男女の男女の友情は成立するか
ごめん、好きなんだ」
そう苦しそうに告げた充の顔をいまだに忘れることができない。
私、あの時なんて返せばよかったのかな。
「ゆづ、お疲れ様」
「うん、ありがとう」
誰もが羨む、カッコよくて優しい彼。
誰にでも平等で正義感の強い彼はみんなの人気者。
だから、、
「ゆづ、飯食いく約束なんだけど、友達が具合悪いらしくてさ。
そいつ一人暮らしだから心配で、、、飯また今度でもいい?」
「、、、うん、もちろん良いよ」
他の人じゃダメなの?そう思ってしまう私はきっと悪なのだろう。
ありがとう、彼はそう言い安堵の表情を浮かべる。
彼は悪くない、仕方がない。
今日1時間かけて完成させたメイクも、
服を選ぶのに右往左往していたのもきっと彼はきっと知らないのだから。
「、、、送ってくれてありがとう。」
駅まで送ってくれた彼に礼を告げると。彼は再びごめんと手を合わせた。
謝るくらいなら、行かないで。そう思っても口に出さない私は大人なのか弱虫なのか。
私がそう考えていると。
私の隣で話ていた、女の子が通行人に押されてよろけ、私目掛けて倒れてくる。
私も今日は慣れないヒールを履いていたせいで支えきれずよろけてしまった。
倒れる!そう思い覚悟を決めたが、逞しい手が私を支え、私たちが倒れるのを防いだ。
「大丈夫!?」
彼の声が聞こえて、大丈夫と返そうとするが。
私ではなく倒れた女性に向けた言葉だったようだ。
彼は女性を起こし、心配そうに見つめていた。
私がその様子をただ眺めていると、
「ゆづ、大丈夫か?」
懐かしい声が上から降って聞こえた。
どうやら逞しい手の正体は充だったらしい。
充は心配そうにして膝をつき私の足の具合を見る。
「今のところ、腫れてはないようだけど、ひねっただろ、痛くないか?」
そう私だけを心配してくれる充を見ているとなんだか泣きそうになった。
充は私の顔を見ると慌てた様子で、病院に行こうか?と尋ねた。
私は大丈夫といい首を振る。
すると遅れて彼が、ゆづお待たせと、私の具合を確認せず話かけてきた。
そんな彼に再び涙が出そうになって、でもこの涙を見せたくなくて慌てて充の背中に身を隠す。
私何をしているんだろう。
ゆづ?彼はそう不思議そうな顔をして私を覗き込もうとする。
すると充があー、えっと、と考えながら私を庇う。
「倉木さん!久しぶりだね、駅まで一緒して良いかな!」
充は機転を効かせて、私の方へ向き直る。
せっかく充が作ってくれた空気にありがたく便乗させてもらう。
「ひ、久しぶりだね大高くん!もちろんだよ!」
じゃあねと充の背中越しに彼に語りかけてみる。
彼の表情は見えないが、きっと良い気はしていないはずだ。
彼はいつもより少し低い声でじゃあねと告げると歩き始めた。
「、、彼氏だよな?ごめん余計なことしたかも」
なぜだろう胸が痛む。
「ううん、すごく助かった。支えてくれたのも感謝している」
ならよかったと彼は私に笑顔を向けた。
男の人にこういう表現はいかがなものかとも思うが。
本当に充は花が開くような笑い方をする。
だから昔は意味もなく笑わせてみたりしたものだ。
私が告白を断ってからというもの格段に連絡する頻度は減った。
きっと充は私に気を使ってくれていたのだろう。
私はそれがたまらなく悲しかった。
「倉木、俺こっちだけど倉木は?」
「ゆづでいいよ、私はこっち」
そう言って私は充とは逆の右を指差した。
「彼氏いるだろ、流石に気ぃ使うわ」
そう、この男は気を使えるのだ。
そんなのずっと前から知ってる。
「それもそうだね、大高くん」
「だろ倉木さん」
ふふ、二人息を揃えたように笑い出す。
あの頃に戻ったようだった。
「ごめん、好きなんだ」
そう告げた充を、、、大好きな人を私は傷つけた。
自分に自信がなかった。
充と出会ったのは、歩道橋だった。
野良猫が、歩道橋の隙間から身を乗り出すのを見た私は、慌てて野良猫目掛けて手を差し伸べる。
野良猫を無事捕まえることができたのだが、その後を考えていなかった。
私は歩道橋に向かってダイブしたような物だ。きっと頭をぶつけるに違いなかった。
