陽斗の“もうひとつの顔”
放課後。
透は陽斗の部室の前まで足を運んだ。
心配を隠しきれないまま、ドアを開ける。
「陽斗。帰るか――」
部室には陽斗がひとり、窓辺でぼんやりと外を見ていた。
夕陽に照らされた横顔は、いつもの明るさが消え、
静かで、どこか脆かった。
「……陽斗?」
陽斗は振り返り、微笑んだ。
「透……ごめん、今日は先に帰るわ」
「具合悪いのか?」
「いや……違う。なんかさ……」
陽斗は視線を落とした。
「自分でもよくわかんねぇんだけど……
最近、胸の奥が苦しいんだ。
誰にも話したことないけど、透には……隠せねぇな」
透は息を飲む。
(やっぱり……喰感者の影響だ)
陽斗は、微笑とも苦笑ともつかない表情で呟いた。
「透の前だとさ、なんか……楽になる。
でも同時に、変な感じもするんだよ。
“触れてほしいけど、触れられたくない”みたいな……」
それは、陽斗の孤独が“揺れ始めた”証拠。
透の感情に触れたことで、陽斗の闇が浮き上がってきている。
「透……俺って、変なのかな?」
「変じゃない。……全然」
「そうか。」
陽斗は笑う。
しかしその笑顔は、ひどく寂しげだった。
透は気づく。
陽斗の心の奥底――
そこに、黒い影が微かに絡みついている。
(……陽斗が喰感者の“次の餌”になる)
胸が締めつけられた。
「陽斗……」
「ん?」
「――今度こそ、俺が守る」
陽斗は意味を理解できないように、少しだけ目を見開いた。
その瞳には、透の知らない“深い痛み”がかすかに揺れていた。
そのとき。
校舎のどこかで、空気がひび割れるような音がした。
喰感者の気配――
それが、また校内で大きく揺らいだ。
透と陽斗の“距離”が、初めて大きく軋む音がした。




