襲撃?
家って言うか、城じゃねえか、これ!!
草原を進み、森の中を入った先にあったその建物に、俺は唖然とする。
前に月夜が魔物も家を持つことがある、とは言ってたが···。
個人で所有するには広すぎないか。この家、つーか、城。魔物の住みかがこれって、目立ちすぎるだろ。一応立地は、人里から離れてはいるにしても、だ。
「礼を言う」
城の入り口まで行くと、シーシェがそう口を開いた。
まだ日差しを浴びてるせいか煙は出てるが、それは大丈夫なのか。
シーシェは城の扉を指して、
「寄っていくが良い」
と言ってきた。なんでそんな尊大な言い方なんだ。
しかし、吸血鬼の城か···。
普通なら何かの罠なんだろうが、いまいち危険には見えないんだよな。
多分、こいつなりに礼をしたいと思っているんだろう。
月夜も別にいつまでにシーの街へ来いとは言ってなかったし···。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「飲み物は血液で良いか?」
「それはいらねぇ!」
もう吸血鬼なの隠す気ねぇな、こいつ。
俺はシーシェに促されて城の中に入っていった。
「遠慮せず、寛げ」
くつろげと言われても···。
部屋は暗いし、なんかそこかしこに拷問器具みたいなのが置いてあるんだが···。
ってか、
「灯りは?」
「ないが?」
シーシェはさも当然というように言う。
なんでだよ。
俺は夜目が利くから良いけど、普通の人間だったら見えねぇぞ。
せめて窓ぐらい開けて欲しいが、日光浴びるとまたシーシェがまた発煙しそうだな。
だが、こういう暗い場所にいると嫌なことを思い出しそうになる。
合成獣にされて入れられていた、領主の城の地下にある、檻の中。
どんどん周りの仲間がいなくなっていって、最後には独りで─
「バセット」
誰かに名前を呼ばれたような気がして我に返る。
今のはシーシェ···じゃないよな?
当の本人は唯一開いた入り口の扉の方に向かっている。
もしかして、他に誰かいるんだろうか。
「この城って、他に誰か···」
「いや、私一人だ」
振り返らずにシーシェが答えた。
この城を一人で管理するのは大変そうだな。掃除とか。
つい所帯染みたことを考える。
しかしそうするとさっきの声は誰だったんだろ。俺の気のせいか?
とか考えてると、扉の閉まる音がした。
ふとそちらを見ると、シーシェが後ろ手にドアを閉めていて、
「実は私は、吸血鬼なのだ」
知ってるよ。っつーか、まだ隠してるつもりだったのか。
と、俺が口に出す前に、シーシェが空を払うような動作をした。まるで見えない刃を飛ばしたように。
というか実際にその刃(衝撃波?)は俺の顔のすぐ横をかすめて、背後の壁に当たって砕く。
薄く切れた頬にぴりっとした痛みが走った。
·····今、攻撃されたのか?
「なんのつもりだ!?」
いきなり攻撃される理由がわからない。
しかしシーシェは俺の問いには答えなかった。両手を自分の口に添え、こちらに向かって呼び掛けるようなポーズをとる。
すると、
「うわ!」
思わず耳を塞ぐ。
なんだ!?この音は!!
肌にびりびりと感じる今まで聴いたこともない、脳を軋ませるような高い音。
「やめろ!」
なんなのかはわからないが、この音を出してるのはシーシェで間違いないだろう。
しかし、シーシェはやめようとはしない。
話せる相手だと思ったが、やっぱりこいつは狂暴な魔物なのか?
正直戦いたくはなかった。けど、倒すしかないのか。
でも、どうやって倒す?吸血鬼の弱点ってなんだ?十字架とニンニク?そんな都合良く用意出来ねえっての!!
俺は自分の考えに自分で突っ込んでから、獣の姿に変身する。
そのまま、シーシェに向かって炎を吐いた。
シーシェが一瞬ひるんだ隙に距離を詰め、元の姿に戻って拳でぶん殴る。
わざわざ人間の姿に戻ったのは、獣の姿だとまだ力のコントロールが難しいからだ。
いくら攻撃されたからといって、人の姿をしていて、なおかつ一応会話が出来る相手を必要以上に傷つけたくない。月夜には甘い考えだと鼻で笑われるかもしれないが。
しかし、その殴った腕を不意に掴まれた。
近づいたのはまずかったか?
「くっ······
くくくくくふふふふふふあははははは!!!」
シーシェが狂ったように笑い出した。
「やはり私の目に狂いはなかった!
その逞しい身体!
若さゆえの体力!!
ああ、どうかその手で、私をもっと殴り付けてくれ!!」
···········やべー奴だった!!!




