13.後日談
「で、過保護なあなたは、うっかり現場まで赴いた上に、その絶大なる力を振るったと。そういうことですか?」
「うるさいぞ。ハーネスト。過ぎたことをいつまでもネチネチと」
金髪の美貌の青年はくすっと笑うと、「そんなに大事かあ。あの子のこと」と、さらに火に油を注ぐようなことを呟いている。
「ハーネスト」
「だって、今までの子たちがいくら窮地に陥っても、あなたは力を使わなかった。そうでしょ?」
「それは……あいつがあまりに頼りないから」
「それだけ?」
「他に何がある」
「ゼノやカールがあの子の傍にいて、いら〜とすることない?」
「あるか。そんなもん」
不機嫌に言い放った主さま。
ハーネストと呼ばれた美貌の青年は楽しそうに笑っている。
「主さま」
扉の向こうでコトハの声。
「ああ。入れ」
ノブが回った。その時、ハーネストの姿が欠き消えた。
コトハが居間に入った時には、主さましかおらず。
お叱り覚悟で、コトハビクビクしながら椅子に座った。
しばらくの沈黙。
この間が怖い。
「まあ、いろいろ言いたいことはあるが。結果良い方向に進んだということで、今回は許してやる」
「え?」
「なんだ?」
「い、いえ……。ありがとうございます」
「ああ。お前の仕事は配達だ。それを逸脱するのは、これで最初で最後だぞ」
釘を刺すように言う主さまに、コトハは首が取れそうなくらいに頷いた。
「それから、これを」
「仕事ですか?」
主さまは二通の恋文を取り出した。
「いや。いずれも、お前宛だ」
「え。ええ!?」
手に取って見れば、一通はゼノ王太子から。そして、もう一通はカールからだった。
「お前は仕事の合間に何をしているんだ?」
二通の恋文を出したあたりから、明らかに主さまが不機嫌になっている。
「何もしてませんよ〜」
「恋文をもらってしまうような、何があった?」
「何もないです〜」
やっぱり主さまに怒られるんだ。
コトハは二通の恋文を恨めしげに眺めるのだった。
…
何とか主さまから解放され、庭に出て恋文を読むことにした。
(何が書いてあるんだろう)
心なしかドキドキしながら封を開ける。
王太子の恋文の内容も、カールのそれも。
どちらも似たようなものだった。
王女が旅立って以降の事後処理もが無事に終わったことと、身体がを労わるようにということと。
「なんだ。恋文じゃないじゃん」
半ばがっかりしながら、ホッとしている自分もいた。
(そりゃ、そうだよね。二人がわたしに恋文なんて。主さまが言うから本気にしちゃったけど。あの二人がわたしに恋文なんて、ありえないよ……)
ゴロンと芝生の上に横たわる。
今日も空は青く、爽やかだ。
あのあと悲鳴をあげた足首も、すっかり良くなった。
あと二・三日もすれば、主さまがが新しい仕事をくれるかもしれない。
そんなことを思いながら、コトハはうとうとし始めた。
二通の恋文が風に飛ばされたが、彼女は気付かない。
恋におくてなコトハは、その文脈に見え隠れする男の情念を垣間見ることも出来ず。
ただ、惰眠を貪るのだった。
王女が行方しれずになってひと月。
城はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
王女の嫁ぎ先となっていた国からも承諾を得、カールが憂いていた事後処理も終わったようだ。
表面上は何事もなく過ぎたように思える、王女の失踪。
けれど、やはり、それは小さな棘となって、王室に刺さり続けるのだった。