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影踏みのルミナス  作者: antild


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三人の日常

 アインとの最終決戦から一週間。

 学校の屋上は、もうあの異様な戦場ではなく――

いつも通りの、少し風の強い場所に戻っていた。


 透は教室の窓からその屋上を見上げる。


(……あれから、ようやく日常が戻ってきた)


 傷ついた凪はしばらく休んでいたが、

昨日から学校に来てくれている。

陽斗は相変わらずうるさいほど元気だ。


 だが――

あの日を境に、世界の見え方が少しだけ変わった。


 陽斗の声が背後から飛んだ。


「透ー!またぼーっとしてんな!」


「ぼーっとしてねぇよ」


「じゃあ何考えてた? 俺のこと?」


「なんでそうなるんだよ」


「いや絶対そうだろ!」


 相変わらずの軽口。

 でもこれが――一番欲しかった“日常”だ。


 透は小さく笑った。


「……馬鹿」


「ん?なんか言った?」


「何も言ってない」


 陽斗はニヤつきながら隣に座った。


「透が寝不足じゃねぇってだけでオレ安心するわ」


「お前、俺の親かよ」


「彼氏かもしれねぇだろ?」


「……黙れ」


 顔が熱くなるのを隠すために窓の外を見る。

陽斗は笑いながら肩をぶつけてくる。


(こういうのが……いいんだよ)


 昼休み。

 人の少ない図書室の隅で、透は借りた本をめくっていると――


「透」


 重すぎず、軽すぎず、静かな声。

 透が顔を上げると、

久しぶりに見る凪の姿があった。


「凪……もう大丈夫なのか?」


「うん。

 あなたたちが……守ってくれたから」


 凪は淡く微笑んだ。

 ほんの少し弱くて、でも強い笑顔。


「透……あの時、“ありがとう”って言ってくれたでしょ」


「うん」


「あれ……結構嬉しかった」


 透は胸が熱くなる。


(凪にも……怖い思いをさせた)


 凪は透の隣に座り、

机に指先で円を描くように触れた。


「透。

 私は“透を守るためにコーラスを裏切った”。

 でも……後悔してない」


「凪……」


 凪の声はわずかに震えていた。


「私にも……大切な人ができたって……

 ちゃんと気づけたから」


 透は言葉を失い、

少し間を置いてゆっくり言った。


「……ありがとう、凪」


 その言葉に、凪は照れくさそうに微笑んだ。


「でもね、透。

 私を甘く見ると――」


「?」


 凪の目がきらりと光る。


「陽斗から“透争奪戦”に参加するよ?」


「……は?」


 凪はすっと立ち上がった。


「覚悟して」


 言い残して去っていく凪の背中に、

なぜかゾクッとした。


(怖……

 本当に戦場より怖いときあるの凪……)


 放課後。

 校庭の夕陽が三人の影を長く伸ばしている。


「はぁー……終わった終わった!!遊び行くか!」


 陽斗はテンションが高い。

 凪はそれをじっと見ている。


「陽斗、元気すぎ。悩みゼロだろ」


「はぁ!?透が隣にいりゃ悩みゼロに決まってんだろ!」


「やかましい」


 凪が無表情で言った。


「陽斗。騒がしい」


「いやいや凪、お前こそ冷静すぎて逆に怖ぇんだよ」


「褒め言葉として受け取っておく」


「褒めてねぇよ!!」


 三人の声が混ざって空にほどけていく。


 透はその光景を眺めながら思う。


(……アインは消えた。

 でも、世界にはまだ“暴走者ロスト”がいる。

 それに、コーラスの動きも完全には止まらない)


 不安も未来への影も、まだ尽きてはいない。


 でも。


 陽斗の笑顔。

 凪の優しい存在。

 三人で並んで歩ける今が――


(俺の“選んだ未来”だ)


 


 陽斗が透の腕を引っ張る。


「透――早く来いよ!

 ゲーセン行くって言っただろ!!」


「急ぐな。転ぶぞ」


「透のほうが転びそうだわ!」


「うるさい」


 凪が小さく笑う。


「……賑やかだね」


「なに、嫌か?」


「大好き」


 透は一瞬固まり、

陽斗があわてて凪の方を見る。


「お、お前……

 透にそんなこと言うなよ……!」


「陽斗、嫉妬?」


「し、嫉妬じゃねぇよ!!」


「顔赤い」


「赤くねぇ!!」


 透は思わず吹き出しながら言った。


「……ほんと、騒がしいな」


「お前も入ってんだよ、透?」


「……知ってるよ」


 三人の笑い声が夕陽の中に溶けていく。


 戦いで傷ついた心も、

失ったものも、

まだ癒えない部分もある。


 それでも――


この日常を、守り続けたい。


透は強く思った。


 そして、決意のように胸に手を置く。


(俺の力は“世界”じゃなくて、

 “この三人”のために使う)


 夕暮れの風が、優しく吹き抜けた。

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