ヒーロー
木々がそびえ立つ森に一人の男が立っていた。
辺りには木と葉の擦れる音と差し込んでくる
光それと森に住まう動物達がいる。
数秒前までビル群と車の音とバレンタインの
時期に流れるアイドル曲が溢れる街中にいた
はずなのになぜかその男はそこに立っていた。
非常にまずい状況だと思っているに違いなか
った。
なぜなら森に住まう動物達とはリスや小鳥な
どの童話にいそうな心休まるモノではなく片
目が腐りかけて眼球が飛び出ている大型犬が
5匹ヨダレを垂らしながら男の前に群がって
いたからだ。
男は走って逃げ出した。混乱している状況で
命の危機に直面する確率が高いと考え体を動
かせただけでも称賛に値する行為だ。
それが正しい判断では無かったが・・・。グ
ロイ大型犬達から逃げ切るスピードを出す事
など人間に出来るはずもなく二、三歩走った
だけですぐに距離が詰められる。もう駄目だ
と思いうずくまった瞬間3発の火の玉が飛び
かかった大型犬3匹に命中して火だるまにな
りながら吹っ飛ぶ。
木々をかき分けながら猛スピードで残りの2
匹の大型犬を剣で切りつける剣士。
剣士が来た方から更に2人の人間が近づいて
くる。
「あなた、大丈夫?」
うずくまった男が顔を上げると3人の女の子
に囲まれていた。
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大型犬に襲われた男の話をしよう。
男の名は樋口輝≪ヒグチヒカル≫16歳の男
だ。お菓子を作る事が趣味のスイーツ男子。
容姿は平均並み、成績は下から数えた方が早
く、運動は平均以下だがバトル漫画やアメコ
ミ映画に影響を受けて空手は習っている。
通信だが・・・。
2月14日、自慢のチョコトリュフを持って
好きな人に告白しに行った。
結果は敢え無く失敗。「そういう事する男、
キモい」の一言で心がズタボロにされて。
失意の内に帰っていると耳障りなバレンタイ
ンの曲が街中から聞こえ自棄になり手に持っ
ていたチョコをゴミ箱に捨てようとすると
「それ捨てるの?」と長身の金髪で碧目の女
性に話掛けられた。少し異様ではあったがコ
スプレなのかな?と勝手に解釈して「そうで
すけど」と答えると「じゃぁ、私に頂戴」と
言われ食べられてしまった。
女性は身悶えるように「美味い」と言った。
ヒカルは嬉しくなりながらも「そんな事ないで
すよ」と答える。女性は何かお礼がしたいと言
い出した。そんなのはいらないと断ったがどう
してもしたいと腕を掴んでくる。
「どんな願いでも叶えられるわよ」
碧目を真直ぐに向けてヒカルを見つめる。
女性の後ろにある道路をアメコミ映画の宣伝
バスが通っていくのが目に入った。
コスプレした女性に触発されなお且つ失恋で
自暴自棄になっていたヒカルは
「ヒーローになりたいです」
そんな痛い発言をしてしまった。
その直後、ヒカルの周りは木々に囲まれた森
になっていた。
そして犬に襲われ、3人の女の子に助けられる。