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登校途中に繋がった異世界からやんごとなき方として戻ってきてしまった話  作者: kaioosima
第一章 パイが増えても中身がメリットだけとは限らない
4/50

004 スケールアップばかりしても困るのに…

今回は、日本の離島に現れた例の怪奇現象を受けての、地球の各所での反応が中心になります。

その結果、ファンタジー要素のない世界にやっと帰れたという主人公の思いが裏切られていく準備が出来ていきます(今でも出来ていますし、と言うか主人公もその原因の一つですけどある意味で…(笑))。

 ○2023年4月6日夜 アメリカ合衆国 ペンタゴン○


 日本の離島の一つで現実離れした光景が現実に起きていた頃、現在ではこの地球上で覇権を握る超大国の国防を司るそこは、時差の都合で夜であるにもかかわらず人の行き来が激しくなっていた。


「…それで例の“クリスマス島”での異常波長及びその根源と思わしきタワー型構造物の様子はどうかね!?」

「今現在は先月にバミューダ方面で生じた反応より百倍はデカいとの報告が…」

「すでに出現している未確認生物やその被害はカリブ海で生じて秘密裏に処理したものとはけた違いだと…!」

「東ヨーロッパが未だに戦火真っただ中と言う状況でよりによって台湾に近いあそこで今度は何が…!」

「それで“スミソニアン”からの調査用人員の調整はどのようになって…!?」

「それと日本と海を挟んで西に位置する連中の動きにも気を配れ!」

「大統領への報告は…」


 そこは人種や派閥の関係なしに危急を告げられたもの特有の表情を皆が浮かべていた。






 ○2023年4月7日朝 中華人民共和国 北京○


 同じ頃、時差の都合で既に朝に入っているその国でも隣国で起きたその異変に神経をとがらせていた。


「例の琉球諸島の北部で起きた異常現象はどのようになっている!?」

「その出現した構造物は一部が宇宙空間にまで達しているとの事!」

「琉球諸島南部の在日米軍も既に調査のために動き出して日本国政府と極秘協議の準備を打診しているようです!」

「まさか清末期の失地の一つでこのような現象が起きるとは…」

「ですが、東欧方面の紛争でアメリカの力が割かれているこの状況だと、動向次第では我が国にも好機になり得るかと………」

「…直ちに“泰山”にも調査の命令を出せ。表向きは都市伝説と言う形で隠蔽している霊的存在の現象かも…」


 アメリカと覇権争いを静かにだが無視できない規模で進めているその国の要人達も、緊張を交えながらも相手の隙を見いだせたような色を表情に滲ませていた。






 ○2023年4月7日正午 日本国 鹿児島県南部 海士臣島(あまとみしま) 海士臣市 ループ橋付近集落○


「…とまあ、こちら側の世界で特に有力なこの二カ国が真っ先にこの地で起きた両世界の連結点出現現象を見て動き出しているようです」


 その米中二カ国の様子は、件の現場となっている日本国のその島に設けられた現代の戦闘指揮所に、映像にデータを空中に映写するファンタジー的な水晶玉などが混在する部屋で観測されていた。

 そこでは数十名の人員が働いていたが、様々な人種の人間の他にファンタジー作品にでも出てきそうな人型生物も混じっていた。

 彼らはその魔法などを中心とする圧倒的な技術力にものを言わせて、地球における主要大国の様子を監視していたが、その様子からしてミカエルにとっては残念なことにこちら側の地球もこれまではうまく隠されていただけでどうやらファンタジーや異能などは存在しており、地球各国のお偉いさん達は知っていて且つ利用しているようであった。


「ハイディナ中佐、先ほどまで不安定的だった円門(サークル)を介しての通信領域が固定化に成功しました。これで本部と臨時のものも含めて安定的な交信が可能となりました」


 そうした地球側の裏事情を最前線で監視している面子の中心となっているハイディナと呼ばれる女性は、数時間前に変貌したミカエルと共に現れた金髪のエルフで、彼女はループ橋付近の集落に設けられたこの施設の責任者となっているようだ。


「ご苦労。それで通信情報保護はどうなっているの?」

「今のところは問題ありません。両国の情報収集衛星及びに偵察機による電波は来ていますがここから発せられる波長は周囲の飛び交っている通信機器の電波に潜らせて隠しています」

