闇の底で
黒い影が広がり、凪が叫ぶ。
「来るわよ! 透、下がって!」
「っ……!」
黒い影が触れた床が一瞬で暗闇に変わり、
透の足元が崩れ落ちるような感覚が襲う。
視界が、歪んだ。
(――精神世界に引きずり込まれる!?)
凪の手が伸びるが間に合わない。
「透ッ!!!」
透の体が影に飲み込まれ、世界が弾けた。
気がつくと、透は黒い霧の中に立っていた。
足元も空もない、ただ濁った闇の世界。
(ここは……修也の精神世界?)
透の胸がざわめく。
遠くで、誰かが泣いている声がした。
「やめて……やめてくれ……」
その声は、透の知る誰の声でもなかった。
だが、“孤独”と“怯え”の色が混ざった感情が、痛いほど伝わってくる。
「……御堂 修也?」
問いかけると、霧が裂けるようにひとつの影が形成された。
子どものように蹲る少年の姿。
「近づくな……!
俺の……感情なんか……見ないでくれ……!」
その声は苦しみに満ちていた。
透は歩み寄ろうとする。
「修也……お前――」
「来るなぁッ!!」
修也の叫びと同時に、黒い世界が爆発したように揺れる。
巨大な影が背後から現れ、透を飲み込もうと腕を伸ばす。
修也の怒りと恐怖が合わさった“怪物”が迫る。
(まずい……!)
透は本能的に感情の流れへ手を伸ばす。
修也から溢れる“恐怖”を読み取り、逆に“安定”を送り込もうとする――
だが。
その瞬間、修也の感情が叫び声とともに弾けた。
「俺に触れるなァァァ!!!!!」
黒い衝撃波が透を弾き飛ばした。
(ぐっ……!)
精神世界とはいえ、痛みは本物。
全身に痺れるような衝撃が走る。
透は歯を食いしばり、立ち上がった。
「修也……お前は孤独なんかじゃない。
誰かに助けを求めたかったんだろ……!」
「黙れ!!! 知ったような口を……!」
影が再び襲いかかる。
透は、自分の胸の奥の“恐れ”を掴んだ。
そして、それを逆に利用する。
(俺の恐怖を……押し返せ!)
透は自分の感情を“上書きの衝撃”として放つ。
黒い影と透の感情が衝突し、
精神世界に激しい光が走った。




