無責任なアネモネ
アネモネの花言葉:『嫉妬のための無実の犠牲』
※私は民族を差別する行為に明確に反対する立場ですが、
ホームページに書かれている内容は、世界中の誰からも見る事が可能である事、
そして世界中の誰からでもそれを肯定したり反対する意見が言える事、
意図的であるにしろ、無意識にしろネット上で誰かを誹謗中傷すれば、
それは書いた当人が思う以上に広がりを見せる事を強調するうえで、
あえて一部言語をそのまま使用しています。
『お前はプレイングという私の作品を盗作した』
ある日彼のもとに舞い込んだメール。
それは彼にとって身に覚えのない言いがかりであり、当初気にも留めなかった。
プレイング。
それは、彼がかつて参加していた、PBMという『手紙を媒介として複数の人がゲームをする』とき、
プレイヤーとして参加する人が動かすキャラクターであるPCの行動内容。
ゲームのやりとりがインターネットに変わり、ゲームスケジュールなど細かい部分が変わったあとも、PCがどう行動するかは、プレイングに記載された内容に基づく事は変わらない。
その行動内容が盗作されたと、メールの差出人は言うのだが…。
この主張には大きく3つの不合理な部分がある。
1つ目は、メールによると、『リプレイの文章が、行動したPCの名と相手の名が入れ替えただけで全くそっくりだ。だから盗作だ』とあるが、これは書き手であるMSの文章表現によるものである。
2つ目はゲーム会社にもよるが手紙を媒介とするPBMでは、そもそも相手のプレイング内容は受け取ったMSしか把握できず、盗作などできるはずもない。
そして3つ目。これが一番の不合理な部分だが。
肝心の似通っている、あるいは『PC名と相手の名が入れ替えただけ』、と主張する部分だが。
自分のPCが好きな相手にプレゼントを贈ったり、その人への愛称を呼ぶというもので、これが本人のいう『盗作』であるというのであれば、このゲームに限らず、世の中で好きな相手にプレゼントや愛称をあげる行為はかなり以前からごく当たり前に行われており、その全員が『盗作』とされてしまう。
だから彼は、そのメールを無視した。
しかし事態は『このHPを読んでみろ!』というメールがさらに届く。
いいかげんうんざりしていたが、繰り返し来たので、やむなくそのHPへ足を運ぶことにした。
後に彼は、その行為を後悔したという。
そのHPはあのメールを送りつけた『被害者』のもので、『加害者』の『罪状』が並べられていた。
(以下HP内容抜粋)
今回、このような書き込みを作成しましたのは、合格報告…(笑)、だったら嬉しいのですが、中々そういう訳にもいかず。
前々から、日記等で少し零していたので、お気づきの方もいらっしゃるかと存じますが、今回、わたし、ひとつの事柄にぶちあたりまして、そのことをご報告するためで御座います。
何分、未だにわたし混乱している最中で、巧く言葉に纏められてない部分もあるかと思いますが、ご容赦いただければ幸いです。
単刀直入に言うと……
サバンナ(彼のハンドルネーム)という人にプレイングを、パクられました。
他人のプレイングを参考にするというのは、アリだと思っています。
そうやって、インスパイアされてこそ、お互いにとって良いアクトが生まれるものだと思っていますし。それは、プレイングだけに限らず、その他のことに関しても同じことだと思っているので、全然構わないことだと思っています。
わたし自身、プレイングの巧いパッセさんのプレイングに触発されて、参考にしながらプレイングを纏めることは多々有ります。
しかし、今回のケースは、それとは勝手が違っていました。
わたしがロマンシア(ゲーム名)の某リードの某回にかけたラヴプレイングを、同リードのPCさんが、そっくりそのまま固有名詞だけかえてNPCに言っていたということでした。
リプレイを読んだとき、本当にショックでした。
プレイングというのは、パッセが凄く悩んで考えて生みだすもので、そこには当然のことながら著作権ってあると思うんです。
絵や文章や素材なんかと同じように。
それなのに、人の苦労や頑張りも知らないで、簡単に、プレイングを盗作する。
その様子には、非常に遺憾の意と、それを通り越した呆れと激しい憤りを感じざるおえません。
どのプレイングも大変かと思うのですが、特に、ラヴというのは、自分のPCからの対NPC感情や、NPCの置かれた状況などを事細やかに考えて、そういった目には見えないような蔭の努力の積み重ねで、ひとつのプレイングを作り上げていくものだと思っています。
ぶっちゃけ話、ラヴそのものが好きじゃないとやってられないんです。
