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「こっちだって、今の市議会議員なんて知らない人達ばっかりだよ。昔は面識のある人たちもいたけど。昔も大概ではあったけど、今の議員たちなんて本当に酷いもんだよ。あの駅の『あのベンチ』のひっどいものまねつくったの見ればわかるでしょ」
「それはまあ……」
「ずっと見ていたくなるような琵琶湖の水面じゃなくて、不景気極まれりの片田舎のシャッター通り見ていて何が楽しいのかって話だよ」
やはり誰が見ても、あれはそうとしか思えまい。
「まあねえ」
親は少し怒っているのかもしれない。
「この町、終わるよ。まじで。駅前の寂れ方見ればわかるでしょ」
「でも、シャッター通りなんて今日日その辺にいくらでもあるでしょ? 地方に限らず都会だって珍しくもなんともないよ。それに駅前の寂れっぷりって言うんなら、隣りの駅前の方が更に酷いもんでしょ。本当に酷いもんだったんだけど。壊滅状態じゃなかった? 少なくともこっちの知っている限りじゃ、そんな風だったけど」
隣りの駅とは隣りの町――隣りの市のことでもある。町の大きさ――都会加減でいえば、私の実家の最寄りの町より大きく、隣りの隣り町よりも小さいという感じである。尤もこの三つの市、この三つの町の中では、隣りの隣りの市――町が格段に大きな都会なのではあるが。
「それともその後、あっちは劇的な復興を果たしたとでもいうの?」
「あっちの駅前の商店街は、多分、あんたの知っている通りだよ」
「だったら、あっちはあれ以上悪くなりようがない、っていうかそれこそどん底って状態だったよ。それなら、あっちの方が絶対にヤバいじゃない」
「でも、あっちはだいぶ盛り返しているんだよ」
「えっ、だって、あんなんなんでしょ? あんなふうなままもちなおしているって……」
「郊外にいっぱい色々な店舗が出来ているんだよ」
「郊外型の量販店がってこと?」
「で、この前なんかすっごい大きなショッピングモールまで出来ちゃって」
そういえば、電話でちらっと聞いたことがあった。バカでかいアウトレットのショッピングモールが出来て、馬鹿みたいに広い駐車場があるというのに、いつもいっぱい、それどころか、近くで渋滞さえ起っているという盛況ぶりだとか。流石にそれは開業直後のことで、今では多少は落ち着いてそこまでではないとは思うのだが。
「すごいよね。お隣りの市議さん達。ほんと優秀だと思うの。それにひきかえ、こっちの市議どもときたら……」
やはり親は少し怒っているように見える。