黒い亀裂から現れる影
屋上の空気が“裂けた”。
空間に走る黒い亀裂から、
黒いローブを纏った人物がゆっくりと姿を現す。
透が息を呑む。
(……黒フード……!)
あの日、陽斗の心を奪い、
透を“支配者”へ誘おうとした男――。
だが、今の彼は前よりもはっきりと“形”を持っていた。
影の奥からは、複数の光のない瞳が覗いている。
「やあ、透。久しぶりだね」
聞き覚えのある声。
冷たく、柔らかく、それでいて薄気味悪い。
透の後ろで、陽斗が小さく舌打ちした。
「くそ……またお前かよ……!」
黒フードは陽斗の視線を笑う。
「怒ってる?
でも、僕は陽斗を嫌いじゃないよ。
君ほど“透を揺さぶれる存在”は他にいないから」
「ふざけんな……!!」
陽斗が前に出ようとするが、
透が素早くその腕を掴んだ。
「陽斗、落ち着け」
「でも……!」
「大丈夫。俺が話す」
陽斗は唇を噛み、透の背に手を置いた。
その温かい感触が、透の胸に力を与える。
(守られてるのは……俺の方かもしれないな)
黒フードは透に向けて手を広げる。
「透。
君は“目覚めた”。
陽斗との共鳴で、君の能力は一段階上がった」
「……能力が上がった?」
「そう。
“読む・寄り添う・上書く”
そのどれでもない。
君の力は――
『共感を超えて、感情の根へ触れる力』
だ」
透の背筋が震える。
(感情の……根……?)
「アクトが君たちの“共鳴”を恐れていたのはそのためだよ。
君の能力は、相手の感情の根源に触れれば触れるほど“強くなる”。
陽斗の深い闇に触れたことで、その段階へ進んだ」
「俺はそんな……望んでない」
「そうだろうね。
でも、力は君を選んだんだよ」
黒フードは空を仰ぐ。
「透。
コーラスに来い。
そこでなら君の力を制御できる。
陽斗を守りたいなら……君にはコーラスが必要だ」
陽斗が激昂する。
「透を連れて行くなんて……絶対にさせねぇ!!!」
「陽斗。
君は優しいね。
でも、理解しているはずだ」
黒フードの声が少しだけ低くなった。
「透の能力は、陽斗のそばにいるほど暴走する」
「……っ!」
「陽斗の心に触れれば触れるほど、
透は“境界”を見失う。
あの精神世界での光……
あれは危険な兆候だった」
凪が硬い声で割って入る。
「黙れ。
透は誰かに縛られず、自分で力を育てる」
黒フードはゆっくりと凪へ視線を向ける。
「霧坂凪。
君は良い監視役だったが……
限界が来ている」
「監視……?」
陽斗が驚きの声を上げ、透は凪を見た。
(……凪?)
凪は目を閉じ、短く息を吐いた。
「透……ごめん。
私は最初、本当に“監視役”だった」
「……っ!」
「でも今は違う。
透を守るためにここにいる。
コーラスのためじゃない」
黒フードが笑う。
「へえ、心変わりかい?
面白いね。
君のようなタイプが一番厄介だ」




