041 発展には賛成と反対の両方がつきものだけど…
今回も品があるとは言えないパロディがあるのでご注意をお願いします。
但し、作中で登場する道具は実際に怪我をする可能性があるので、公演などで見る機会がある場合は真似しないようにお願いします。
ちなみに、作中で出るいじめの内容ですけど、さすがに作者の知る限りでは元ネタの人物はそこまでするような人物ではないはずですけど、いじめられっ子はいじめっ子というのはそこまでしかねないと思うものらしいです。
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○2023年4月18日夜 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 ループ橋付近集落 カールソン家宅○
「…まー、このテスカ君の場合は虫歯にイライラして、星守り特有の高い再生能力を知ると自力で全部引っこ抜いて、新鮮な白い歯を強引に生やすという力業で解決したのですが…如何せん他の子の治療が問題になったわけでしてー…」
「………………」
ミカエルの言う異世界神訂暦世界における歴史上初の戦争のきっかけになったという、帝国始原集落(異世界最大の大国でミカエルが裏で初代皇帝とか神皇とかで大きな権力を握っている帝国の始まりなので、ダニエルがこう名付けた)を襲った集団虫歯事件で、黒くなった歯で泣き笑いを見せるケツァルとその真横で綺麗な白い歯を見せるテスカの姿に、ダニエルは何とも言えない微妙な様子になっていた。
「…うーん、皆が凄く痛そうなのはわかるけどねー。これでどうやって戦争とか大変なことにまで発展したのかしら?」
「あー、それもこれから説明するよ。ほれ」
マリアがその虫歯で痛そうにしてる子供達を気の毒そうに思いつつも説明を催促すると、ミカエルは壁に映し出した映像を進めて、別の勢力に属する集落を映し出した。
「僕達は知識チートや内政チートで産んだ産品を用いて周辺の村々と交易したり、もしくは取り込んでいったりしたんだ。けれどもねーこういうものにはつきものの変化を嫌う反対派が集落規模で出てきたんだよ」
「あー、お前が当時は夢の中だと話していた内容や、それを元ネタにした私が描いているラノベにも出てきたよそういうの…」
そこの集落には石の槍や弓矢ながらも数の上では大きく勝る、豹の毛皮を多用した古代中南米辺りの戦士を思わせる兵士たちが大勢見えており、その中でもとりわけ偉そうなのが狐面の顔をした族長と、集落の巫女という翡翠の飾りを多用して化粧は派手だが美人には見えるその妻であった。
「…宇宙船で治療するにも人数が多すぎたから、僕らはとりあえずこの時代の技術でも出来る虫歯治療のために必要な道具や薬の原料を入手する必要があったんだ。けれどもさーその産出地はこの反対派の領域内にあったんだよ」
「あー、必要な資材の持ち手が既得権益を侵されるのを嫌う反対派の縄張りの中にあったのか。それは本当に揉めそうだなー」
「そうそう、結構大きな集落で大きな水源も握ったりしていたから、灌漑工事を始めた時からいちゃもんを付けたりして邪魔してくることが結構あったんだ。そのたびにケツァルと僕とか穏健派を中心に話し合いで解決しようと、何度か好まれそうな贈り物をもって訪ねたりしたんだよ」
「まあ、平和に解決しようという努力はするに越したことはないな」
「その最中で開いた宴会で、この島の特産である黒糖焼酎みたいに作った酒で宴会芸とかやったら、どういうわけで向こうにビビられて追い出されたりしたこともあったけどー」
「いや! こんな明らかに迷信深い時代でアルコール濃度がやばそうな酒を口に含んで指先に魔術で火を生じさせてドラゴンの真似みたいな火吹きをしたら普通に警戒されるよな!?」
その反対派夫婦も招いた宴会で、高濃度アルコール酒を用いた火吹きを行う当時のミカエルの姿などや、それらに行われるダニエルの突っ込みも交えつつも説明は続く。
