凪の忠告
昼休み、透は人の少ない図書室に向かった。
凪から昨日、
「あなたも狙われ始めている」
と言われたことが、ずっと頭に残っている。
本棚の影に、凪は無音で立っていた。
「来ると思った。顔に“悩んでます”って書いてあるもの」
「……俺の能力、昨日のあれで少し分かった気がする。
相手の感情を押し戻したり、書き換えたり……」
「そう。あなたの力は“上書き型”。
でも、それは諸刃の剣」
凪は指先で空気を払うようにして続けた。
「自分の感情を強く使うほど、あなた自身の心が削れる。
昨日のあなたは危なかった」
透は言葉を失う。
「それに――喰感者、昨日より強くなってる」
「……昨日の影が?」
「そう。たぶん誰かの“孤独”を喰った。
体育館の裏で、感情が大きく崩れた跡があった」
透の胸が強く波打った。
(――体育館の裏?
昨日、練習があったのは……陽斗だ)
「透。何か知ってる?」
凪の問いが、鋭く心に突き刺さる。
「……陽斗が……狙われてるのか?」
その名前を口にした瞬間、凪の目がわずかに細くなった。
「陽斗……あの明るい人気者の?」
「あいつ、昨日どこか不安定で……影が差してた」
「――なら、間違いない」
凪は静かに告げた。
「喰感者が次に狙うのは、八神陽斗」
透の呼吸が止まる。
「陽斗の中の“孤独”は、美しい。
あれを喰えば、喰感者は一段上の力を得る」
「……美しいって……」
「純度が高い孤独は、透と同じ“光”を持つ。
でも陽斗のは、もっと壊れやすい」
透は拳を握りしめた。
「……陽斗に、手を出させない」
その声に、凪が初めてわずかに微笑んだ。
「その決意は悪くない。でも一つだけ言っておく」
凪の視線が透の胸を貫く。
「陽斗を守りたい――その気持ちも“強すぎる感情”。
喰感者はそれすら餌にする」
透は目を見開いた。
――自分の想いまで利用されるのか。
「感情は力になる。
でも同時に、最大の弱点にもなる」
凪の言葉は透の胸に深く刺さった。