私を包んだのはシトラスの香りと、セーターのふわふわとした生地だった。
遅れてどんという鈍い音が聞こえて、目を開けると、
同い年くらいの男の子が、鳩尾あたりを抑えてうずくまっていた。
私の頭があった位置だ。
「あ、あのすいません!!」
思いっきり頭を突き刺してしまって。そう付け足すと青年はおかしそうに笑った。
花が開くように笑う人だなと思った。
充とは高校こそ違ったものの、家が意外にも近く買い物とか出かけ先ですれ違うことが多かった。
そのたびに挨拶をして会話する。段々と日常会話も増えてきて約束して会うことも多くなった。
それから充を好きになるのに時間は掛からなかった。
紅葉が綺麗な公園に遊びに行った。
冬は小さい雪だるまを作ってみたり。
春には桜を見に行ったりもした。
彼はかっこよくて背も高くて勉強までできるときた。
図書館で勉強を教えてもらったのはいい思い出だ。
「ねえ、男女の友情って成立すると思う?」
クラスで友達が話していたものをふと思い出して、聞いてみた。
すると充は少し考えこんで、すると思うよ。そう告げた。
「私もそう思う」
あの時の私はうまく笑えていたのだろうか。
私のことをやはり恋愛として意識していないのだと悲しくなった。
いくら距離が近くても友達は友達なのだ。
彼女にはなれない。
そう思っていたものだから。
告白された時は驚いた。
彼は男女の友情は成立すると言ったのを覚えていたのだろう。
謝りながら告白してきた。
嬉しい、そう思う気持ちと一緒に不安が胸を締め上げる。
彼氏彼女になったら私たち今のままでいられなくなっちゃうんじゃないかな。
充を失いたくないな。
私は私に自信がないのだ、自分のことなのに他人の評価で惑わされてしまう。
こんな弱い私知られたくない。
「、、、ごめん」
自分勝手に告げた否の答えを充は笑って受け入れてくれた。
「聞いてくれてありがとう。」
その笑顔に泣けてくる。
その瞬間悟った。
もう幸せなあの頃には戻れないのだと。
家に帰ると、彼からLINEが三件。
改めて、デートへ行けなかったことへの謝罪と、話たいことがある。
というLINE。
私はわかったと返信して眠りについた。
「おはよう」
「おはよう。」
私たちは購買で待ち合わせして、一緒に教室へと向かう。
話は大体想像がつく。
「昨日の男だれ」
やはりきた。
「、、、友達だよ」
「俺、申し訳ないけど男女の友情って成立しないと思っているんだ。
大体はどっちかが好きになる。」
今日の彼はいつもに増して押しが強い。
よほど彼のことが気に入らなかったんだろう。
私が仲良くしていたからじゃない。
背の高さも、器の広さも、顔も何もかも負けていると気づいてしまったから。
きっと八つ当たりされている。
そう思ってしまって気づいた。
「ごめん、別れよ」
昨日充からラインで無理してない?と送られてきていた。
あんな短時間あっただけで私の心情を見抜いてしまう。
「、、は?なんでそういう話になるの?あいつのせいか?」
紳士を気取っている。彼の皮が剥がれていく。
「充は関係ないよ、私、正しくなくて良い、間違っててもいい。私だけを大切にしてくれる人がいい」
「意味わかんねーよ!!」
「彼女がいるのに一人暮らしの女の家なんか上がるなつーの!彼女より、他の人の心配するなっつーの!!!」
彼が一瞬怯む。
「、、、さよなら」
彼は後ろから何かを叫んでいたが、私が振り向くことはなかった。
「倉木?どうした急に会いたいだなんて」
「ねぇ、男女の友情って成立するのかな」
充は驚いたような顔をする。
そりゃそうだ。
「、、すると思うよ。」
じゃなきゃ俺は倉木に会えていない。そう充は補足する。
「私は、しないと思ってた昔からずっと」
「それってどういう、、、」
「好きなの充が、、、」
充は目を見開くと髪を掻き上げた。
それは充が動揺した時に見せる癖でもあった。
「ごめん、頭が追いつかない。夢じゃないよな」
続けて充は言う
「、、、俺も好きだよ」
そして花が開くような笑顔を見せた。