ラヴが好きだから、NPCが好きだから、NPCのことが好きなPCが好きだから……それだから、頑張っているんです。
それだから、一生懸命頑張って、プレイング考えているんです。
そんな思いのつまったアクトを、簡単に盗作されたことが哀しくて悔しくて、もう本当にショックでした。
そして、そんなことをするプレイヤーが、わたしや他のラヴを頑張っているプレイヤーさんと同じようにNPCラヴをしていると公言している様に、怒りを感じざるおえませんでした。
プレイングという一つの『作品』をパクられたこと、本当に、本当に哀しくてなりません。
確かに、人の真似事でしか生きられないPCさんというのは存在すると思います。
そういうPCさんを嫌っていたり、否定しているのではありません。
現に今回、わたしは、行動を起こしたそのPCさんに憤りを感じているのでは有りません。
PCを動かすのは、プレイヤーです。
わたしが今回憤りを感じているのは、盗作したプレイングを平然とログ(当時手紙媒体でプレイングを送る時の、プレイングを記載する項目の事)に書いたプレイヤーに対してなのです。
せめて、前もって一言だけでも良い『PCの性格上、真似事みたくなるかもしれませんが……』のようなコメントを、メールででもお知らせ下されば。
わたしが、そのプレイングを否定することはなかったでしょう。このようなことにもならなかったでしょう。
きちんと、知らせるという行為。
こういったことは、円滑にゲームを楽しむための、プレイヤー間の尤も基本的かつ重要な礼儀なのではないでしょうか。
プレイヤー間というよりは、人間同士の礼儀として当然だと思っています。
今回の件にかんして、こういった、礼儀知らずの行為を行われたということが…もう本当に、憤りを感じて仕方のないことなんです。
何故、わたしが此処にこんなこと書いているのか。
正直に申しますと、もう、このプレイヤーさんにはゲームに存在して欲しくないからです。
もう、生きていないで戴きたいと思っています。
正直、もう、わたし限界なんです……ホント。
今回の件に関してのきちんとした謝罪の言葉もなく、明らかに、この件を軽視しているとしか、わたしには思えませんでした。
そんな方に、同じ空気を吸って戴きたくはないのです。
今回、このような形でのお知らせになりましたが……もし次がありましたら、今度はこのプレイヤーのゲーム会社からの退会申請などの策をとらざるおえなくなると思います。
わたしのような、若輩者がこのようなことを言うこと、PBMプレイヤーさんには大人の方もいらっしゃいますし、不快に思われるかもしれません。
もし、そうでしたら本当に申し訳有りません。
ただ、今回の件は、わたしのような小娘からみても、礼儀知らずな大人が相手だったので……書かせて戴きました。
僭越な言い分で申し訳ありませんでした。
わたしがこれまで、PBMを続けられたのも、交流のお蔭です。
お手紙での交流、ネットでの交流……本当に、楽しくて。
ホムペ開いてから、ウチのBBSに書き込んで下さる方も、本当にいい人ばかりで。
すっごく、嬉しいんです。本当に、いつも有り難う御座います☆
BBSが回転するのが嬉しくて、カウンターが回るのが嬉しくて、パッセさんたちと共通の話題をもってお話するのが楽しくて、それで、ホームページやってきました。
本当にPBM続けてて良かったなぁって思っています。
わたしは、そんな交流者さまとの関わりを大切にしていきたいと思っています。
だから、一部の心無い人の所為で、このHPを閉じてしまったり、PBMをやめてしまったり……そんなことは、絶対にしたく有りません。
今回の件で、一瞬、サイトの閉鎖とPBMからの撤退も考えましたが、そんな負け犬のような幕引きは非常にシャクなので、これからも、書き込みは続けていきますし、PBMも続けていきたいと思っています。
今回の件に関して、わたしに落ち度はまったくありません。
今回、このようなことをお知らせしてしまって、少なからず、他のプレイヤーさんを不快にさせてしまったであろうこと、心よりお詫び致します。いきなりこのようなペヱジがでて、本当にごめんなさいです…。
ただ、わたし、別に悲劇の人ぶるつもりも御座いませぬ。
今回の件のようなことは、わたしだけではなく、もしかしたら、他のプレイヤーさんにも起りうることですし、お知らせさせて戴きました。
このペヱジを見て下さっている、プレイヤーさん、場合によってはゲーム会社関係者様。
わたしに同情しろーとは全く思ってはおりませんが、ただ、こんなことがあったんだなぁ……って心の中で、思って戴ければ嬉しいですvv
あ、そうそう!
