045 異変はさり気ないところから姿を見せるけど…
今回はあの勇者の可愛い一面や意外に高いスペック(?)の一端が中心になっています。
それと、今回は作中の主要舞台のモデルにもなっている作者の地元の島に関係して先月にて、環境保護活動絡みで発表された“ある生物の根絶宣言”に絡めた要素も出てきます。
作者の地元くらいの規模の島で、一度定着したあの生物の問題が解決されるなんて世界的にも例のない快挙のようなので、それも絡めて今回のお話を楽しんでいただければ嬉しいです。
物語の中での年月などで違う点についてはご容赦してくれれば幸いです。
○2023年4月19日正午(神訂暦6015年4月19日正午) 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市歌是 間湊町 リサイクル店カドタニ海士臣店○
「…すみませーん。金の換金に来ましたー」
「はい、いらっしゃいませー…ってだれかと思えばミカエルー…じゃなくてそっくりさん?」
何やら獣毛を纏った同じ学校の生徒と思わしき人物が何かよからぬことを画策しているなど露ほどもまだ知らず、ミハイルは馴染みのあるらしいカドタニ店員からそのような反応を示されつつも、襲い掛かってきたので返り討ちにしてきた勇者達から分捕った合法的(?)な金貨を換金しようとしていた。
「あ、えーーっとそのミカエル君が誰のことなのかともかくとしてー、今回はこちらに見えます知人から貰った金貨を模したと思わしい金製のアクセサリーの一種を換金しに来たんですよ―――」
『本日、日本国環境省は奄…臣島において長らく問題となってきた侵略的外来種マングースの根絶に成功したと宣言しました。その中で、同種駆除活動で活躍なさってきた外来種クリーナーズ代表の方と、同島にございます原生林金作ば…失礼、銀角原にて取材に成功しました。現地にお繋ぎしま…』
「―――お…?」
その換金作業の途中で、カドタニ店内で陳列している中古テレビの一つから流れてきたあるニュースにミハイルは興味を惹かれた。
「あ、先生、このニュースはこの島のことですよね。私のクラスでも話題になっていましたよ。よかったですね、自然豊かで独自の生物が多いこの島の保全がまた進んで…」
「…うん、そうだね光代。この島に人間の都合で勝手に海外から持ち込まれた存在だから、人間の都合でまた勝手に根絶やしにされるというのはあれだけど…」
「……え…?」
光代はそのニュースに最初は好意的な表情を見せるが、ミハイルが浮かべた複雑そうな表情に違和感を覚えた。
「元々ここに住んでいたマングースはここから西南に位置する沖縄で、農作物を食い荒らす鼠や毒蛇であるハブを駆除するためにインドとか他の国から連れてこられて、そこから北に位置する奄美にも同じ目的で連れてこられたんだ。だけど、どっちでも返り討ちしてくる可能性があるハブとかよりも、弱いアマトミノクロウサギとか島の希少種を捕食するようになったんだ」
「…何か、今の私の最初の育ての親である父と母がいた…星守り族の隠れ里の皆みたいですね…」
「…そっちも星守りにははた迷惑な理由だけど、元からは人間の生活を守るためにさらわれてきた人やその子孫だから…、いつの世も人の善意が生むのが恩恵だけとは限らないね…」
その違和感を浮かべた理由をミハイルに聞かされて、光代も似たような経験があったのか同じように暗く沈んだ表情を浮かべる。
「あ、 見てー! ここに蛇さんと動物のぬいぐるみがあるよ」
「こ、こら! ここでそんな子供じみた声をするな! わわわ私はそんなものに惑わされたりはしない!」
それとは対照的に、勇者パーティーに属する澄んだ水色の長髪をした青年ロックィーナが可愛らしいハブとマングースのぬいぐるみを見せつけ、勇者の少女クラウディアは言葉こそ拒否を示すが節々で動揺が露わで、顔が赤くなって物欲しそうな瞳を浮かべて手をバタバタとさせていた。
「…人が重い昔話を思い出して暗くなっている時に…あの相変わらず空気を読まない度胸と言うか勇気だけは本当に“勇者”だなぁ…」
「ま、まあ…過去の勇者の皆さんがいた時代と違って…ああ振舞える分の余裕があることが…昔よりかは平和に近づいている証とも言えますし…」
ミハイルは自身に危険な不意打ちをかました後で暢気に地球での買い物を楽しみだしている勇者パーティーにジト目を向け、光代はそれを宥めようとするが、その努力は敢え無く無に帰されそうになってしまう。
「…だーかーら—近づけるなー…ん? 何だこのぬいぐるみは…? 何処か…獣人のような弱くない異臭がするような…? それに…悲痛な感じも混じるが敵意も感じられるし…」
クラウディアはロックィーナが押し付けてくるぬいぐるみの誘惑に抗おうとしていたが、その一つから小さく流れ出る異臭と気配が気になって縫い包みの一つを手に取った。
「…ん? どうしたんだ…!?」
それにミハイルが嫌な予感を覚えた直後、何とクラウディアは店員さんもいるそこでその手に取ったマングースの縫いぐるみを頭から引きちぎった。
「…え!?」
そして、首が無くなったマングースの縫いぐるみの中には、アーミー柄の装備で身を固めた猫が潜んでおり、その猫は自身の気配を感じて探し当てたクラウディアに驚愕の表情を浮かべた。
「!? お前が着ているのは旧式だが連合の地上軍歩兵部隊の正規装備のもの!? どうしてそんなものを着てこんなところに―――!?」
「どうして他所様のお店で器物損壊をしてるわけ?」
「―――いっていいイイィいい痛い痛いイイィいいぃ!?」
