陽斗の心の影
旧校舎を出ると、空は群青に染まっていた。
透は昇降口へ向かいながら思う。
(俺は……陽斗を傷つける可能性がある……
でも、守らなきゃいけない……
そのためには、力と向き合うしかない)
思考に沈む透の前に、
ひょい、と陽斗が現れた。
「おっそーい!
透、帰るなら一緒だって言ったろ?」
陽斗は笑う。
その笑顔を見て、透の胸は締めつけられる。
陽斗は気づかぬまま透の頭を軽く叩く。
「なに難しい顔してんだよ。
また哲学してた?
“俺は何者か”とか?」
「……近い」
「マジかよ!」
陽斗は大袈裟に笑う。
その明るさが、透には眩しすぎた。
(陽斗……
俺はお前を救ったけれど……
また脅かす存在にもなりかねないんだ)
透は小さく息を吸い、言った。
「陽斗……お前、昨日のこと……どこまで覚えてる?」
陽斗は空を見上げる。
「……今も少し胸が痛い。
透と一緒にいた時の気持ちは戻ったけど……
全部が全部じゃない」
透は胸が痛む。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃねぇけど……透が隣にいりゃ何とかなるだろ」
軽く、自然に口にする。
だがその言葉に、透は一歩だけ踏み出せなくなる。
(俺は……陽斗に触れていいのか?
また心を揺らしてしまうんじゃないか?)
透が黙っていると、陽斗が覗き込む。
「透。
お前だけは……俺から離れんなよ?」
「……そんなわけ、ないだろ」
「なら、よし!」
陽斗は笑った。
だがそのとき――
陽斗の背中の影が、微かに“揺れた”。
(……また、影が……?)
胸の奥で警鐘が鳴る。
(黒フードじゃない……
もっと違う……冷たい気配……)
凪の言葉が頭をよぎる。
「“第三の能力者”はまだ姿を現していない」
(――まさか)
透は陽斗の影の揺れを、目の端で捉えた。
“それ”は一瞬だけ形を持ち――
微笑んだ。
透の胸が凍りついた。
(陽斗の背後に――誰かがいる……!)
夕闇の風が、不穏なざわめきを運んだ。




