黒い影との遭遇
冷たい風のような、しかし確かに“感情の重み”を伴った衝撃が透を襲う。
胸の奥が一瞬にして乱され、吐き気がこみ上げる。
――打ち込まれたのは、強烈な“恐怖”。
透はとっさに壁に手をつく。
(くそ……押し返さないと……!)
透は意識の深部で、感情の流れを握る。
自分の心を守るため、影から流れ込む恐怖を“そらす”――
だが、影はしつこく追いすがってくる。
「透!後ろ!」
凪が叫んだ。
振り返ると、影の別の腕のようなものが透の背に伸びていた。
透は反射的に精神を集中させ、その腕を弾き飛ばすように“拒絶の感情”を流し込む。
影はぐにゃりと形を崩し、後退する。
凪は無表情のまま言った。
「やっぱり。“上書き”ができる」
「……上書き?」
「あなたの感情を相手にぶつけて形を変えた。
それは、読み取るだけの能力じゃ無理」
透は息を切らせながら影を睨む。
その影の中心にある“瞳”が、苦しげに揺れた。
まるで助けを求めているように、弱々しく。
透は息を呑む。
(……こいつ、本当に“ただの怪物”じゃない)
透の頭に、凪の言葉が蘇る。
「喰感者の正体は、負の感情に飲まれた普通の高校生」
影の奥。
そこに誰かの“心”が沈んでいる。
透がその気配に意識を向けた瞬間――
影が激しく震えた。
「……来るわよ、透!」
次の瞬間、影は校舎全体を揺らす勢いで膨張し――
透たちの視界を闇で覆い尽くした。




