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ここは恋文専門郵便局 ーあなたの恋、届けます。ー  作者: 藤原ゆう
2.秘密の恋、届けます。
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6.一人だって平気だもん……たぶん

大広間から続く控えの間に、カールはコトハを運び入れた。


そこには応接セットや食器棚などがあり、ここでも十分パーティが出来そうだった。


カールは長椅子にそっとコトハを下ろすと、「ごめん」とまた言った。


「カールさまが謝らないでください」


「守るって約束したのに、怪我をさせてしまったんだ。謝るよ」


「カールさまは十分守ってくれましたもん。このくらい平気です」


「……」


「カールさま?」


カールの藤色の瞳が切なげに揺れている。


「カールさま?」


「ああ。足、見せてみろ」


その揺らめきを隠すように、カールは目を伏せた。


「大丈夫ですって」


「お前の大丈夫はあてにならない」


言って、カールはコトハの足首を掴んだ。


「ちょっと、カールさま」


恥ずかしさで顔を赤らめるコトハを尻目に、カールは彼女の足首をまじまじと見ている。


「やっぱり、少し腫れてるな。氷持ってくるから、大人しくしてるんだぞ」


「え、行っちゃうんですか?」


「ん?」


「また、あのバーバラさんがここに来たら……」


「……分かった。でも、ちょっと待ってて」


カールはコトハを安心させるように微笑んで部屋を出て行くと、コトハが不安に思う間もなく帰って来てくれた。


「平気だったろ?氷は給仕の子が持って来てくれるから。少し待ってて」


「うん」


カールは優しい。

きっとそんな所も、女の子に人気のある所なのだろうけど。


まだ心配そうにコトハの足を見比べて腫れの具合を確認しているカールを、コトハはほっこりとした気分で見つめていた。


ややして給仕係の少年が氷を持って来てくれた。

ついでに、重そうな鞄を持ったお医者さんも連れて来てくれた。


「やあ。ダブリング先生」


カールは顔見知りらしい。

軍人である彼が、医者と知り合いでも不思議はないけれど。

ダブリング先生は、随分お年のようだった。

カールによれば、現国王誕生の際、お産に立ち会ったのもこの先生だったという。


(ひえ~。すっごい昔)


それでも先生は年を感じさせない目付きで、コトハの足を丹念に見ている。


「ふむ……。軽い捻挫じゃが、無理をすれば悪化するじゃろうな。よく冷やして、しばらく……そう二・三日は安静にしておるように。湿布と痛み止めの薬湯をあげておこう。舞踏会が終わるくらいまでは、氷でしっかり冷やすように」


「はい。ありがとうございます」


控えていた給仕係の少年にも、しばらくしたらもう一度氷を持ってくるように指示をして、先生は退室した。


続いて少年も出ていくと、コトハは長椅子の背もたれに体を預け、疲れたように深い息をついた。


カールは長椅子のすぐ側に安楽椅子を持って来て座った。


「疲れた?休むといいよ」


「カールさま」


「なに?」


「舞踏会、出られなくなっちゃって、ごめんなさい」


「はは……いいよ。むしろ出なくて良くなって、感謝してるくらいだ」


「嫌いなんですか!?」


「意外?」


「はい。大好きだと……女の人もいっぱいいるし」


「女性はね。嫌いじゃないよ」


「……」


「そんな目して見るなよ。騎士は女性に優しいように出来てるんだ。……でも、俺は、不特定多数の女性より、こうして君といる方がいい」


「え、え、え?」


「だって、コトハ。見てて飽きないからさ。貴族の娘には、君みたいに面白い子、いないよ」


(それは、つまり、わたしが変だと言ってるのですか?カールさま)


一瞬でもドキドキした自分の勘違いが恨めしかった。



その時ほとほとと扉が叩かれた。


「なに?」


少し鬱陶しそうに言って、カールはそちらに顔を向けた。


「カールさま。執事のダニエルでございます」


「げっ」


カールはめったに出さないような声を出し、うんざりした顔をしてコトハに視線を戻した。


「どうやら親父が到着したらしい。ちょっと行って来ていいかな。ここには俺の部下を寄越すよ」


「カールさまのお父さま?もちろん、行って来て。待ってる」


カールはコトハの頭をポンと叩いて出て行った。


「ふう」


急にしーんをしてしまった部屋は、なんとなく落ち着かない。


コトハはキョロキョロと部屋の中を見回し、氷の溶け具合を確認しては、また背もたれにもたれて天井を眺めたりしているうちに眠たくなってきて、うつらうつらしていると、突然大広間からファンファーレが聞こえてきた。


「ひえっ」


大きな音にびくっとして飛び起きた。


「な、なに?」


扉越しにも大きく聞こえるラッパの音。

それに続いて、「国王陛下並びに王妃さま、王族方のおなり~!」と誇らしげに宣言する声が聞こえてきた。


(王族方……てことは王女さまも!?)


コトハは思わず床に足をついてしまい、「うう」と呻いた。


「わ、忘れてた……」


仕方ない。ここはケンケンで行こう。


寝ていようとは思わないあたりが、コトハだった。


ケンケンで扉まで行くと、そっと開ける。


「おや。何かご入用のものが?」


頭の上から降ってきた声に声を上げれば、軍服を着た厳つい男性がそこにいた。


「え、えと……」


「あなたがお休みになるからと、大佐から部屋の外で待機しておくように言われていたのです。飲み物がいりますか?それとも食べ物?」


どこまでも、カールは気の付く人らしい。


「あ、いえ。あの……王女さまは、いらっしゃいましたか?」


「王女さま?ああ、ユリア・ロゼット王女殿下ですか?ええ、お出ましになりましたよ。ほら」


言って、カールの部下は大広間の正面の方を指差した。


そこには玉座に座る初老の国王夫妻と、老若男女取り混ぜた王族たちが立っていた。





(どれが、王女さま……)


目を凝らすと、一際美しい女性が目に付いた。


「もしかして、あのふわふわの髪の人?」


独り言のように言うと、カールの部下が頷いた。


絶世の美女というのはお伽話の中にしかいないと思っていたのに、現実に存在するのだとコトハは実感した。


この異世界もお伽話のようなものだけれど。それでも彼女は確かに生きているのだ。


「あんな綺麗な人が……」


グレニー・モンティーノ卿の恋人なのか。


(よし。隙を見て、絶対に渡す)

「あの。飲み物頂けますか?」


遠慮がちに部下に言うと、彼は快く承諾し、給仕係の方へ歩いて行った。


(よし!)


コトハは意を決して、壁伝いに片足を引きながら歩き始めた。


正面から行っても受け取ってはもらえない。

それ以前に、ユリア・ロゼット王女に近付くことすら出来ないだろう。


だから、コトハは人混みに紛れながら、ゆっくりゆっくり王女との距離を詰めていった。


(隙を見つけなきゃ)


王女が玉座から離れた時に。

ダッシュするんだぞ。


「つ……」


足首に鈍い痛みが走った。


痛み止めを飲んで来なかったことを少し後悔したけれど。


もう控えの間に帰っている暇はない。


とにかく、王女の隙を見付けるんだ。


壁に寄り掛かるようにして必死に前へ進むコトハ。


そんな彼女を、嘲笑を浮かべ見守る人物が一人。


ワイングラスを手に、その人はじっとコトハの動きを追っていた。





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