夕陽の校舎で
廊下に出ると、夕陽が長い影を伸ばしていた。
静まり返った校舎は、いつもの学校とは別の世界のようだ。
透は壁に軽く背を預け、深く息を吐く。
「黒い塊……感情を吸う……」
自分以外の“能力者”がいるという事実が、胸に重くのしかかる。
もしそんな存在が生徒の中に紛れ込んでいるのだとしたら――
次の標的が誰になるか、わからない。
その瞬間、透の耳に微かな足音。
「……あれ、透?」
振り向くと、軽く汗をかいた陽斗が立っていた。
サッカー部の練習帰りらしく、額にかかった髪を手で払いながら近づいてくる。
「まだ学校にいたのかよ。珍しいな」
「ちょっと、保健室に」
「具合悪かったのか?」
「いや、違う。……一年の子が倒れてて」
そう答えると、陽斗の表情が一瞬だけ鋭くなった。
しかし次の瞬間には、いつもの明るい笑みに戻る。
「最近、変な噂多いよな。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫」
本心とは違う言葉を返す。
陽斗に心配をかけたくない――その気持ちが先に立つ。
だが。
透がふと陽斗の“感情の流れ”に触れた瞬間、胸が凍りついた。
――陽斗の心の奥に、“かすかな濁り”。
普段は透を安心させるような澄んだ色で満ちているはずなのに、
今だけ、ほんの少しだけ、陰った部分がある。
怒りでも恐怖でもない。
もっと、深いところに沈んでいる“孤独”の影。
(……陽斗?)
瞬間、陽斗が透の顔をのぞき込む。
「どうした? なんか変な顔してるぞ」
「いや……なんでもない」
透は視線をそらした。
陽斗の感情を読み取ってしまった罪悪感が胸を刺す。
陽斗は首をかしげたが、深く追及はしなかった。
「そっか。……じゃあ帰るか。今日はちょっと風冷たいしな」
軽く肩を叩いて先に歩き出す陽斗。
その背中は、いつも通り明るくて力強いはずなのに――
透には、ほんのわずかに“沈んだ影”が見えた。




