さまに“魔法”の話題を振りたくても出来ないでいた。


不機嫌で、怖くて、かと思えったら、時々見せる優しさにキュンとさせられて。

(不思議で、よく分からない人だけど、いい人には違いないんだよね……)


それにしても、暑い。


「おい。お前。その体たらくは何だ?」


「キャッ」


突然降って来た思い切り不機嫌な声に、コトハは思わず椅子から転げ落ちた。


「あ、主さま……」


「だらけ過ぎだな」


「だって、暑いんですもん。主さまは暑くないんですか?」


彼は季節を問わず黒いマントを羽織っている。


それが魔法使いらしいと言えば、とてもらしいのだけど。


「ふん。お前と一緒にするな」


そう言うと、主さまはコトハに頭の上にポンと何かを乗せ、「お前は配達に出て何をしているんだ?」と呆れ声で言った。


「え、何って、配達ですけど……」


「の、割には、配達が終わると、お前宛の恋文がやって来る」


「ええ!?」


頭に乗せられたものを手にすると、それは確かに恋文だった。コトハ宛の。


「わたし、何もしてませんよ~。主さま」


「きっちりかっちり配達していれば文句はないんだ。じゃ、渡したからな」


「主さま。これ、差出人が書かれてないんですけど」


「私は配達員のプライベートには干渉しない。それをどう扱うかは、お前の勝手だ」


見放された感たっぷりで、コトハは恋文を手に主さまが居間を出て行くのを恨めし気に見送った。


「差出人不明の恋文かあ」


何となく気持ち悪いなあ。


どこかに差出人が書かれていないかと、もう一度よく見てみたが、やはりどこにも見当たらない。


「ええ。どうしよう……」


そうだ。

こんな時は彼に相談だ。


幸い今日は配達もないみたいだし、それに買い出しにも行かなくちゃ。




暑い夏の昼下がり。


コトハは自分宛の恋文を手に一路王都へ。


そして、彼女の人生最大級と言ってもいいくらいの事件に巻き込まれることになる……。

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