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君が帰らない  作者: みドドド
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8話 ただ一人の友人、ロディより

 霊体となった時、セレスティアは言った。

「お前は霊体だ。物理的な制約に縛られない。強く望み、そこに己があると思え。なぜならお前はすでにそこにあるのだから」

 当然俺は無茶を言うなと抗議したが、精霊はただニヤニヤと笑い「満月の晩、物語の続きを聞こう」とだけ宣った。

 二人の間の愛の物語、俺が語った嘘。いや、ミクシリオがキャサリンに気がある、と言うのは外れていないと思うが、他人とろくに関わっていない俺の観察力なんて高が知れている。

 精霊に、誓約の嘘がバレる前に、本当に二人をくっつけるしかないのか。

「全く、早く行かんか」

 意識の外から、苛立たしげな女の声がする。精霊が使う異次元レベルの転移魔法に関する全く役立たずのアドバイスに感謝しながら俺は集中した。

 ここにある。自分が存在しているという感覚を意識的に呼び起こすことは難しい。

 しかも学園に、ともなればもっと難しい。

 貴族あるまじきレベルで孤立していた学園で唯一関わりがある、と言えるのか、向こうからしたら関わらざるを得なかった存在。俺には一人しか思い当たらない。

 キャサリンだ。

 両親を除けばロドリオットが生きていることで最も被害を受けた人間。

 自然と俺の意識はキャサリンへ向かって行く。

 ゆりかごの中で微睡むような、心地よい振れ。

 魂が揺らぎ始める。

 精霊はただ満足げに頷いた。



 学園への転移が成功した時、俺が在ったのはキャサリンのそばだった。そのまま漫然と妹の周りを漂っていると、ミクシリオが現れた。

 ――俺の観察眼も大したものだ! 本当に恋仲とは! これならば、セレスティアとの契約もとっとと果たせるだろう。

 俺の喜びは儚くも打ち砕かれたが、まあそれはいい。

 だが、ミクシリオの話があまりにも酷かったから、俺はキャサリンのそばを離れ、こっちへ寄生することにしたのだ。

 精霊に捧げる恋愛話のネタを仕入れるためだったが、いつの間にか変にセンチメンタルになっていた。

 そんな矢先だ。俺が、霊体だった俺がミクシリオ・クーロの体に入ったのは。

 

「あーあー」

 声帯を振るわせて、声を出す。こんなことも、懐かしく感じる。

 理由はわからないが、ミクシリオの体に入れた。俺を長らく苦しめいていた体を蝕むものは一つもない。

 このまま、この体を奪えるなら、ここから逃げてしまおうか。

 ふとそんな考えた頭をよぎった。

 頬に触れれば、机に長いこと突っ伏していたせいか、跡が残っている。

 ちょうどミクシリオの頭が乗っていた場所には、手紙が広げられていた。書き損じではなく、ある程度の文字がすでに書かれている。

 そこに、ミクシリオの文字で綴られていたのは謝罪文だった。

「キャサリン・ハーデンバルツ様へ

 僕は嘘をつきました。

 僕はお兄さんとは友人などではありませんでした。きっと、僕の名前もお兄さんは知らないでしょう。」 

 そんなことはない。俺はお前の名前を知っている。独りよがりな懺悔は続く。

「お兄さんの手紙を僕が持っていたのは、事故のようなものです。詳しくはお話しすることはできませんが、とにかく、僕はお兄さんと友人ではありません。

 勘違いをさせ、申し訳ありません。

 ですが、失踪した日に学園でお兄さんとお話ししたことは事実です。

 僕の見間違えでなければ、お兄さんはとても――」

 無意識だった。手紙をぐしゃぐしゃに握りつぶしていたのは。

 俺は、他人に弱さを指摘されるのが嫌いだ。

 腹が煮えるように、怒りが沸る。

 この平民は、知ったような口を聞き、出過ぎるきらいがあるらしい。

 手紙は、俺が修正してやろう。

 新しい紙を、引き出しから取り出し、つらつらと書く。

 俺にはこいつの使うような筆跡模倣の魔法は使えない。だが、俺には俺の筆跡は使える。 当然だ。

 ああ、個人的な手紙を書くなんて久しぶりすぎて、書き出しの礼儀も忘れてしまった。

 だがまあいいだろう。友人間のやりとりであるなら、それくらいフランクなものだ。

 まずは、キャサリンが欲しがっていた俺の言葉。どこまで本心か知らないが、いいだろう。つづるはたわいのない日常。どうせこの真偽を確かめる術はない。俺に友人など居なかったのだから。

 そして次は、俺がこいつと友人である証拠。想像力を働かせてみる。クラスこそ違うが、学園は広く、自主的学習という名の放し飼いの時間もある。そういった学園すごす隙間に、出会い、言葉を交わし、友人となった。こういうストーリーはどうだろうか。

 最後に、キャサリンを愛していた証拠。

 ここまで言葉の尽きない俺であったが、流石に詰まった。キャサリンとは学園前は顔を合わせることもなく、入学後もごく限られた貴族会の集まりで二、三個と義務的に言葉を交わすくらいだった。

 俺はいつだって、言葉を秘めるタイプだったから。

 でも友人相手なら別だ。

 そう、友人へ美しく聡明な妹を自慢するという、名目ならどうだろうか。

 悪くない。書ける。それにこれを読めば、ミクシリオもキャサリンへの恋心を自覚するかも知れない。

 俺の妹は素晴らしいだろう?

 親愛なる我とも、ミクへ。

 ただ一人の友人、ロディより。

 

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