今回の件に関して、わたしが本当に怒っているのは、そのサバンナというプレイヤーに対してであって、リプレイを書いたマスター様に対してでは断じてありませんですの!
あのパクりプレイングを、つじつまの合うように、PCの性格とか配慮しながら書いていらっしゃるのは、本当に凄いなぁと思っています。
だからこそ、前途でも書いたのですが、わたし、人の真似事でしか生きられないPCサンのことは、別に嫌いじゃないし否定もしないって思えるんだと思っています。
もう、マスターさんのことはわたし大好きです(笑) どのマスターさんのことも大好きー!!
あたし、恩恵で生きているプレイヤーですから(笑)
これからも、ラヴ頑張るのでよろしくです。
わたし、本当にラヴ好きで、NPC好きで、NPCのことが好きなPCも大好きなので、これからも頑張ろうと思います。
ロマンシア、最後まで、頑張ります。
ウチのホムペに来て下さっているお客様、本当に有り難う御座います☆★
これからも、宜しくお願いいたします。
BBSなどに書き込んで戴いたメッセージ読むのとか、大好きです。
レス、相変わらず遅めで申し訳ありませんですが……本当に、本当に、嬉しく思っています!
それから、今回の件に関して、わたしの愚痴聞いてくれたり、励まして下さった皆様も本当に有り難う御座います。
すっごくすっごく嬉しいです。嬉しかったです。もう、わたし本当に、恵まれたコだ!!(笑)
長々と、巧く纏まらない文章を書いてしまって、申し訳ありませんでした。
読んで下さって有り難う御座いました………★☆
これからも、ホムペもPBMも続けていきますので、宜しくお願いいたします。
(以上内容抜粋)
彼はこの文面を見て、心底呆れた。そして恐ろしさに震え上がった。
なぜなら、その掲示板に。
HPの管理人を賛美する人達の書き込みであふれているのを見てしまったから。
『공주배架님, 만세!이 돼지발에 천벌을!』(キリカ様万歳!この〇〇野郎に天罰を!)
『我们是你的伙伴。将报应给予这个小日本不象父母的孩子!』(私達は貴方の味方だ。この〇〇〇〇〇に罰を与えろ!)
『이 죄인에게 배상을 청구해라! 』(この罪人に賠償を請求しろ!)
日本語だけでなく、複数言語で彼への賠償を求める書き込みが山積みされていたから。
彼はその内容を記録した後、管理人に『自分は盗作などしていない』と主張。
HPの内容は全て事実無根であり、直ちに削除するようメールでHPの要請した。
しかし『被害者』ことキリカは耳を貸そうとせず、HPの文章をそのまま誰の目にも見える位置においたまま掲示を続けた。
この後彼のもとへメールの他に様々な掲示板への書き込みが相次ぎ、どうやって調べたのか、彼の家や職場への電話攻撃が頻発。
そしてその『脅迫』といって差し支えない言いがかりの群れの牙は、彼の家族や職場にまで及んだ。
身の危険を感じた彼は記録した内容やメールをもとに、警察や弁護士に相談する。
しかしいずれもすげなく断られた。
回答例1
『君が死んだら捜査するよ』(某警察署生活安全課警官A)
回答例2
『これは民事だから、介入できないね』(某警察署刑事課警官B)
回答例3
『これは刑事だから、警察に相談したら』(某弁護士C)
警察や弁護士、果ては人権相談センターと思いつく限りのところへ相談に向かうも相手にされず、攻撃はやむことはなく彼は追い詰められていく。
ところが事態は彼を『攻撃』していた者達がディアボロに襲われた事で思わぬ方向に向かい始める。
ディアボロは、まるで彼を守るかのように賠償を求め彼を脅かし続けた『被害者』の賛同者・崇拝者達を襲い続け、インターネットでは、彼が悪魔に魂を売り渡し報復したとの情報が飛び交った。
ここへきてようやく警察も動きだし、事件の調査を開始。
ディアボロに襲われた人々は『被害者』に煽られ彼を恐喝し続けていた事が判明するも、住所も年齢もバラバラであり、彼をディアボロの黒幕とみなすには証拠不十分だった。
そこで警察は久遠ヶ原学園にディアボロ退治と彼の逮捕に繋がる証拠の入手を依頼する。
「…以上が、今回の依頼内容よ。何か質問は?」
プロジェクターの音が響く中、依頼斡旋所の職員の説明が途切れ、依頼に集まった撃退士達に話の矛先が向かう。
「なぜ、警察はこの男が恐喝されていた事態を止められなかったんですか?」
久遠ヶ原学園高等部の男子制服を来た少年-ルインズブレイドの御剣敬介が手を上げ質問を投げかける。
「その恐喝の手段が無数のメールで、内容も要約すると『慰謝料を支払え』だったから。
