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影踏みのルミナス  作者: antild


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35/67

影が“浮かび上がる”

「透、本当にどうした?

 なんか俺の背中を怖いものみたいに……」


「陽斗……じっとしてろ」


 透はゆっくり陽斗の横に立ち、

彼の影が落ちている床に目を細めた。


 夕陽の角度で伸びた影は、

さっきよりも“濃く”“深く”見える。


(そこに……いるんだな)


 透の胸の奥で、感情の波が騒ぎ始める。

 怒り、焦り、恐怖、そして陽斗を守ろうとする強烈な衝動――


 その編み目の中から、影がぬるりと浮かび上がった。


「……っ!」


 陽斗が驚いて一歩下がる。


「な、なんだ今の……?」


 透は陽斗の腕をつかんで後退させた。


 影はゆっくりと形を変え、

黒い液体のように床に広がり、

やがて“人間の輪郭”を作り始める。


 凪の声がスピーカーから飛び込んできた。


《透! そいつよ!

 第三の能力者――“影潜りのアクト”!!》


「アクト……!」


 影の人影が、透たちの前で形を固めた。


 全身が黒い、影そのもののような姿。

 輪郭は曖昧で、目だけが光のない穴のように空いている。


 影の口が、ぎしりと動いた。


「……やあ、神代透。

 ようやく会えたね」


 声は若い。

 だがその響きは、異様に冷たかった。


「お前が……第三の能力者……?」


 影は、まるで口元で笑うように揺れた。


「そうだよ。

 そして――僕はずっと陽斗の感情に触れてきた」


「……っ!」


「陽斗は綺麗だ。

 孤独の形が透き通っていて、甘く、壊れやすい。

 黒フードが奪えなかった部分は……全部、僕がもらった」


「何をした!」


 透が叫ぶと、アクトは陽斗に視線を向ける。


「陽斗の中には今……

 “透への恐れ”と“透への依存”が残ってる」


「!」


 陽斗が青ざめた。


「透……お、俺……そんな感情……?」


「陽斗のせいじゃない!」


 透が叫ぶ。


「全部――こいつが仕組んだんだ!」


 だがアクトは嘲るように囁く。


「仕組んだ?

 違うよ。

 僕はただ、陽斗の本音を“浮かび上がらせた”だけ」


「黙れ……!」


「君が陽斗に向ける感情が強すぎるから……

 陽斗の中にも“歪み”が生まれたんだ」


 透の胸に痛みが走る。


「違う……

 俺は陽斗を傷つけたくないんだ……!」


「でも結果として――

 陽斗は君を“怖い”と思ってる」


 陽斗が息を呑む。


「透……

 俺……お前に触れられるの……少し怖かった時があった……」


 透の胸が冷たい水に沈む。


「陽斗……?」


「違う、違うんだ……

 怖い……でも安心する……

 その“両方”が混じって……胸がぐちゃぐちゃで……!」


 透は陽斗に一歩踏み出すが――


「動かないで」


 アクトの声がそれを止めた。


「透。

 君の心が陽斗に“触れたい”と思えば思うほど、

 その衝動は陽斗の心に“負荷”を与える」


「そんな……」


「人を救いたいという気持ちは、

 時に“相手の自由を奪う鎖”となるんだよ」


 透の心に、痛烈な刃が刺さる。


(……俺は……陽斗を支配しようとしてるのか?

 怖がられたくない、嫌われたくない……

 その想いが……結局、陽斗を縛ってる……?)


 アクトは静かに告げた。


「神代透。

 君の力は“優しさ”と“支配”の境界にある。

 その境界線を越えさせるために――

 僕は陽斗を奪う」


「そんなこと……絶対にさせないッ!!」


 透が叫んだ瞬間――

 アクトの影が無数に増え、屋上を覆う。


「透……!!」


 陽斗が透の腕を掴む。


 その時――

 陽斗の胸の中に眠っていた“光”が、ふわりと揺れた。


(陽斗……!)


 アクトは愉悦の声を漏らす。


「さあ透……

 “守りたい”という独善で陽斗を壊すか、

 それとも、陽斗を手放して支配から逃げるか――

 選んでよ」


 屋上に影が渦巻き、

 陽斗の影が、主を飲み込もうと伸びていく。


(陽斗……! やめろ!!)


「透……助けて……っ!」


 陽斗に向かって伸びる影。

 透は一歩、踏み出す。


(俺は……どんな形でも……陽斗を離さない!!)


 光と影が激しくぶつかり合う音が、

 屋上に響き渡った。

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