夜の電話
その夜。
透のスマホが鳴った。
画面には 凪 の名前。
「……霧坂?」
《透。今、話せる?》
「うん」
電話越しの凪の声は、いつになく緊張していた。
《黒フードの残留気配……調べた。
どうやら、あいつは“組織”の人間だった》
「組織……?」
《この街には、異能の研究をしている集団が存在する。
正式名称は不明だけど、裏では“コーラス”って呼ばれてる》
「コーラス……?」
《異能者を観察し、記録し、ときには“誘導”する。
あなたや喰感者の修也も、彼らの監視対象だった可能性が高い》
透の背中を冷たい汗が流れる。
(俺たちは……最初から監視されていた?)
「黒フードも……そのコーラスの一員?」
《可能性が高い。
でも問題は黒フードじゃない。》
凪は深く息を吸いこんだ。
《透。
“第三の能力者”が……陽斗の周りに現れた》
「……それ、俺も気づいてた」
《どういうこと?》
「陽斗の影が……微笑んだんだ」
電話越しに、凪が言葉を失った気配がした。
《透……それ、本格的に危険よ》
「影に……意思があるように見えた」
《第三の能力者の力は“感情の奪取”。
影へ潜んで“感情の抜け殻”を作り出すことができる》
「つまり……陽斗の心がまた狙われてる?」
《そう。
おそらく陽斗の“心の復元”を完了させないうちに、
第三の能力者は“次の奪取”を始めてる》
「そんな……!」
透は拳を握り締めた。
《透。あなたの力じゃないと、陽斗を守れない。
でもあなたの力は、陽斗を傷つける可能性もある》
凪の言葉は正しい。
しかし透にはもう迷う余裕はなかった。
「俺は――陽斗を守るよ」
《透……》
「たとえ嫌われてもいい。
俺は……陽斗を失うほうが、ずっと怖い」
凪はしばらく黙った後、小さく呟いた。
《……あなた、本当に強いわね。
でも、ひとつ言っておく》
「?」
《“守る”って言いながら、
あなたの心が陽斗に向いているその強さは……
共鳴者としては、最も危険な形よ》
透の心臓が大きく跳ねた。
《だから――気をつけて。
陽斗にとって“一番の危険”になるのは……
あなた自身かもしれない》
透は唇を噛んだ。
「…………俺は傷つけない」
《決めるのはあなたじゃない。
陽斗よ》
電話が切れる。
静寂だけが残った。




