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私は部屋でテレビをつけてぼーっとしていた。特に何かの番組を見ていた訳でもなかったが、コマーシャルに入ったところで天井を見上げた。
「変わらないなあ……」
寝たきりか、殆ど寝たきり時代には、それこそ腐るほどに目にした景色である。
(……)
ふと、ちょっと試してみることにした。
ぱちぱちぱちと両目を瞬きしてから、まずは左目をつむった。
「まあ、こんなものか」
昔もこんな風に見えていたと思う。近視は進み乱視も酷くなったから、眼鏡のレンズの度は強い物にはなってはいるが。
今度は右目をつむった。
「まあ、そうだよな」
左目のレンズの度も最善になるようには調節してはある。何なら今の眼鏡を新調してからまだ一年も経っていないのだが、どうにもならないということはある。定規で引いたような直線が、フリーハンドで引いた真っ直ぐにしか見えなくなってしまったのはしょうがないし、黄味がかって見えるのもそれはそうだろう。
「ところで、何で手術した時に透明のレンズを入れなかったんだろうな」
そこのところはちゃんとした説明を眼科医から受けていない。
「左目が何だか変だな」と違和感を覚えてからはあっという間だった。あっという間に見えなくなっていった。たまたま時間が出来たので近くの病院に行ってみたら、その日のうちに入院することになった。別の大学病院に紹介状を持って行かされることになり、翌日には手術をするはめになった。何だか失明直前だったらしい。それを聞かされた時には、流石に「まじか」と思った。失明寸前で緊急手術というのにも驚いたが、そのまま緊急入院だというのには、実はもっと驚いた。「だって手術は明日なんでしょう?」と。眼科の手術でその後三週間も入院させられるとも思いもよらなかったし。しかも術後は、基本「ずっと下を向いていろ」って。
「ところで、あの時は確か入院の手続きとかやらされたっけ? そりゃ、何か手術とかの説明とは聞かされたし、治療の計画書みたいなのも渡されたし、何かサインとかさせられたけど。だけど、手持ちの現金のチェックとかはされなかったし、念書とかも書かされなかったな。ましてやデポジットなんてもんはなかったし。そのまま入院で退院するまで外出禁止は同じだったんだけれど。自分の足で行ったか救急車で運ばれていったかの違いなのか? それとも命に係わりそうなことかどうかの違いなのか?」