前編
彼はほぼ一文無しの生活者。
なぜならば、フードコートのニート民だから。
普通なら部屋に籠もりっ放しの生活者を指すニートだが、仕事あると空出勤を年がら年中実行してる者なのだ。
フードコートでは清掃担当の店員が利用者が寝てても起こしにいかない。
その訳は作業机のように物を置き、飲食物を意図的に用意してるから。
それを云百くらい毎日のように実行してるから、大したものである。
寝ている以外はポイント活動……つまりポイ活をコツコツと副業的に作業している。
この男……有岡振兵は、現代36歳。
無職でなく派遣社員生活者であった。
派遣単発が派遣法により案内ができないため、外部サイトの紹介所企業からの応募でちまちま応募をくりかえしてきた。
つまり、応募しては不採用。いろんな対策で、Web面談しても不採用。
とどのつまり、ポイント活動しか収入は入らなくなり、無職同然になった。
大型スーパーやショッピングモールのフードコートに入りびたり、こうして毎日のように寝起きしては飲食、ポイント活動のゲームコンテンツで遊ぶ=仕事をコツコツこなしているのだ。
云百くらい続けてると脳が働かなくなりマヒ状態になる。
ならば、もう強盗しか思いつかなくなった。家族と暮らしてるので、捕まりたくない。
しかしそう悠長でいられるほど余裕はないから、実行する計画も練らねばならない。
ネット銀行の融資プランも費えた。返済の督促状も来た。
同居の家族は郵便受けには行かないのでそこは難なくクリアしている。
督促状がたまりすぎた。
電気通信事業者から携帯の利用制限も来た。もう選択肢は強盗しかない。
店舗とか銀行は逮捕リスク確率が高いのでやらない。だから、家宅で行うのだ。
チャイムを押して鳴らす振兵。
出てきたのは、ごく普通の老年の男性だ。
「ごめんください」
振兵は普通にインターホン越しに正門堂々と入ろうとしたのだった。
「どなた様かな?」
「お見せしたい物がありまして、それに目を通してほしく訪問しました」
老年男性は疑わなかった。
見なければ分からない物もあるからだ。
「玄関先までご案内いただきありがとうございます。ではさっそ……」
「リビングにどうぞ。こんなせまい下駄箱のある所じゃ、話すらできまい。さぁどうぞ」
男性は疑念もなく振兵を迎え入れた。
この家は警備保障とかの企業登録してないのかと思うくらいセキュリティーはそこまでなく緩和状態だった。
「お茶をどうぞ」
「あ……はぁ、お構いなく」
「で、どのような事ですかね?」
「あ、はい。実は自分の身の上話を持ち出してもよろしいでしょうか?」
「おおっ。わしはその話の相手いなくて寂しかったのだよ。ぜひお話ください」
ここまで疑いもなくすんなり事が運ぶのは、強盗しづらくなりそうだと振兵はさとったのであった。
「なるほど。つまりお前さん……シンペイさんは今は少額しかなく生活苦と? それで、このわしの家では何をしに?」
「話の流れからして欲しい金額ぶんのお金をいただく形ですが、やはりそれは虫の良い話ですので。だから打ち明ける相手がいて嬉しかったです。スマホの内容もマスターしていたので、話しやすかったから、こちらでは本当に助かりました。ありがとうございました。では、ぼくは失礼します」
「お待ちください。ほんの少しばかりだが、このわしの財布にあった3万はそれの足しにしなさい。このまま手持ちぶさたで帰らすなんてできないですから」
ここまでやさしく接してきた男性に振兵は気不味くなった。当たり前だ。強盗男に家の主人が許して金品を差し出すなんて、普通にあり得ない事なのだから。
振兵は家を後にし、4、5キロくらい離れた公園でペットボトルのコーヒーを一服したのだった。
(あーあ、ここまですんなり事が進んでもらってしまった。こんな強盗までしてどうやってコレ使えばいいのか分からなくなった。返すにも借金返済するより難儀になったしな。はぁ、どうしよ〜)
取り敢えず、この3万はネット銀行の未払いからしようと振兵は決意するのであった。