034 技術が進んでいるのは良いことだけど…
今回はネタが色々纏めきれなかったこと、現実が勤務先で繁忙期に入り始めて忙しくなり始めて時間が無かったので遅れてしまって申し訳ありません。
今回はやや品がない的に青春系コメディ要素が強いです。
○2023年4月18日朝 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 異空間混在化地帯 日本・異世界仮共同管理区域内 ジブラルタル学院 実習地一角 異常化サトウキビ畑付近 帝国軍駐屯地○
「いやー! この星も結構面白そうなところが多いそうねー」
「特に下に見える島って私達の学院が元々ある惑星と違って亜熱帯の綺麗な海に浜辺付きってのが良いわよねー」
「夏になったらどんな水着を買って着て行こうかなー」
光代が神訂暦世界から流れてきた病原菌で異常巨大化したサトウキビ畑で同様に超大型化したハブ(海士臣島生息の毒蛇)を撃退して数十秒後、彼女を含めた探検科系複数クラスの女性達は軍の施設にある更衣室で実習服へ着替え中であった。
「…え、あんたまさかまた胸が育った?」
「へっへへー♪ 分かるー?」
「くそ、憎たらしい…それを少しよこせや―――」
「お止めなさい。人の体の成長なんて本人の意思だけではどうにかなるものではないのだから」
「―――あいでででで!?」
そんな中で少女達は互いの身体的プロポーションの差を理由に揉め事を起こそうになったりしたが、光代などを含めた何名かが物理込みでそれを抑え込もうとしていたりした。
「…うぐ…光代…あんた…また…首のすぐ下が…」
「何あれ…? 重力の法則っていったい…?」
だが、そうして抑え込まれた少女達は持つ者と持たざる者の境界を越えて、その制圧者達で一種の極地に位置する光代には、物理的戦闘力の差もあってその女性らしい豊満且つ美麗な象徴には凛とした東洋系美貌も重なり深い敗北感を味わわされていた。
「…ん? 光代さん…また下着の上の方を変えたの…?」
「そうですねジャイナさん…うーー…また新しいのを探さないと…刀を振りにくくなるわ…」
その理由に光代と同等の胸部質量と美点を持つインド系美女のジャイナが屈託なく心配げに触れると、光代は自身の胸に憂鬱な表情を強めていた。
「運動部のエースだからってあの腰の細さに相反し過ぎる…!」
「キイいいいいぃぃぃぃぃ!」
(視線で人を殺せるまでに呪術系の魔術の才能が有れば…!)
(…ん? 何か周囲から敵意や殺意に近いような感じなのを向けられている気が…)
「………」
それに対し、二人以外の女子生徒の多くは彼女達に羨望の眼差しの言葉、恨みなど色々な妬みや僻みの感情を向けていたが、天然気味な光代はその原因と正体には気付けず、ジャイナには微妙なものを見る微笑みを向けられていた。
(…よし、こちらSDB1、こちらに軍及び教員や他の女子生徒による警戒網に引っかかった反応は見受けられない…)
(こちらSDB2も同様、SDB3以下はそれぞれ以下のルートより目的地を目指して進出を再開すべし)
その頃、更衣室がある軍の施設の一カ所を目指して、元々は海士臣島に属しながらも今はジブラルタル学院の実習地に属する雑木林の中を、“SDB”と大きく書かれた呪文を中心に複数の呪文を書かれたその装備品を被った若い男達が突き進んでいた。
(…ぐふふふふ、ジークど…失礼、SDB1、まさか女子たちも…まさか実習授業が再開して始まったばかりのこの時間帯に…我々が強硬偵察に動くとは思いもよりますまい…)
(ああ、そうだなゴロリー…いやSDB2よ…)
共通の装備品SDB2の中より男達は魔法秘密回線で互いに連絡を取り合いつつ、周囲に存在する魔法機械系の監視装置や警備兵等に気付かれずに目的地を目指していく。
(…ふふふ、まさかこんな手段で警戒網を突破されるとは思いもよりますまい…。これは元からその素材からこうした森林部では相性が良いですが…地球産のこれは特に実に良い…ステルス系の魔術にはうってつけです…)
(その代償としてこの通信以外に仕える魔術の使用容量は無くなってしまいますがな…おお、遂に目的地が見えてきましたぞ…!)
そうこうして男達が今の自分達を守っているその装備について自画自賛しながら進んでいくと、彼らの目的地がある軍の駐屯地施設の一角が見えてきた。
「…えー! 本当にー!?」
「うそー! 信じられないー!」
「じゃー、外出許可が下りたらそこのグルメを楽しみましょー!」
そこの内部からカーテンを通して隠されている窓の向こうより、瑞々しい女性達の声が聞こえてきて、男達は魔術装備SDBに小さく開いた穴から勝利を目にした兵士の如き笑みを浮かべた。
(よし! ここまで行けば我らを遮る障害はもはやない!)
(行くぞ同志諸君! いざ! 我らを虐げている者達の巣窟にして! 我らの視界を癒す桃源郷へーーーー…え?)