文章もストーカー規制法に引っかからないギリギリの表現。今の法律だと、無数のメール-例えこの男が受け取った一万通以上という途方もない数字でも、メールでは罪に問えないの。そして、山ほどのメールをもらいまくったこの男がノイローゼに陥って、思考能力が低下したところで金を支払わせるよう誘導されて実行したとしても、今の法律では『個人の財産を侵害した』にはならない。この男を恐喝した連中は、その法の穴を上手く利用していたというわけ。警察は未然に犯罪を防止する事がとても下手だから、この穴が改善されるのは、もう数名犠牲にならないと無理ね」
幾分皮肉の混じった言葉で回答する職員に、景久は憮然とした顔で返答した。
「ディアボロの特徴はわかっているんですか?」
こちらは高等部女子制服を来た少女でダアトでもある四条早苗の質問。
質問に答えるかのように、職員はプロジェクターを操作し次の画面をスライドさせていく。
そこには、複数の部屋の写真が浮かび上がり、どれも部屋の各所に焼き焦げた跡があった。
「たまたま犠牲者と一緒にいて生き残った人達の話をまとめると、まぶしい光をまとった、鬼のようなもの、だったみたい。どこからともなく現れては犠牲者を黒こげにしていった後、すぐに消えた、とあるわね。それと、ここを見て」
スライドされる部屋の写真が止まり、一部分がズームアップされる。
自然、集まった撃退士達の視線もそこへ集中する。
そこには、焼けただれた夥しい数の、かつて電化製品だったものが並んでいた。
「残された状況と、証言などから推察すると、このディアボロは、多分雷の属性があると思われるわ。
それと、何らかの能力で高速移動ができる。透過能力があったとしても、すぐに消える、なんて真似ができるディアボロはそういない」
「それなんですが、高速移動ですぐ逃げられてしまうのに、どうしてディアボロだとわかったんです?」
大学部に所属するアストラルヴァンガードの少年、星崎崇の質問に、職員は苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべる。
「この依頼、一度失敗していてね。その時得られた情報で、冥魔認識に感知できたというのがあって、初めてディアボロだと判明したの」
初めて聞かされる内容に、撃退士の間からうめき声が漏れる。
「じゃあ、この報酬が弾んであるのは-」
「こっちが自腹を切ったのよ。二度目の失敗は許されない。そうなった時は、この件に関わってる警察からの依頼内容が、今後かなり変わってくるわ」
中等部のインフェルトレイター、御厨瑛治の言葉を、職員は自嘲混じりに解説する。
「-それで、ディアボロ退治は必ず成し遂げるにしましても、警察には何を見せれば『証拠』になるんでしょうか?」
恐喝されていた男と、ディアボロが繋がっている事を示す証拠。
普通の人間ならば捕まえて『例え無実の人間だろうと必ず一度は自白に追いこめる』警察ご自慢の尋問方法で自白による供述証拠を足がかりに更なる証拠が掴めるが、肝心の男は任意同行で尋問を受けても否認を続け、折れる気配はない。
ならばディアボロを捕まえて自白させれば済む話だが、ディアボロが実行者だが話せるかと言えば微妙なところだ。
そして話を聞く限り、大人しく捕まるとも思えない。
つまり、退治するしかない。
「仮に警察の筋書きが正しかったとすれば、男はディアボロを使役するための、何らかの契約を悪魔と結んでいると思われるわ。それが掴めれば、警察も『証拠』として採用すると思う」
依頼を受けた撃退士達は早速元恐喝者・現犠牲者である彼らの共通事項を調べ上げる事から着手する。
御厨は警察などから被害者の住所氏名を教えてもらい、仲間達に情報を伝達した。
その情報を基に御剣・四条・星崎ら他の撃退士達も各地へ飛び、それぞれの場所で情報を集める事に
専念する。
数日後。
撃退士達は集めた情報を携え、学園の一室を借り相談に及んでいた。
「御厨が調べた通り、犠牲者は容疑者を恐喝していた以外の共通点はほとんどないわ」
四条早苗が疲れ切った顔で情報を総括する。
「住所、氏名、年齢、職業、性別。どれもバラバラ。学生から会社員まで様々。遺族にも話を聞いたが、
誰も他の犠牲者の事を知らなかった」
「まあ、ネット上で本名を名乗る人は政治家以外そういないから。試しにハンドル名でも聞いたが、これも覚えがないそうだ」
「そうなると、やはり共通点は…」
散々資料と格闘した末に導き出した『共通点』を、星崎は口にする。
「『今容疑者扱いされている人への恐喝を働いたこと』と『その手法としてメールやインターネットを使っていた』事だ」
