精神世界の裂け目
陽斗の精神世界の中心。
暗闇と光の境界に、黒フードの男が立っていた。
透と陽斗の想いが重なって生まれた“心の場”を、
まるで自分の庭のように踏み荒らしている。
「感情の……支配……?」
透が震える声で言うと、黒フードはゆっくりと微笑んだ。
「そうだよ。
お前の能力は、読心でも上書きでもない。
“他者の心を塗り替え、支配する力”だ」
透の胸が冷たくなった。
「俺は……そんなつもりじゃ――」
「つもり? そんなの関係ない。
能力っていうのは“性質”だ。
善悪は後付け。
お前はただ、“自分が怖くて認めていないだけ”」
透は唇を噛んだ。
確かに、能力に触れるたびに怖かった。
自分の心が揺れ動けば、相手を傷つける可能性があるから。
(本当は……ずっと目をそらしてきた)
黒フードは、透の心を見透かすように言う。
「お前は相手の感情に触れた瞬間、
“自分の望む方向へ心を誘導する力”を持っている。
それは共鳴でも救いでもなく、
支配の萌芽 だ」
「そんな……!」
透の否定の声は弱かった。
胸の奥に、微かな確信があったから。
――自分は陽斗を守りたいと思ったとき、
陽斗の不安を勝手に“薄めよう”としてしまった。
その行為は、相手の心を踏みにじったのかもしれない。
陽斗の表情が苦しげにゆがむ。
「透……お前……俺の気持ちを……」
「陽斗、違う! 俺は……お前を――」
「透の言葉が本当でも嘘でも……
俺はもう……自分の気持ちが信じられない」
その言葉は、透の心を深く刺した。