その怪しさ全開の鼠をクラウディアは問い詰めようとするが、彼女の背後から見ていたのでそんなことには気づいていないミハイルが彼女の頭を髪から掴み上げて悲鳴を上げさせながら視線を逸らさせてしまう。
(…ど、どうにか捕まらずに済んだ! しかし…まさかあの突然現れた兄貴にスペック強化魔術薬で大幅に身体能力が進化レベルで上がって更に知識や技能を教えられたこの身が発見されるとは…! 悪いけどここから兵器製造に必要な部品を調達するっていう作戦は難しくなりそうだって兄貴に言わないと…)
そして、その隙にアーミー柄装備の猫は上手いとこ素早く彼らの視界の片隅を走り抜けて店外へ脱出し、路地裏へと姿を消した。
「…ふう、とりあえず…うちに必要な家具や家電はカドタニで購入出来て今日中に家へ送ってもらえそうだし、何よりそっちに焼かれて台無しになった弁当の代わりの分を買うことが出来たし…」
それから十数分後、ミハイルはカドタニを出て近くにあるコンビニから弁当などを買った状態で出てきた。
「よ、よかったですねーミハイルさん…それでは…僕らはこの辺りで学園を通って向こう側に帰らせてもらいますー。そうだねクラウディア」
「そ、そうだなロックィーナ…あまりいるとここの人達にもっと迷惑を掛けそうだし…」
続けて、ミハイルが間に立ったおかげで引きちぎった縫いぐるみを購入するという形で、事なきを得た勇者パーティーが出ることが出来た。
「おい、ちょい待て」
「「「「「ビビクウゥ!?」」」」」
だが、すごすごと帰ろうとした勇者パーティーはミハイルに呼び止められたことで大きく伸びてしまう。
「…え、えーーっと…ミハイルさん…まだ何かお残りですか…?」
「いやいや、あるからあるから…えーーっと確かーこのへんに—…あったあった!」
それに勇者パーティーの頭脳役兼セーブ役であるロックィーナは卑屈な態度でミハイルに駆け戻るが、そこで彼に見せられたものは彼らの予想を良い意味で裏切った。
「ほら、今回の金貨の換金で出た分で使われずに済んだ分。この分まで貰うと問題になるから元々金貨をもっていたそっちが持って帰りなよ。それで学院にある大学病院に話を付けておくからこの金で今回の怪我の治療に充てるんだ」
「あ、は、はい! ありがとうございます! それではこれでー…!?」
結構な額のお金が詰まったその封筒を安どした様子でロックィーナは受け取ると、すぐさま仲間たちの元に戻って一緒に風の如き速さでその場から去ろうとするが、そこで車に轢かれそうになっている子猫の姿を発見してしまう。
「あ、あれはまずいな―――」
「危ない!」
「―――あ…」
それを見てミハイルは即座に見えない魔力を放って子猫を安全な場所に飛ばして逃がそうとするも、そこでクラウディアが目にも止まらない速度で道路に飛び出し、周囲のドライバーに気付かれも車に当たることもなく、その子猫を抱きかかえて疾風の如き速さでその場を後にした。
そして、それを見た彼女の仲間たちも周囲に何やら魔術を掛けて自分たちのした行為を認知されないようにすると、飛行魔術を駆使して彼女の後を追っていった。
「…ああ言う感じに根は良い子達ばかりなんだからねぇ。こっちもでも向こうでもいい加減に世間一般での常識や教養ももっと身に付けてくれれば助かるんだけど…」
「…いやー、クラウディアさん達の場合は…そうすると今度は別な方向で面倒くさい事態に持って行きやすくなるかと…」
「わかってても言うなよ…」
それに少し見直した表情で残念そうな声音で口を開くミハイルに、光代は頬をポリポリと搔きつつも新たな懸念の可能性も口にした。
「…はああ、クラウディア…なんだかんだ言って…ミハイルさんって…真面目で優しいよねぇ…」
「ああ、こっちがどんな作戦で仕掛けてあの弱体化していると言ってなお圧倒的な力の差を埋めて倒しにかかっても…怒りこそしても本気で酷いことはしないしな…」
「人格やキャラのブレが酷い時はあるけど…それはまあ何度も転生を繰り返して程度の差はあっても各人生の人格が違ってて、そうした複数分の記憶が出ている影響だし…その状況でも何だかんだ優しいし…」
「こっちが理不尽な理由や冤罪で危なくなった時は何度も助けてくれたしねぇ…」
数分後、飛行魔術も駆使して海士臣市の市街地から離れて学院が見える山道に入ったところで、勇者パーティーは何だかんだミハイルに対して好感度の高い言葉を口にしていた。
「…この恩義は何としてもミハイルさんを倒して捕まえてその後の処遇を寛大なものする以外に返す手段はないな!」
「そうだのう、次はどのような作戦で行こうかのう」
「この島には島ニンニクと呼ばれるニンニクがあるらしいから、それをうまく用いて…」
「あ、そうだ。今回はこうして助けた子猫もいるから、アニマルテイマーの友人の力も借りて…」
「にゃー」
そして、勇者パーティーらしい不屈且つ優しい勇気(?)もまた口にして、今後のミハイル打倒に向けた方策を助けた子猫も絡めて口にし始めていた。
ミハイルと勇者達の戦いは、二つの世界が繋がって両世界の混乱が深まりつつあるこの情勢でも終わることは無さそうであった。
勇者パーティー、スペックの高さを感知能力で示しますが、その手段及びに元々いた世界と私たちの暮らす世界(?)の常識の違いもあって潰されてしまいました。
次回、作中主要舞台のモデルにした世界自然遺産の私の地元の島でも悩みの種となっているあれで、今回でもわずかに暗躍する姿を見せた者達の動きが加速していく予定です。