「そして犠牲者の状況が、どれも『パソコンの前で焼け焦げていた』事かな」
その言葉に、剣崎は
「まるでインターネットから襲われたと言いたげだな」
と、彼らが導き出したもう一つの共通点、『インターネット』という単語を口にする。
「だが、今となっては、その可能性が一番高い。その仮定で行けば次の標的も2つに絞られる」
「恐喝者はまだいたのか?」
御厨は「あと二人だけな」と仲間の問いに答える。
「一人は太田舞。K県に住む女性で、キリカの崇拝者だ。もう一人は山口満。A県に住む会社員でこちらは結果的に恐喝者になった二次加害者だ」
「結果的にって…どういうこと?」
歯切れの悪い御厨に四条が問う。
「当初本人はキリカの言葉には懐疑的だった。それが『キリカ様の代理人』とやらがあちこち暴れたとき、アクセス解析でその犯人のIPアドレスと容疑者のIPアドレスが同じ県だった。そしてキリカがこの山口という人物と『親友』だったこともあり、どうしてそうなったのか不明だが、恐喝に加わったってわけさ」
御厨もどうしてそういう事になったのかわからず困惑した表情で答える。
「調べた限りでは、この二人に2日後ディアボロが襲いかかってくる可能性が高い」
「どうしてそこまでわかるんだ?」
「慰謝料請求をこの二人はまだ続けている。そしてその期限が2日後だからだ」
これは『容疑者』からも話を聞いた星崎の情報。
「どうして警察はまだ動かないのかしら」
「斡旋所の職員が言ってたろ。掲示板やメールでは取り締まれないと」
「結局は警察の尻拭い役か。俺達は」
若干の憤りを含めた御剣の言葉がすべてを物語っていた。
しかしみすみす犠牲者を出させるわけにもいかない。
内心不満を抱えながらも撃退士達はディアボロ退治に向け相談。
その結果、2手にわかれ『標的』となる2人を守り
ディアボロを待ち構えこれを退治する方針が決まり、行動を開始する。
しかし-。
「キリカ様は心清いお方です。キリカ様が間違えるはずがありません。キリカ様は皆さんの気持ちいい言葉を欲しておられます。キリカ様は清く正しく美しいのです」
K県へ行きディアボロ迎撃の為『標的』の護衛についた3人の1人、四条早苗は早くもこの依頼を受けた事を後悔し始めた。
護衛対象-太田舞は20代の無職女性であったが、『恐喝』について話を聞けば、口から出てくるのはキリカがいかに偉大であるかを力説する賛辞の言葉ばかり。
キリカを『将軍』と言い換えたら、某北国の工作員でもそのまま通りそうだ。
『恐喝』で得たお金をどうするつもりか聞くと、「今まで通り全てキリカ様への浄財となり、キリカ様の清らかで美しい御心とお体を清める事に使いますわ。お金も口にするのも汚らわしいあのクズのもとにあるよりも、キリカ様のために使われて、初めて存在価値が出るのです。ああなんと麗しい事でしょう!」
と悪びれもなく答え一人悦に浸る姿に内心四条は嫌悪感を覚えた。
(あたしが被害者だったら間違いなく殴りかかってたわね)
とにかく言葉が通じない。
同じ日本語を話しているのに通じない。
ディアボロに襲撃されるかもしれないと言っても
「どうして清く正しく生きる私が襲われなきゃいけないの?あたし何も悪いことしてないのに」と
立派に『恐喝』と言う悪い事をしている自覚もない。
なんとなくだが四条は『容疑者』扱いされている男の気持ちがわかるような気がした。
(こんな相手に付き纏わり続けりゃ、判断力も鈍るわけだわ)
一方A県でもディアボロ迎撃の為『標的』の護衛についた3人、御剣敬介達もうんざりしていた。
「貴方のアクセス解析はご立派かもしれませんが、それで『荒らし』を行った『キリカ様の代理人』とやらと貴方が今ご執心の相手のアドレスが同じ県だったから、という理由だけで恐喝を行う理由になるんですか?」
「キリカさんは私の大切な親友です。恐喝だなんて人聞きの悪い事を言わないで下さい」
「ですが実際に『慰謝料を払え』としつこく迫ってお金を巻き上げている行為は恐喝以外の何物でもありませんが」
「キリカ様は私の大切な親友です。同じ県のアドレスのあの男は信用できません」
「いえ、ですから貴方が誰を尊敬しようがそれは構いませんが、それと恐喝とは話が…」
「キリカ様は私の大切な親友です。あの男には一人の人間であることを証明する義務があります」
かみあわない。
話がまったくかみ合わない。
山口満はとにかく『キリカ様は私の大切な親友です』の一点張りで、恐喝という事実を認めようとしない。
