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君が帰らない  作者: みドドド
9/9

9話 キャサリン・ハーデンバルツ嬢の優雅なる目覚め

 朝、小鳥のさえずりとともに、私は目覚めます。

 まずは神殿の方向へ、私が美しく、聡明で、歴史ある名家に生まれたことを感謝いたします。

 そして次に、使用人を呼びましょう。もう入学して半年が経つので、王国の四家であるにも関わらず、学園には他の凡百の貴族と同じように護衛・身辺世話係を兼ねた一人しか連れてこられないことに腹を立てることはありません。

「リーラ」パンと手を叩けば、魔法のように、彼女は現れます。

「はっ。リーラはここにおります」

 もちろん、音もなく透明化の魔法を解除して目の前に顕れた使用人に悲鳴をあげることもありません。

「兄の、」言葉に詰まってしまいました。ですが当然です。私のように若くか弱い娘が、家の当主となるはずだった実の兄を失ったのだから。私の、このような動揺は何も不自然なことではありません。

「はい。ミクシリオ様のことですね。私の調査では、お二人のやりとりを目撃したものはまだ見つかっておりません」

 そう、兄のことなのだから、妹である私がその友人について調査するのは当然のことです。

「そうですか……ありがとう、リーラ。しかし、兄に、本当に友人はいたのでしょうか」

 兄と、友人。言葉を並べる際に、まぶたがピクピクと蠢いたのは気のせいでしょう。血管が膨張したような感覚も、胃の中が煮え立つような熱も。

「その件について、手紙を入手いたしました。ロデリオット様のものと比べた結果、本人が書かれたもので間違いないかと。手紙を通した秘密の友人、のような関係であれば、十分あり得ると思います」

 リーラは優秀です。ですが、いくら優秀であるとはいえ、間違えないというわけではありません。

 残念なことに、彼女はこのことに関しては、特に、多くの誤りを報告してきます。ですが、私は寛容な主人であるため、それを責めることはありません。わざわざ指摘、訂正して下のものを辱めることも、もちろん致しません。

「そうですか。これ以上は私が直接、ミクシリオ様と会話して確かめたいと思います。もう下がって結構です。ありがとう、リーラ」

 皆が知るキャサリンの笑みを送りましょう。リーラも仕事を果たして安心したのでしょうか。一礼とともに消えました。

 一人になった所で、今一度、リーラの報告を反芻してみましょう。

 

 秘密の、友達?

 

 どくりと、頭の血が跳ねるような感覚がします。

 どうして、どうして私は、兄の悪評によって友人一人得ることができない間に、よりにもよって、あの兄が!あの兄が!!

 

 友達を得るなんて!

 

 気がつけば、ベッドに綺麗に並べられていたはずのクッションは引き裂かれ、中の羽毛が宙を待っている。

 だがそんなことを誰が気にする?

 そんなことより、どうして、あの兄に!ロデリオットに、友人などがいようか!

 認めない。認めない。

 当たり前だ。私たちはハーデンバルツ家なのだ。よってくる全ての人間が、その家の持つ権力のおこぼれに預かろうとしている。叔父もそういっていたじゃない。信頼できるのは、身内だけ。

 だから、ミクシリオ・クーロも、兄の友人は仮の姿。本当の目的は、ハーデンバルツ家にある。

 とっても笑えるわ!

 ミクシリオがどんな手を使ってあの王様のような男に取り入ったのか知らないが、もはやそれが全くの無駄骨となったのだ。

 友人?でも兄はミクシリオにさえ行先を告げなかった。一人勝手に消えたのだ。それって、裏切りじゃない!

 可哀想なミクシリオ。頑張って一年もの歳月の間、媚を売ったのに、最後にはあっさり捨てられている。

 一体ミクシリオは兄から何を得たのだろうか。得たかったのだろうか。

 ふわりと広がる制服に手を通し、今日の教材を詰めた鞄を持つ。胸には、ハーデンバルツ家の紋章を模ったバッヂも忘れない。

 傍系どもと同じ、銀色のバッヂ。けれど、失踪から死亡に確定すれば、当主の黄金に変わるだろう。

 そうなれば、ミクシリオも気づくだろうか。

 今後、媚を売るべき相手が誰であるのか。

 私は兄より優れている。

 なぜなら、美しく、賢く、優しい。全ての点で、優っている。

 なのに、兄は手紙をやりとりするような友人を得て、私は一人。

 きっと、きっとミクシリオは間違えてしまったのです。彼は私のそばに来るべきでした。

 いいえ、彼は私のものだったのです!それを兄が奪った。またです。兄はいつも私のものを奪う。両親、家督、学園での注目。すべて全て。

 あまりの傲慢さ。呆れにため息が溢れてしまいました。

 しかし悪は去りました。恋焦がれた物語のように、正義は勝ったのです。

 もうすぐ教室に着きます。低レベルな授業が始まるでしょう。

 それでも、兄が消えてからの日々は輝いています。

 私は一刻も早く授業が終わり、愚かなミクシリオが訪ねてくるその瞬間を待ちます。

 その為だけに、今日があるのだから。

 

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