影の襲撃と、透の限界
屋上を埋め尽くす影の渦。
アクトの影の手が陽斗に伸びる――その瞬間、
「やめろォッ!!!!」
透の叫びと同時に、
透の胸から“光の波”が爆発した。
白い光が影を弾き飛ばし、
陽斗の身体を覆いかけていた影の手が蒸発するように消えた。
「……なに……?」
アクトの声に、わずかに驚愕が混じった。
透自身も理解していなかった。
だが、ただ身体が勝手に反応した。
(陽斗を……守りたい……!)
その願いだけが透の能力を押し広げ、
光となって現れた。
屋上の床には強い光の境界線が走り、
アクトはその外に跳び退く。
「透……お前、今の……」
陽斗が震える声で囁く。
透は呼吸を乱しながら、陽斗の肩を支えた。
「大丈夫か……?」
「うん……でも、お前のほうが……」
透は自分の腕を見る。
光が散るようにひび割れる。
能力を無理やり引き出した反動だ。
アクトは静かに拍手をした。
「素晴らしいよ、神代透。
君がそこまで“陽斗に執着している”なんて……
僕は誤算だった」
透の胸が熱くなる。
「陽斗への気持ちを、執着なんて呼ぶな!!」
「事実だろ?
君の中には確かに“優しさ”がある。
それは否定しない。
でもね――」
アクトは陽斗を指差した。
「そこにある“欲望”も認めないのか?」
透は息を呑む。
「透。
陽斗を守りたい。
陽斗に嫌われたくない。
陽斗に必要とされたい。
その全部――支配の種 だよ」
「っ……!」
アクトは影を伸ばし、ゆらりと近づいてくる。
「君は自分の心を取り繕ってるだけだ。
人を“愛したい”という感情も、
結局は“独り占めしたい”という欲望に近い」
陽斗が透の腕をつかんで震える。
「透……違うよな?
お前は……そんな……」
透は苦しげに陽斗を見つめた。
「俺は……お前の心を奪いたかったわけじゃない……
ただ……守りたくて……」
「守りたかった?
じゃあどうして――
“傷つくのを恐れて距離を置こうとした”?」
「!」
図星を突かれ、透は言葉を失う。
アクトは嘲笑うように続ける。
「本当は心の奥で、
陽斗の心に触れることから、逃げていたんだろ?
君が本当に怖れていたのは――
陽斗の心そのもの なんだよ」
陽斗の瞳が揺れ、透を見つめる。
「透……?」
透は胸が苦しくなる。
(……俺は。
陽斗の心に触れたら……
何を見てしまうんだろうって……
ずっと怯えてた。
本音を知ったら、壊れてしまうんじゃないかって……)
アクトは冷たく言う。
「だから君は、陽斗を“支配”したかった。
自分の都合のいい形で心を整え、
自分の痛みが出ないように調整したかったんだ」
「違うッ!!!」
透の叫びが屋上に響く。
だが、心のどこかが震えていた。
否定しきれない“弱さ”が胸に張り付いている。
(俺は……陽斗を、守ると言いながら……
本当は、失うのが怖かっただけ……?)
陽斗が透の腕をつかむ手に力をこめる。
「透……俺、お前に何度も助けられた。
それは全部……本物だって思いたい」
「陽斗……」
「でもさ……俺の心を揺らしてるのが透の“優しさ”だけなのか、
“透の力”なのか……
そこが、まだわかんねぇんだ……!」
陽斗の目に涙が浮かぶ。
「透の声を聞くだけで胸が疼くのは……
本当に俺の感情なのか……
それとも……お前に“書き換えられた”だけなのか……」
透の胸が押しつぶされそうになる。