それどころか恐喝を「あの男が一人の人間であることを証明するため」といって譲らない。
そもそも人間であることの証明と、お金を巻き上げる恐喝がどう関係してくるのか。
ディアボロに狙われる原因となるかもしれないと言ってもとりあわない。
「キリカ様は私の大切な親友です」
警察とは粘り強く交渉を重ねて情報を持ち出す事ができた御厨が代わって説得しても
「キリカ様は私の大切な親友です。あの男は信用できません」
ととりあわない。
御剣は、この依頼の難易度が『難しい』に設定されていた意味がわかった気がした。
「そっちも駄目か」
電話越しに聞こえてくる御厨からの『結果』に星崎は嘆息する。
『学園でも変わり者は多かったが、ああも人の話を聞かない相手はいなかったぞ』
「こっちは浄財と来たものだ。学園に通う元天使達が聞いたら怒るだろうな」
ひとしきり愚痴を言い合った後、学園には『恐喝の撤回説得は失敗。よってそのままディアボロ迎撃に移行する』と報告した後
今後の方針を確認し合う。
「お前の推測ではインターネットを経由してディアボロを襲ってくる、だったな」
『ああ、しかし現場で確認してみたところ、太田舞が今まで襲われなかった理由がわかった』
「どういうことだ?」
『今までの犠牲者はほとんどが有線ケーブルやISDMを使っていたが、太田舞のところは無線LANだ』
「そういえば、山口満のところも調べさせてもらったが、無線LANだった」
『それともう1つ。「容疑者」の男が最近まで二人の住所を知らなかったんだ』
「最近までってどうしてわかる」
『俺が教えたからさ』
思わず星崎はのけぞり、何とか態勢を立て直すと電話口にかみついた。
「お前、黒幕かもしれない相手に何やってる!」
『俺だって「標的」が話の通じる相手だったら、そんな真似はしなかったさ。だが、これでディアボロが出たら「容疑者」とディアボロが繋がっているという証拠にはなる』
「…」
一瞬反論しかけたが、御厨の言い分もわかる為、星崎は沈黙する。
『文句ならディアボロを退治してあの二人を守って学園に戻ってから聞いてやる。まずは依頼を果たすのが先だ』
「わかった」
一瞬瞑目した後、頭の中で折り合いがついたのだろう。
その後細かい打ち合わせの後、星崎は通話を切り、『標的』の護衛に戻った。
そして2か所で2人の方針が撃退士6人の間で交わされ、いくつかもめた物があったものの、
結局はその形で折り合いがつく。
撃退士達は行動を開始した。
「ここが中継設備のあるところですか」
「ええ。この周辺の無線LANはこの装置を経由してインターネットに通じます」
昼間。
業者に身分証を見せ無線LANの中継場所を聞き出した御剣敬介は山口満の家から若干離れた場所で
その装置を見上げていた。
一見するとどこにでもある電線が少し膨らんだような形式だが、それだけに隠密性も高い。
御剣は山口満と太田舞の『恐喝方法』を思い出す。
オレオレ詐欺などでは、どこかの場所へ呼び出したり自宅へ誰かが赴き現金を受け取りに行く方式がとられているが、
この二人はネットバンクを構え、そこに男からの入金をパソコンからリアルタイムで確認し、その後頃合を見てお金を引きだし、キリカに貢いでいたのだ。
-そこまでわかっていて、警察はなぜ動かない!
正義感の強い御剣はそこが不満なのか何度となく警察に恐喝罪の適用を訴えたのだが、
『慰謝料をよこせのメールだけでは取り締まる法律がないんだよ』
これが警察の回答だった。
今度選挙があるときは、その法律を作ってくれる政治家が出てくれることを内心願いつつ、御剣は『期限』までに仲間達と共に準備を整えるのだった。
そして『恐喝の期限』。
撃退士達の準備は整った。
1人は無線LANケーブルの中継機器のあるところで見張り、何かあれば携帯電話のメールで連絡。
1人は中継機器と『標的』の家の間で待機し、どちらにディアボロが出ても増援に向かえるよう待機。
1人は『標的』を護衛。
そして『期限』が近づいたのを携帯電話や各自の腕時計で知ると
阻霊符を展開。
これでディアボロの透過能力は封じられた。
そして『期限』。
異変はやはり中継機器で起こった。
中継機器の周囲の空気が、一気に焦げ臭いものへと変わる。
『中継機器に異変』
短く撃退士達は仲間達にメールを一斉送信。
すぐに中継地点から増援の撃退士が駆け、
残る1人は念の為護衛に残る。
増援の撃退士が到着した時には、既に空気の質が変わり
眩しい気配が生じ、一気に膨れ上がり、形を整えた。
「討つ!」
顕現を果たす前の何かに御剣は滅光を放つ。
-GGYAOOOO-!