「…その火吹きからほとぼりも冷めた時期にー、今度はお菓子とか一過性のお土産だけじゃなくって、サトウキビの種にそのための農機具や砂糖車とかそういう長期的に利益を生みしそうなものも携えて、これらを供給する代わりにそっちも虫歯治療のために必要なものを渡してくれって交渉しに行ったんだ」
「でもー、話の流れからしてやっぱり駄目だったの?」
「いや、最初の方は割とすんなり受け入れてくれたよ」
「え?」
戸惑うマリアの前で、映像中ではそれまで見せてきた敵視的な態度が嘘なように温和な表情で、当時のミカエル達を自分たちの集落へ迎え入れる反対派指導者夫婦の姿があった。
そうして、贈り物を交換し合う宴会が行われる中で、帝国始原集落側から持ち込まれてきた道具の一種である砂糖車が、一同の前で集落の中を流れる川の推力を動力源としてその性能を発揮されようとしていた。
「お父さん、この砂糖車ってここ海士臣島でも昔は使われていたし、今でも伝統文化公演とか観光の一環でも使われることがあるよね」
「ああ、子供の頃の郷土史学習会でお前の付き添いで来た時に、牛にあの長い棒を引かせて三輪の鉄の車が水平に回ってサトウキビを絞ってその汁を出して集めたり、それを味見したり、黒糖作りを一緒にやって多くおすそ分けしてもらったりしたのが懐かしいなぁ」
「あの作業って実は意外と危ないから、子供にはあまりやらせないのが昔のルールだったってのは憶えてる?」
「ああ、あの回る車輪に指などが巻き込まれて大けがする可能性があるからな。確かあの時の郷土史学習会で一緒に出ていた、あのトロミ~ヒャッヒャって変な笑い方をする同じ齢くらいの子がお前をあの砂糖車へ面白半分から付き飛ばしたら、髪が歯車に巻き込まれて大けがしそうになったことがあった…!?」
その映像中での砂糖車に現実側での思い出話も重ねて親近感を沸かせるダニエルだが、そこで息子の身に起きた危ない事故も思い出して目前の映像に不穏な気配を覚える。
「!? まさか…この話の流れからして…反対派集落の本当の目論見は…当時のお前達をその砂糖車の事故に見せて消して全てを奪うつもりだったのか!?」
「…まあと、後で色々調べたらそういう感じだったのが分かったんだけど…事態はもっと斜め上をね…」
作家としての想像力が大いに生かされたそのダニエルの予測に、ミカエルは難しい表情を浮かべると映像を更に先へ進めていった。
『いやー! 本当にすごいですな~この砂糖車という道具はーミハエリス(当時のミカエルの名前)さ~~ん!』
その映像では妙にフレンドリーな態度に変貌した反対派集落首長が、当時のミカエルと肩を抱き合わせて砂糖車の前でやけに身を大きく揺らし合わせていた。
顔が赤くなっている様子からして、どうやら前回の訪問時においては当時のミカエルの危ない芸から避けていた酒も、放映されていない間の時期で味わって気に入ったのか飲んでいるように見えており、その証拠に彼の足取りはふらふらとした酔っ払いのそれであった。
『いや~♪ それほどでもないですよ~~♪』
だが、当時のミカエルもまた同じようにひどく酔っぱらっている様子であった。
「…特に、この時は苦労して魔術込みで再現した鍛冶技術や木炭仕様高炉も用いて作った鉄製歯車を用いて作り上げた砂糖車と、この時の僕は酷い泥酔状態で防御力やら対応力が大幅に弱まっていたのが拍車をかけたんだ…!?」
その間でもミカエル説明が続くが、彼の表情が険しくなったところで映像に映る反対派首長の足が当時のミカエルの足にひっ掛けられて彼の身を転ばせ、彼の頭は公演で回転中のは鉄製歯車に巻き込まれた。
『アアアアアアアアアァアア!?』
『『『『『んなアアアァ!?』』』』』
当然、その酷く弱っていた頭は鉄製歯車の威力には抗えず、骨肉やら脳漿を噛み砕かれる音と共に周囲へ撒き散らし、周囲はそのスプラッターな光景に驚愕して大騒ぎになりだした。
「…う…酷い…」
『おい!? どういう事だ!?』
『今さっきそいつが足を引っかけて倒れさせたのを見たぞ!』
『言いがかりをつけるな! あの酔っぱらっていたミハエリスというのが勝手に転んだだけだ!』
