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当時、どうも私の期末試験の結果や全ての公立中学で行われた県名を冠する新聞社の主催する模擬試験の点数、通知表や内申等の情報は全て、市立高校の教師であった裏のお宅の父親には筒抜けだったっぽかった。それは裏の人に声を掛けられるようになったもう一つの理由に関連している。
私の実家の市に唯一ある公立高校というのが件の体育教師の勤務先であった。そこは学区内では平均的な偏差値の生徒が通う普通科高校だったのだが、どうやらこの学校を進学校化する動きが裏であったらしい。市の行政だか教育委員会だかが力を入れているのだと。そうしたという確たる証拠は無いのだが、受験生とその父兄の間では半ば常識であったし、後にその市立高校に進学した生徒たちの名前を知り、「こんな出来る奴らまであそこに行くの?」と驚かされたものである。大学進学率を上げるのに最も手っ取り早いのは、何といっても、「テストで点数のとれる生徒をそこへ送り込む」であろう。私が勧誘を受けるようになったのもそういうことだったと思う。しかも、こいつは内申が悪く、故に、三者面談で素直に担任教師が、「内申が悪くて内申点が足りないからあそこは無理」と言うことが出来、スムーズに「こちらの学校に行くべき」中学と同じ市内唯一の公立高校を薦められるのだから、さぞかし恰好であったろう。裏のお宅の高校の先生に何度も「ウチに来い」と勧誘され、最後には自宅に押しかけて来られもした。裏の父親は親ともども私の説得にかかってきた訳である。「ウチには今、県で一番いい英語教師がいるから」とも。まるでどこかのセールスマンか宗教の勧誘のようであった印象がある。本当に押しが強い人だったのだが、この人は弟の柔道の師であり、何よりご近所さんだったことから、非常に断わり辛いものであった。ただでさえウチの親は頼まれたら断れないお人好しなのである。傍から見て気の毒だったことに、親は頼まれれば何事にも誠実に取り組む人で、尚且つ気の毒なことには、大抵のことはそれなりに出来、人の期待にそぐうべく取り組み、応えてしまうことだった。だから、年中途切れることなく、色々な事を頼まれていたりする。「全くこの人は」などと思っていたものだ。
其れで勧誘の結果はどうなったかというと――