表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは恋文専門郵便局 ーあなたの恋、届けます。ー  作者: 藤原ゆう
2.秘密の恋、届けます。
12/42

7.城内おにごっこ

もうすぐ玉座という所で、コトハは足を止めた。


ずきずき鈍い痛みを感じる足首と、空腹。


状態は良くない。


談笑する男女のグループに紛れるように、コトハはカップケーキを一つ手に取った。


それに、ジュースもコップ一杯飲んで。


とりあえず、これで少しおなかも落ち着くだろう。


ふうと息を吐いて、コトハは玉座の方を見た。


「え!?」


突然声を上げたコトハに、そこにいたグループ全員の視線が集まる。


「どうしたの。この子」

「さあ。どこの令嬢だ?」


怪訝そうに見ている一人に、コトハは詰め寄った。


「王女さま!今までいたのに、どこに行ったんですか?」


「王女さま?ああ。ユリア・ロゼットさまか。あの方は体調が優れないとかで、いつもすぐに退室なさるんだ。君、そんなことも知らないの?」


「そ、そんな……」


ここに来て、見逃すなんて……。


「あ、でも、まだあそこにいらっしゃるわ」


令嬢が指差す方を見ると、王女はテラスに通じる開き窓の前で、扇子で顔を覆いながら女の人と話していた。


「あなた。王女さまと話すつもりなの?無理だから、諦めなさい」


「でも、行かなきゃだめなんです」


そうして、また片足を引いて歩き始めるコトハを、彼らは呆れたように見送っていたが、やがて興味を失ったのか、また雑談に戻ってしまった。


コトハは少し歩いて止まってしまった。


ここで王女に恋文を渡せないことに気付いたのだ。


秘密の恋文を衆目に晒すことは出来ない。


(どうしよう……)


カールがいれば何か良い方法を考えてくれただろうに、今彼はここにいない。


己の浅知恵だけで、ここは乗り越えなくてはならないのだ。


逡巡していると、王女がこちらに向かって歩いて来るのに気が付いた。


後ろには何人もの女官を従えている。


(うわ。どうしよ)


コトハは咄嗟に側の衝立の陰に飛び込んだ。


目の前を王女がゆっくり通り過ぎて行く。


その気配を感じながら、彼女は息を殺して隠れていた。


王女が出ていくと、大広間はまた元のざわめきを取り戻した。


(廊下。そうだ、廊下で渡せばいいんだわ)


コトハはあとを追って大広間を出た。


王女ご一行は、すでに向こうの廊下の角を曲がろうとしている。


(足、速いな)


コトハは痛む足を引きずりながら懸命に歩いた。


近いようで、遠い。


全然近付けない。


けれど、諦めることは出来ない。


これは仕事。


主さまの厳しい顔が脳裏に浮かぶ。


廊下の先は渡り廊下になっていて、夜の帳が下りた吹き抜けの廊下を、夜風が吹き過ぎて行く。


コトハはその風に当たって、小さく身震いした。


(寒いな)


悪寒が止まらない。


(あれ?わたし、もしかして……)


自分の額に手をやってみた。


(なんだ。びっくりした。熱ないや)


ホッと息をついて、渡り廊下を渡り終えた。





その先の廊下は今までとは景色が一変した。


これまでは割と殺風景で、石壁が剥き出しだったり、所々に騎士の彫像が置いてあったりした。

が、こちら側の廊下は、色とりどりの糸で織られたタペストリーが掛けられ、季節の花々が花瓶に生けられ、美しい絵画が飾られていた。


(凄く綺麗……)


絵画はどれも風景が描かれているもので、山の景色や海の様子など、自然を題材にしたものばかりだった。


同じタッチで描かれているから、同一人物の作品だろう。


淡い色使いに、緊張がほぐされて行くようだった。


「素敵……」


思わず声に出して言ってしまい口を抑えると、「どうもありがとう」と背後から声がした。


「え!?」


振り向いた途端、コトハは硬直した。


「ここにあるものは、全て私が描いたものなんだ。気に入って貰えて嬉しいよ」


にっこり笑うその人は……。


「誰……?」


誰って、怪しいのはコトハの方だ。


(どうしよう。見つかっちゃった……。こんな……超絶美形さんに!!)


カールも美しい。


アウルも恰好いい。


主さまも綺麗だ。


けれど、この目の前の人は。


他者の追随を許さない。まさに神懸かり的な美しさを誇っていた。


加えて、たっぷりとした正装の上からでも分かる、逞しい肢体。


コトハを上から見下ろすような美丈夫。


(この人、ほんとに生きてんだろうか)


まさか神が降臨したわけでもあるまい。


けれど、それ程に、その人は美しかった。


「君がユリアを追いかけて行くのを見かけたから、私は君を追ってみたんだ。

鬼ごっこだ。君を捕まえたよ」


その人は楽しそうに笑っていた。


コトハはそれどころじゃない精神状態だというのに……。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