陽斗の“闇の扉”
迷宮を進むうち、
透はひとつの扉の前で足を止めた。
扉には、
「八神陽斗の真実」
と書かれていた。
「これ……」
陽斗の視線が強張る。
「透……ここは……開けたくねぇ」
「陽斗……?」
「ここは……
俺がずっと隠してきた、
誰にも見せたくなかった場所だ」
陽斗は透の手を離そうとしたが――
透はその手を強く握った。
「陽斗。
お前の心は、お前が怖がる必要はない。
俺は全部受け止める」
「透……」
陽斗は震えながらも、
ゆっくりと扉に手を伸ばした。
ギィ……と重い音を立て、扉が開く。
その中には――
幼い陽斗が膝を抱えて泣いていた。
暗い部屋。
父親の怒号。
母親のすすり泣き。
兄弟が散っていく音。
家族が壊れていく音。
幼い陽斗は耳を塞ぎながら呟いていた。
「誰も……俺の話を聞いてくれない……」
陽斗は唇を噛む。
「これが……俺の、最初の孤独だ」
透は陽斗の横顔をそっと見る。
(陽斗……ずっと一人で……
こんな痛みを抱えてたのか)
小さな陽斗の影が透を見つめ、音もなく問いかける。
『君は陽斗を助けられるの?
陽斗を救うって言って……
また陽斗を苦しませるんじゃないの?』
透は一歩進み、はっきりと言った。
「陽斗を苦しませたなら――
俺は何度でも謝る。
そして何度でも、お前の手を握る」
幼い陽斗の影が揺れる。
「透……それは…………」
「陽斗。
俺はお前の痛みを“理解したい”んじゃない。
“背負いたい”んだ」
陽斗の目が大きく見開かれた。
「透……お前……なんでそこまで……」
「お前だからだよ。
俺は……お前が大切なんだ」
陽斗の胸の奥で光が広がった。
幼い陽斗も、ほんの少し微笑んだ。
その瞬間――
部屋の天井が割れ、
アクトの影が降ってくる。
「いいねいいね……感動的だ。
でも――それは陽斗の“闇の一部”に過ぎない」
影が床を侵食しながら笑った。
「陽斗の孤独は、まだこんなもんじゃない」
影が陽斗の腕を掴む。
「次は――
“陽斗が透に抱いていた、本当の闇”を見せてあげようか?」
透と陽斗の心臓が同時に跳ねた。
(陽斗が……俺に?)
陽斗の顔が青ざめる。
「やめろ……見せるな……!」
「ほらほら陽斗。
“透と初めて出会った日の気持ち”――
本音を晒そうか?」
透は息を呑む。
(陽斗……
俺と出会ったとき……
どんな感情を抱いてたんだ……?)
アクトは楽しげに囁く。
「君の“救い”は、同時に“呪い”でもあった。
陽斗の本当の闇こそ――君だよ、透」
透の世界が揺れる。
「やめろ!!
俺は陽斗の闇なんかじゃない!!!」
「本当に?」
陽斗は震えながら透を見る。
透は、陽斗の心の奥で揺れる“何か”を確かに感じた。
(陽斗……
お前……俺のことを……)




