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 徒歩で十一、二分なのだから車なら家まではあっという間である。

 車から降りるとそのまま浴室に直行した。風呂から上がってジャージ姿で食卓につくと「ほい」と食事が出てくる。いつもの通りである。ただ今回、前回までと違っていたのは、それがお粥だったことだった。つい二日前まで、退院する直前の昼食までも、確かにおかゆだったのだけれども。取り敢えず、眼の前にお出しされたものをかたずけると、何時ものようにおかわりをする。

用意されていたお粥を全てたいらげ、

「まだ足りないから、もっと他になんか食いもんない?」

と訊くと、

「えっ? まだ食べるの? あんたついこの前まで入院してたんでしょ」

「そんなこと言ったって、腹減っているもんは減っているし」

「ちょっと待って。冷凍庫におにぎりあるから、それでいいでしょ」

 親は自分が食べきれない分があると冷凍保存する。凍らせたおにぎりというのは炊き過ぎて余らせた白米のことある。「それを(レンジ)でチンして食べろ」ということである。

 親というのは、私にとっては母親のことである。何故なら父親は私が幼い頃に死んでしまったから。弟は何時の頃から母親のことを「おかん」と呼ぶようになっていたが、私は親と呼ぶようになっていた。親といえば私には母親一人しかいない。決して父親のことが嫌いということはないのだが、やはり早く死に過ぎである。あの人は。死にたくて死んだ訳ではないだろうが。

(…好きも嫌いも、物心つく前に逝っちまったんじゃ…………)

 居間でテレビを見ていたら、幼稚園に送ってゆくからと母親の声がして、台所に足を踏み入れるのとほぼ同時に、青い綿入れを羽織って食卓で朝食を食べていた(何なら小皿で納豆をかき混ぜていたところまで覚えている)父親が眼の前で左側に、横にいきなり倒れて動かなくなってそのまま――

それが私にとっての人生最初の記憶である。

ちなみにそこから後はぼこぼこと記憶がもげ落ちていて、次の場面は父親の葬式である。


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