割れた鐘のような耳障りな雄叫びが響き、周囲の家屋の窓を振るわせる。
「もう一撃!」
やがて人の身の丈を優に越し、全身が光を帯び、雷にも似た毛皮をパリパリという音と共に逆立たせ、
頭に山羊の様な隆々とした1対の角を生やし、耳まで裂けた口からは鮫のような牙が覗く異形-ディアボロが姿を見せる。
ディアボロは御剣の光を帯びた武器を左腕で捌き、前傾姿勢で御剣の懐へ飛びこむと背中から体当たりし、御剣が気づいたときには自分の体が宙を舞っていた。
「気をつけろ!こいつ接近戦が得意だ!」
たまたま回収日以外のゴミが積み上げられた場所に叩きつけられ、盛大な音を立てて崩れ落ちたがダメージは少ない。
用心して要所要所に絶縁体のゴム素材の生地を衣服内にまきつけておいたのも功を奏したようだ。
「ならば!」
星崎が【審判の鎖】を発動。
ディアボロの周囲に鎖状の何かが顕現。
地面に描かれた複雑な魔方陣の様な光の図形へとディアボロを縫いとめる。
-SSSHAAAAAA--!
鎖に縫いとめられたディアボロは寸前で口から電撃を放つも、
星崎の光を帯びた盾が魔の刃を防ぎ止め、雷はむなしく地面にのたうち転がったゴミを焦がすのみに終わる。
「いまだ敬介、トドメを!」
「わかってる、これで終わりだ!」
それまでに態勢を立て直し、武器にアウルを込めていた御剣は、裂帛の気合と共に渾身の力を込めた武器を振り下ろす。
先ほどとは段違いの威力を込めた黒い刃が衝撃波となり、鎖で縫いとめられたディアボロを襲う。
「よし、これで…何!?」
-QAAAAAAAAA!!
強力な拘束を無理やり引きちぎり、麻痺の効果を強引に無効化したディアボロは、衝撃波で全身の毛皮や片足が削げ落ちたのも省みず、武器を振り下ろした状態の御剣の腕をつかむや強引に引き寄せ、己のひじを腹にめり込ませた。
「おぐっ!?」
さらにひじ打ちに息を詰まらせ、体を折り曲げた御剣の顎をもう片方の腕で殴りあげ、宙を舞った瞬間に今度は残った足で蹴り上げる。
-GOAAAAAAA!
咆哮と共に腰を落とし地面を残った足で蹴ると、蹴り上げでのけぞる態勢となった御剣の腹部に膝を叩き込んだ。
「ぐはぁっ!」
吹き飛ばされた御剣の体は、今度は駐車場のフェンスに叩きつけられ、巻き添えを食ったフェンスが折れ曲がり悲鳴を上げて御剣と共に土煙を上げて崩れ落ちる。
「あのディアボロ、生前は功夫の達人か?」
御剣に駆けより【ヒール】で傷を癒しながら素人目にもタダものでないディアボロの近接攻撃に、星崎は警戒の度合を強める。
「どこかの依頼報告書で、生前の記憶を持たせたままディアボロを作る悪趣味なヴァニタスがいるって話は聞いたことがあるが、もしかしてこいつ、もとは天界の劉玄盛の関係者かもな」
劉玄盛とは天界のシュトラッサーで外見は老人ながらもかなりの手練れだ。
戦場で顔を合わせたら、いい勝負かもしれない。
『こちら交戦中。そっちの状況は?』
治療を受けながら武器をディアボロに向ける御剣にディアボロへの警戒を一時任せ、星崎は護衛役として残った仲間にメールを送る。
少しして返事が返ってくる。
『こちら異常なし。加勢はいるか?』
別のディアボロがいる可能性も低くはなかったが、星崎は決断し、メールを送った。
『直ちに加勢求む』
そして今度は自分が盾役となり、御剣と協調してディアボロと激突。
交戦中時々放たれる雷撃は、星崎の【シールド】でしのぎ、その間に回り込んだ御剣が滅光のスキルを【神速】に切りかえて攻撃。
そしてディアボロの近接連携攻撃が来たら【ヒール】や【剣魂】で治療。
そんなやりとりを繰り返すうちに、待ちに待った増援が到着。
「こいつとは近接でやり合うな!」
「了解」
短く答えると仲間の撃退士は【フォース】で武器から輝く刃を放ち、ディアボロと距離をとりつつ徐々に削っていく。
