表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/38

11


私の家の裏庭に面した、低い壁の向こうのお隣りさんとは長い付き合いである。大学に合格し、最初に上京するまでの裏のお宅の家族構成は、教師の父親と公務員の母親、それから年の離れた長女と長男の姉弟の四人家族ーーだった。そう言えば、その何年か前までは犬も飼っていた。

 父親は地元の公立高校の体育教師であり、市が運営する柔道場の最高師範でもあった。父親に関しては子供の頃の印象しかない。中三の時に対面したのを最後にお目にかかっていないのだが、まるでゴリラみたいな人で、同時に水風船の様でもあり、如何にも柔道をしていそうな、太っていてゴツい感じの人だった。時々、「達也!」と息子を大声で怒鳴りつけ、しかり飛ばしている声がして、長男がそれこそ号泣しているのが聞こえてきたりもしたものだが、何といっても、私にとってこの人に関して最も印象的な事は、「勧誘」である。

 私には二歳年下の弟がいるのだが、彼は子供の頃から、それこそ幼稚園の頃から、体が大きかった。少なくとも小学校の中学年の段階で、クラスでいつも背の順で並んで後ろからニ、三番目の私よりも背が高く、体重も二十キロ以上重かった。毎年神社で催される祭りで相撲大会が開かれていたのだが、そこで優勝するのはいつも私の弟だったのだが、彼の対戦相手は同級生ではなかった。普通なら同学同士で優勝を競い合うのであるが、ウチの弟はいつも二学年か三学年上のトーナメントに参加させられ、決まって頂点に立っていた。そんな逸材を地元の道場の師範が放っておく筈もなく、弟は小学校に入る前から、頻りに裏のお宅の最高師範に入門を勧誘されていた。当初は何度も断っていた弟であったが、小学校の四年生の頃には道場に通うようになった。私はごく最近まで、それは裏のお宅の父親の勧誘に根負けしたのだと思っていたのだが、実際は、「近所の整骨院の先生――市の運営する道場の師範の一人でもある――に勧められて」というのが本当のところだった。そして実は、私も裏の父親には勧誘されてはいる。もちろん柔道ではない。何しろ私は背丈はそこそこあったものの痩せっぽちで、何処をどう見ても強そうではなかったし、実際強くなどなかった。それどころか、からっきし弱かったから、現実にその見立ては正しかったのではあるが。弟とはよく喧嘩もしたものだが、決まってフィジカルと、何よりもパワーで圧倒され、最後には体重で押し潰されるのがオチだった。

裏のお宅の父親が私を勧誘するようになったのは私が中学三年生になってからのことであった。「ウチの高校に来い」と。というのも、私はそれなりにテストでは点数が取れたからである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