その光景にマリアがさすがに顔色を少し悪くさせて口元を手で覆ってしまう間も、帝国始原集落と反対派集落双方の住民達の口論や取っ組み合いは悪化していっており、後者の後ろ側で反対派集落首長夫妻は秘かにほくそ笑んでいた。
『…あ、あのー…すみませーん。脳みそが大幅に欠けちゃってる状態だとーあまり聞き取りが上手くできないのでー…落ち着いて一人ずつ喋ってもらえませんかー?』
『『『『『…え!!!???』』』』』
その笑みを青ざめた表情に変えたのは、モザイクがかかってはいるが顔の左半分が引き潰されて脳漿を滴らせて左目をブラブラと振り子のように揺らしているのがわかる、当時のミカエルの制止であった。
「…当時の僕は成長途中とはいえ真祖だったから、頭が半分潰れたくらいじゃ死なない身だったから助かったんだ。まー脳みそまで大ダメージを負うなんてのはこの時が初めてだったから、この傷の治療やら再生には時間がかかったけど…」
『うわあああ!? な、何だぁ!? どうして頭がそんなになって生きてるんだぁ!? 近寄るなぁぁ化物ぉ…!?』
ミカエルの説明の間も、当時のミカエルは映像の中で大事ではないとアピールしているがそれに周囲は集落問わず大半がドン引きであり、その中で特に反対派集落首長は恐れおののいて後ずさりするが、その為に衣服のベルトが今も稼働中の砂糖車の歯車に巻き取られてその身が引きずられ始めてしまう。
「!? これで双方の代表が大けがを負ったことに激怒した双方住民の暴走に流されて全面戦争という流れか―――!?」
それにダニエルがラノベ作家で培ってきた想像力でこの先の流れに対する推測を口にするが、その続きは彼の予想の斜め上を言ってしまう。
『し、死んでたまるかーーーーーー…!?』
先ほどの当時のミカエルの惨状を目にしていた反対派首長は巻き込まれまいと踏みとどまるが、その結果として歯車に巻き取られていくベルトに引きずられる形で衣服が引き寄せられ破られてしまった。
『『『『『………………』』』』』
その結果、反対派集落首長の生まれたままの姿が衆目に晒されてしまい、その痴態で人々は出身集落を問わず沈黙へ陥って彼も言葉を失ってしまう。
『…ちっさ…』
そして、少しの間を置いたのちに、帝国始原集落の強硬派を率いる形となって反対派集落住民と大きく揉めていたテスカが、反対派集落首長の足の付け根にぶら下がっているものを見て言い放ったその一言が、反対派首長集落の沈黙していた意識にブチっとした覚醒を呼び覚ました。
『…ゆ、許さん…許さんぞこの罰当たり共ぉ! じわじわじっくりと嬲り皆殺しにしてくれるわ―――!?』
そのままどこぞの宇宙規模地上げ屋首領みたいな台詞で怒りをあらわにする反対派首長であったが、それでミカエルが歯車に巻き込まれた際にまき散らした脳漿やら血だまりを強く踏んでしまって、足が滑って身が勢いよく回るようにしてよろけてしまう。
『―――ああってホデュアアアアァーーーーーーーーーーーーーーー!!??』
そして、その勢いで反対派集落首長は今も稼働中の砂糖車の歯車に足の付け根から突っ込んでしまい、何か小さなミートボールやソーセージみたいなものが巻き取られて潰される音と共に、何処かの前半分サイボーグ船大工を思わせる悲鳴を突き上げて意識を失った。
「…この直後にて失血による貧血で僕が意識を失った後、双方の集落の話し合いは破局、帝国始原集落に僕が戻って眠っている間に向こうから宣戦布告を叩きつけられて、神訂暦世界史上初の戦争だよ…」
「…ああ、悲しく思うな…人としてだけでなく…男としては色々と…」
頭に包帯を巻かれた状態の当時のミカエルを担ぎ上げて帝国始原集落住民達が反対派集落を出たところで映像は一旦止まり、視線は定まってないが何となくどこか遠いところを眺めて哀愁を漂わせる表情となった今のミカエルに、ダニエルは彼の親として、同じ男としていたたまれない気持ちへ陥らされた。
次回にて、今回のサトウキビやら黒糖系のネタはようやく終了する予定です。