「そう、それで本国もある向こう側の円門(サークル)の様子は?」


 ハイディナの言葉に反応してか、部屋の中央に設置されているサッカーボールサイズの半球が付いた映像装置から新たに画像が空中へ映写された。

 そこにはループ橋に現れた物と同じ巨大な水銀柱が浮かび上がっていたが、周囲は海に囲まれた小島であり、その海の向こう側には中世や19世紀辺りの西洋の意匠を色濃くしながらも現代都市と同程度に高い構造物が乱立している都市が見えた。

 何より、まだ日中にもかかわらず天に浮かぶ月が明るく見えて何よりも大きく、それでいて表面上には、夜の地球を宇宙から見下ろした時のような無数の光点が浮かび上がっている。


「向こう側も安定しているようですが、計測された円門(サークル)は各種過激派が作り上げたものとは思えない強度を保有しており、それから内蔵していると目されるエネルギー量も過去最大のものです。過去のように破壊処分となると、少なくともこちらと向こうの連結点から半径1000キロ圏内に存在するものの大半が分子レベルで分解されるかと…」

「市街地が近いのにそれは拙いわね…。更に…幸い乍ら死者や出ていないようだけど、こちら側の被害は今までのようにこちら側におけるUMAや都市伝説の類いで済ませられる規模ではなくなっているし…」


 空中に映写されている動画には、市街地で暴れるドラゴンとそれを大人しくさせたカルッサの姿も映っており、ハイディナは表情こそ冷静なままだが瞳に浮かぶ苦悩の色は深みを増していっている。


「…既に本国の外務省及び軍務省はこちら側だけでの過去同様の処分及び秘匿は難しいとし、この世界側の政府関係者との接触を持つべきではとの声が上がっています…」

「他にも既に本国内に存在するエウロパ系議員の中には、帝国だけで対処できる問題ではないとし“連盟”で解決すべき議題ではないかとの声を上げており…」

「ふん! 元はと言えば向こうの親戚でもある遠い友人の過激派が起こした事件が元だというのに…」

「いやー、確かに向こう側の現場である領域は我が帝国のですけど距離的には帝国本国よりもエウロパが近いですから向こうも神経をとがらせるのは無理ないですよぉ…」


 室内は無数の情報が飛び交っており、人員は皆が諸々の表情を浮かべつつも全員が苦悩の色を浮かべていた。


「…何だか戦記系の漫画やアニメに出てきそうなシーンになってんな。大事っぽい部分は直ぐノイズが掛かって映像にはモザイクみたいなのが掛かってるからわかんねーし…何より何で俺の家でやってるのかってのが一番知りたいし…」


 その様子を室内と外部を繋ぐ開かれた出入口から宗一が難しそうな表情で盗み見ていたが、その彼の背後の光景は彼と今は留守中だがその家族が住む家だった。

 現在、ハイディナ達が設けた異世界人達による巨大水銀柱対策本部は宗一の家のブロック塀に設けられていたのである。


「…あーいやごめん…最初は僕のこっちでの家にしようって感じだったけど…知っての通りスライムにやられた後だったから…。それにーこのあたりの地脈との相性を考慮すると、空間圧縮魔道技術によって展開可能なこの移動型戦闘指揮所は、僕達も避難させてもらってるここが一番相性良くて…」


 宗一と共に中の様子を見ているのは、実家をスライムに破壊されてご近所付き合いのある幻田家に家族で避難中のミカエルであった。

 ちなみに、現在のハイディナ達が設けている戦闘指揮所は普段は旅行カバン風の見た目とサイズしかないが、展開すれば中に役所の多目的ホール程度の広さを持つ亜空間を展開できるという代物で、現在は幻田家のブロック塀に展開されていた。


「…ていうかあんた、あの人達と共に現れたけどどういう立ち位置なわけ?」


 ハイディナ達の様子を見守っている面子には美優紀の姿もあったが、彼女がこの面子の中で一番疲労が濃くて且つ緊張している表情で、その疑念の中心に置いているミカエルに問いを向けた。


「…いやー…まーー…僕もここに戻ってくるのを色々と無茶な方法で通してもらった代わりに条件を課されているから…あまり大事なことは言えないけど…」

「つーかいつもと同じ様子だけどあの人達にそんな調子でお願いできるなんてあんた何者?」


 増々疑わしそうな眼差しを向けてくる美優紀に、ミカエルは視線をしばし天井へ彷徨わせるが、一つ気が抜けた表情である言葉を口にする。


「…まーねー、位置する《《宙域》》やそれを繋げる円門(サークル)の位置関係からしてあそこに見える世界地図で言うところの…、南北アメリカ大陸辺りで…向こうの銀河系のわかっている領域の三分の一くらいの辺りで…」

