孤独な目をした少女
放課後。
透が昇降口へ向かう途中、
ひそやかな声が彼の名を呼んだ。
「……神代透」
その声に振り向くと、そこには霧坂凪がいた。
夕陽が廊下を赤く染め、凪の長い髪がその光を吸い込んで黒く揺らめく。
「話があるの。ついてきて」
促されるまま、透は人気のない旧校舎へと歩いた。
ほこりの匂い、色褪せた床、ひび割れたガラス越しの夕陽。
どこか廃墟を思わせる静けさ。
凪は窓際に立ち、透の方を見ずに言った。
「昨日の黒フードのこと、話さないといけない」
「……知ってるのか?」
凪はゆっくりと首を縦に振った。
「“感情系の能力者”を名乗ってるなら、おそらく……
《共鳴者》の一人」
「……共鳴者?」
「“感情を読み、操作し、支配する”素質を持つ者たちの総称よ。
透、あなたもその一人」
透の胸がざわつく。
(共鳴者……俺は……そんなグループの一部なのか?)
凪は続けた。
「この街にはね……
あなたや黒フードのように、“心に干渉する異能者”が少なくとも三人いる。
あなたで二人目。
そして――黒フードが三人目」
「三人……?」
「ええ。
“感情を読める者”、
“感情を支配する者”、
そしてもう一つ……“感情を奪う者”」
透の背筋に冷たいものが走る。
「喰感者の修也は……?」
「喰感者は異能の分類ではない。“汚染された能力”。
本質は、“奪う者”に近い」
透は息を呑んだ。
凪は静かに振り返り、透をまっすぐ見つめた。
「そして――
“第三の能力者”はまだ姿を現していない」
「黒フードとは違う……?」
「違う。
黒フードよりもっと強くて、もっと危険。
あなたの力を目覚めさせたがっているのは黒フードだけじゃない」
透は凪の言葉を飲み込んだ。
胸の奥で何かが軋む。
(俺は……狙われている……)
凪は静かに呟いた。
「透。
あなたには陽斗を守る力がある。
でも同時に、陽斗を最も傷つける可能性を持つのも……あなただ」
「…………っ」
言葉を失う透。
凪の瞳は、どこか寂しげだった。
「だから……
私はあなたの側にいる。
“あなたの力”が暴走しないように」
透は目を見開く。
「凪……?」
「勘違いしないで。
私はあなたを信じてるわけじゃない。
“見張ってる”だけよ」
淡々とした言葉とは裏腹に、
凪の目はどこか優しかった。