いつしか戦いは、剣崎ともう一人が一撃離脱や距離をおいた戦いでディアボロを削って敵の得意な近接戦をさせず、
星崎が二人をフォローする形で主導権が撃退士達に傾いていた。
そして互いの間断ない攻撃の応酬で、ディアボロの残る足が切り落とされた時、星崎が温存していた【審判の鎖】でディアボロを拘束できたとき。
剣崎の【封砲】と仲間の【パールクラッシュ】が鎖をほどこうともがくディアボロの体を貫き…。
死闘は幕を閉じた。
『ああ、こっちにも来た。やっぱり同じように中継設備から出て来てな。太田舞のところへは直接来なかったから、全員で迎撃して退治した』
携帯から御厨の声が響く。心なしか戦場での焦げ臭い匂いまで届いてきそうだ。
「そうか。そっちも大変だったな」
『むしろ大変だったのは倒した後だったな。ディアボロの奴が中継設備に出現した時、奴の電気で設備が焼け焦げてな。護衛対象がヒスを起こしてた』
お互いの吐き出す声には心身ともに蓄積した疲労もこもっていた。
ディアボロとの戦いの後、待っていたのは護衛対象である太田舞と山口満のヒステリーだった。
戦いで無線LANの中継設備が焼け焦げたため、ネットバンクが見れない状態となり『これじゃキリカ様を喜ばせられない!この役立たず!』と散々当り散らされ感謝どころか罵倒の嵐を浴びせられたのだ。
お互いよく自制心が持ったものだと思う。
「だが、これで『彼』がクロだって状況証拠は報告できるな」
「そうだな。後は裁判で、あの二人や犠牲者達のやったことが法廷で晒されたら、遺族たちも少しは目が覚めるだろうさ」
後に撃退士達は状況証拠から彼が黒幕と報告。
警察は彼を逮捕。彼は否認を続けるも裁判では彼らの思う通り、太田舞や山口満も含む犠牲者達の『恐喝』行為が明らかとなり、遺族たちの『彼』への非難はなりを潜める。
それでも多くの犠牲者が出た事は許されることではなく、3度の裁判の末、彼には極刑が言い渡された。
なお執行は腰の重い法務大臣にしては異様に早かったと、その後の新聞各紙は報じていた。
その後事件を解決した撃退士達にアネモネの花束と1通の手紙が届いた。
『親愛なる撃退士諸君。今回は活躍おめでとう。
君たちのおかげで良い退屈しのぎができた。
情報を流したのは「彼」以外にいない。君たちはそう判断して彼を黒幕としたのだろうが、あの場には私もいたのだよ。
悪魔の能力は君たちの知っている以上に広くて深いのだ。
彼が恐喝で苦しんでいたのは事実だ。だが、彼は警察や弁護士に見放されても自力でなんとかしようともがいていたのだよ。
ただ、一度お金を渡してしまえば何度も脅されるという事まで思考が行き届かなかった。実に人間らしく愚かだ。
脅していた連中は彼に人間であることを証明しろと妙な事を言っていたが、私から見れば彼ほど人間らしく愚かしい存在はいないな。
私が証明してやってもいいが、君らの世界ではその行為は「悪魔の証明」と言うのだろう?
そして私が人間たちを手にかけた理由を知りたいだろうが、退屈しのぎに人間たちに見捨てられたものを少し救ってやる事に理由はいるのかね?
逆に私は君たちが彼を救わなかった理由を知りたいところだ。少し考えれば、彼を利用した何者かの存在に気付く事もできたはずなのに。そうしなかったな。実に詰めが甘いが私好みだ。
君達のもとに、花束が届いているだろう。今の君たちに似合うと思って用意した。確か君たちはその花をこうも呼んでいたな。「無実の者を陥れる」と。まさに今の君たちではないかね。いや君たちだけではないな。あのキリカという者や、君たちが守ろうとした者達も、皆同じだ。全員に送りたいところだが、こちらも手持ちが少なくてね。特に似合う相手に贈る事にした。
今度は別の楽しみを見せてくれることを期待するよ。「無責任なアネモネ」の諸君』