「「…………」」


 ミカエルの言い辛そうな表情を添えた言葉を、美優紀と宗一は静かに静かに聞き続ける。

 彼の指さされている異世界側の銀河は何やら表面辺りに星が多く集まっている球体上の形をしており、そこの表面に地球で言う陸地に相当する部分に天体が多く集中しており、海に見える部分はそう言った天体の密度が少ない構造をしていた。

 その銀河系はこちら側とは異なる歴史を辿って魔法などが非常に発達した地球側の銀河系と、こちらの地球にもいるエルフやドワーフなど亜人や幻獣種が多く暮らす銀河系が融合して誕生した世界のようで、融合する際に地球側の情報が強く反映された結果としてこのような天体の配置状況になっているらしい。

 ミカエルはその銀河系の宙域図で言うところの南北アメリカ大陸辺りを領有する、異世界側で一番にお大国である❝帝国❞の関係者であるようだ。


「後付け設定みたいな感じだけど…“神皇”とか“初代皇帝”とかって呼ばれて…!?」


 だが、それを口にしたところでミカエルの頬に触れる寸前のところで、戦闘指揮所内部から巨大な槍を思わせる矢が音もなく瞬時に飛び出てきて、それは彼の髪を何本か斬り落とした所で制止する。


「…ミハイル君、現地の巻き込んでしまった方々に根拠も証拠も明示しない言動を軽く口にするのはお止めなさい」

「……あ、は…はい…ど、どうも…申し訳ありません…ハイディナ先生…」


 その矢は亜空間内部で今も働いている途中のハイディナで、彼女に向こうでの名らしいそれで呼ばれながら冷たい表情で注意されると、一気に顔を青ざめさせて口を噤んだ。


「……あ、あーーー…やっぱりこれって夢ねー…私ー…疲れてるみたいだから家に帰って寝るわーーー…!?」


 美優紀がとうとう現実に追い付けなくなって幻田宅から出ようとしたところ、その門扉にてすれ違う形で別の女性が姿を現した。


「…あ、すみません。マリアさんと一緒に先生のこちらでの壊れたご自宅から見つかった無事な茶葉でお茶を作ってお持ちしました」


 その現れた女性は、市街地で建物に隠れてカルッサのドラゴン捕獲を盗み見ていたミカエルと共に居て、彼が円門(サークル)と呼ばれる巨大水銀柱より現れた時に携えていた刀と同じ声音を持つ美少女だった。


「…なーーー、現実に追い付けなくなった美優紀に代わってまた姿を見せてきたあの光代って子さー…何なの?」

「…まー、色々と細かい事は言えないけど…今ではー…」


 美優紀の姿が見えなくなったのを機に再び宗一が放ったその問いに、ミカエルは幾分か血の気が戻った頬をポリポリと掻きながらゆっくりと答える。


「…今では向こう側での僕の弟子兼同級生でー、今では僕も最初の人生の時から所属している種族…こっちの世界で言うところの…吸血鬼(ヴァンパイア)の同族なんだよ」

「…お茶です。私はマリアさん達の手伝いに戻ります…」


 そのミカエルの解説を口にすると、光代は何処か居づらそうな表情となって背を向ける。


「…その前はーーー…その吸血鬼(ヴァンパイア)を本当の意味で殺せる数少ない意思を持つ武器の一つ…“神刀”だったけど…。実際ー…僕も何度か前の人生で首をバッサリ切られて今でも魂レベルで付いた傷痕が残ってるし…」


 苦笑しながらミカエルは自身の首元を隠すように付けられた首輪を取り外した。

 露わになったミカエルの首には、一度断頭台で切り落とされた首を煩雑に縫い合わされたような傷痕が一周するように浮かび上がっていた。


「…今のお前が今してる話、お前が昔ダニエルさんに没にされた話の一つに似ている気がするのは気のせいか?」


 それに対する宗一はスプラッター要素を加えたホラー系の怪談を耳にした時のような引き攣った笑みを浮かべていた。

何だか、とんでもない要素が混じってるっぽい話をしましたね本作の主人公とヒロイン(?)。

次回から、今回の事態にも繋がる主人公が嘗ていた世界での歴史の一部が語られます。

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