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君が帰らない  作者: みドドド
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2話 友達じゃない人

 ――ロデリオット・ハーデンバルツ失踪発覚の約三時間前


「あッ、お前、リドの頼み断ったんだって?バカな真似するなよ、ただでさえ下級クラスで肩身狭いのにさあ」

 トゲトゲとした苛立ちを隠さない声。どこもかしこも余裕がないようだ。

 自室が安全地帯であるというのは、きっと上級クラスの、個室を与えられてるようなお坊ちゃんお嬢ちゃんだけの話だろう。僕たちみたいな平民はこの狭い部屋に四人も詰められている。僕たちが普段住むところを見れば、上級クラスの奴らは腰を抜かすだろう。帰って尊敬の念すら抱くんじゃないだろうか。流石にそれはないか。

「おい、聞いてんのか」

 体の大きさは態度に影響を及ぼす。同室の男の中で最も背の高いやつは、最も偉そうだった。

 ドンっ、と僕を突き飛ばし睨みを聞かせる。

 もちろん僕は恐ろしくて彼をただ見返すことしかできない。

「ガンつけてんじゃねーよ!」

 とんでもない。僕は怖くて視線を動かせなかっただけだ。

 だがそんな弁明も最後まで聞いてくれるタイプではない。怒鳴ったことで、一定の満足は得たのか、僕から視線を外して彼と似たタイプ同士いつもつるんでいる奴らと街へ出かけるようだった。

 僕らの寮はでは、生徒のほとんどが平民。良くも悪くも、他の貴族などが入る寮とは異なり、見張りや門限などない、良く言えば自由、悪く言えば無秩序な場所だった。

 

 街へ出る彼らに、当然僕が声をかけられることもなく、部屋に一人残される。

 使ったこともないだろう傷だらけの木製の机が寂しく並んでいる部屋に取り残された。

 まあいいさ。ここからは、僕だけの、僕のための、完全に自由な時間だ。

 誰にも侵されない、僕が主人であれる時間。

 

 机の引き出し――鍵付きではあるが鍵は僕がこの部屋に配属された時から壊れてる――を開けると、購買で売っている便箋の束が入っている。僕はそれを三枚ほど掴んで取り出すと、卓上を見渡す。

 ペン、どこに置いたっけ。

 そう言えば、さっきペンをもらったな。それでいいか。

 ポケットに入れたままだったその存在。そうだ、今日は彼にしよう。別に彼のせいではないけど、彼がリド・ラシェルからの依頼を邪魔したせいで僕は同室にチクチク言われたわけだし。それにちょうど今日、彼の筆跡を僕は学んだ。

 僕はそのペンで描き始めた。

 

 ミクシリオ・クーロ様


 綴られた文字は、僕の知らない顔をしている。この瞬間がドキドキ、奇妙で、僕は大好きだった。だから、やめられない。

 残していたミクシリオ、の前のスペースに言葉を付け足す。

 

 昵懇の友たる ミクシリオ・クーロ様

 

 書いていて、自分でも笑みが溢れる。ロデリオット・ハーデンバルツに友人?どんな冗談だ。だが、嘘は盛大にやらなければ、つまらない。僕は調子に乗って本文も書き進める。まずは、先刻のことを謝罪してもらう必要があるだろう。

 

 昵懇の友たる ミクシリオ・クーロ様

 先刻の無礼、深く謝罪したく思う。

 

 普通の謝罪文みたいで面白みにかけるな。それにもっと言い訳がましくて、上から目線な方が貴族っぽいだろう。口上も、もっと古臭い表現にして……。

 僕は紙を丸めて、机の隅に追いやると新たな紙にもう一度書いた。

 

 心の同伴者であるミクシリオ・クーロ様

 お前を突き飛ばしたことは事故だ。知っての通り、俺は最近特に体調がすぐれない。また例の発作によって足元がふらついたんだ。それで、まあ、悪かったと思っている。

 

 体調について、根拠ある話ではない。でもロデリオットは時折ひどく顔色が悪く見えた。

 普段から顔が怖くてちゃんと見れていないが、そういう時はいつにも増して近寄るなオーラが強い。一度、秋の混合試合より前にそのことを指摘したことがあったな。それから直接いうのはやめたが、僕は母がそうだった影響で、どうしても顔色に過敏になってる。その後もロデリオットがフラフラしているのが嫌に目についた。

 だから、それを踏まえての捏造。

 もしかしたら、実習授業でよく地面にハーデンバルツ家の剣を突き刺して怒鳴っていたのも、立っていられないほど体調が悪かったから、なんだろうか。

 いや深読みはやめておこう。どうせ、関わることもない。

 僕はいつも自分の筆跡模倣魔法を使って、鬱憤を架空の謝罪文を作ることで晴らしていたが、もちろんそんな後が誰かに見つかったら一生の恥だ。だから遊んだ後は決まって燃やす。

 

「――炎よ」腕に構築していた魔法陣を解除し、小さな炎を呼ぶ文言を唱える。しかし――。

「うおおおいっ」扉が壊れそうな勢いで開かれて、煤けた太陽にも似た金髪が現れた。危うく椅子から転げ落ちるくらい動転して、手に持っていた紙をポケットに突っ込み、召命し損ねた熱源を握りしめた。しかし僕以上に動転した男は構わずに怒鳴る。

「大ニュースだ! 貴族寮の方で、誘拐が起きたらしいぞ!」

 この金髪、どこかで見たことがるような――。そうだ、こっちの寮の監督生だ。寮内のゴシップの源泉ヤロウ。こいつに学園の悩みを相談するくらいなら、地面に穴を掘ってそこに叫んだ方がマシ、と言われる男。その男が、楽しそうに風潮するということは、大規模な問題なんだろうか、と疑問の眼差しを向けたが、監督生はそんな僕に構っているような余裕なんてないようで、次の部屋に声をかけるべくすでに背を向けていた。

 急な来訪で心臓が飛び上がった。

 嵐のような男がさり、鼓動が元のペースに戻れば、急に眠気が湧いてくる。

 僕は制服を雑に畳み、湯汲みを終えるとそのまま眠りについた。


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