崩れゆく心の世界で
陽斗の精神世界は、いまや崩壊寸前だった。
床は黒い亀裂に覆われ、空は灰色に濁り、
陽斗の記憶の欠片が“雨”のように落ちていく。
幼い陽斗が笑っている断片も、
透と並んで帰った日の光景も、
すべて色を失い、崩れ落ちていく。
「透……こわい……」
陽斗が弱々しく呟いた。
その声は、透の胸を強烈に刺す。
(――陽斗が、消えそうだ)
陽斗の“心そのもの”が、黒フードの干渉に耐えられず崩壊し始めている。
透は、陽斗の手を強く握った。
「大丈夫だ。絶対に助ける。
陽斗、お前は俺の――」
喉まで出かかった言葉を、透は飲み込んだ。
“お前は俺の大切な存在だ”、と。
それは言葉にするには重すぎて、
そして透自身がその言葉に怯えていた。
本物の想いを口にする恐怖と、
その想いが“支配”だと疑われる恐怖と――
透は両方に怯えていた。
黒フードが冷ややかに笑う。
「さあ透。
選べよ。
陽斗を救うために支配を受け入れるか、
支配を拒んで陽斗を失うか」
「黙れ!」
透が叫ぶと、黒フードは肩をすくめて笑った。
「お前の心は、もう暴れてる。
感情が不安定なとき、能力は暴走する。
もう“傷つけずに触る”なんてできるわけがない」
(そんなこと……)
透は陽斗の顔を見る。
陽斗は怯えきっている。
自分が消えていく恐怖、
親友への想いがわからなくなる不安、
全部が透に流れ込んでくる。
(こんな陽斗、初めてだ……。
俺が、守らないといけないのに……)
透の胸が痛いほど熱くなる。