そして、男達がごそごそと自分達にしか聞こえない音を纏うSDBを進ませようとしたその時、その部屋の窓とカーテンが勢いよく開かれて、中から野球ボールが投じられてきた。
(…え? 何だこれ…あ、なんか書いてある…?)
(何々…? 残念…外れ…!?)
男達がその野球ボールに困惑して書かれている内容を確認した直後、それから膨大な質量の水が飛び出してきて彼らを包み込んだ。
「ぼガァ!? み、水ゥ!?」
「し、しまったぁ! SDBのステルス性強化魔術式のせいで他は秘密交信以外使えないからぁ息が出来ねえ…がぶがぶ!?」
SDBの外部のみならず仲間で満たしてきて呼吸を塞いでくるその水は、男達を苦しめつつも大きな球体となって浮き上がり、彼らをまるで水に満たされた金魚鉢の中で泳ぐ金魚の群れのような状態にしてしまう。
「は、早くこれを…SDBを外さねば窒息死しちまう!」
「や、止めろ! これを一人でも外したら全員に掛かっているSDBの効果が消えて我々全員の正体と目的がまたしても露見してしまう…!?」
悶え苦しみながらも男達が今の苦痛に耐えるか逃げるかの何方かで大きな葛藤に苛まれていると、彼らを包み込んでいる巨大水球に誰かが静かに近づいてくる姿が見えた。
「…雷刀」
そして、その近づいてきた女性で作業服に着替え済みである能面の光代が、その手に持つ青白い光に包まれた刀を巨大水球にプスッと小さく差し込むと、強烈な放電の閃光と音が巨大水球を基点に周囲を照らして震わせ出した。
「「「「「あばばばばばばばっばばあばばばばばば!!??」」」」」
その現象の原因は光代が刀を媒介に生じさせた雷系魔術で、雷撃を真面に浴びせられた男達は当然感電して悶絶の悲鳴を上げた。
「「「「「…ひ…で…ぶ!!」」」」」
巨大水球が雷光に満たされて数秒後、それが止むと巨大水球はばしゃんと地面に落ちた雨粒の様に重力に引かれて四散し、その中から消し炭となって濡れながらパラパラと落ちだしたSDBから解放されて何処かで聞いたような断末魔に悲鳴を上げた男達の正体は、黒い煤だらけになっていて分かりづらいが探検科に属して今回の野外実習に参加してる男子生徒達であった。
「…お、おのれ…実習が終わった後ではなく…実質始める前の着替えタイムなら…意表も付けて…覗きが成功できると思ったの―――」
「最低ですね」
「―――おべぶ!?」
そうしてボロボロになった男子生徒の一人が無念そうに叶わなくなった願いを呟くも、屠殺寸前の豚を見る表情に切り替わった光代が振り下ろした踵に運動靴越しながら踏まれてそれも止めさせられた。
「…まさか実習が終わった後の浴場タイムではなくこのタイミングを狙ってくるなんて…」
「呆れたというかある意味で大したものというか…」
「この努力と執念をもっと授業でも有意義に生かしなさいよ…」
「事前に着替え部屋の位置の偽情報を流して、そこに私たちが実際に着替えていた部屋の会話が際どいのを除いて放送されるようにしたダミー部屋を設けたのは正解だったわね…」
「…何で男ってこう…こういう馬鹿なことに労力や工夫を無駄に費やすのかしら…“覗き”とか?」
それに続けて建物の影から同じ作業服に着替えた女子生徒達の多くが汚物を見る表情でそう口にした通り、探検科の男子生徒がここへ来た目的は女子たちの生着替えを覗くためであった。
「…いや、でもまさかー…こうして仕掛けた罠にかかるまでは…まさかこっちの警戒魔術に引っかからなかったなんて…凄いわねこの技術は…」
だが、男子たちへの軽蔑の眼差しはそのままで、女子たちは彼らが装備していたSDBの破片を手に取って評価する視線を付けていた。
「…素材が植物由来の紙だから…森林系のステルス魔術と相性がいいけど…」
「まさか地球産のこれに森林系ステルス魔術を仕込むなんて…」
「ここ地球産ので魔力の気配が違うから気付きづらかったのがこっちにはまずかったわね…このステルス魔術仕込みの“段ボール箱”って…」
そう言いながらある種の畏怖も交えた眼差しを向けつつも女子生徒が摘まみ上げたのは、男子生徒達が装備していたSDBの欠片。
どうやら、SDBとは“ステルス・段ボール・ボックス”の略称のようで、男子生徒達はこれを被って今回の覗き作戦を実行に移したようだ。
(…うーーむ…人に限らず知恵あるものって…どんなに技術が進んでもやる事はあんまり変わんないなぁ…。段ボール箱で正体を隠そうとは…あー、もうそろそろ踵を外してあげて…それ以上は却って逆効果だから)
その様子を覗き班には加わらなかった男子生徒の一人で、先んじて彼らの企みを密告したミハイルが魔法秘密回線で、最初に覗き計画のことを報せてあげた一人である光代に微妙そうな声で話しかけた。
(え…先生…そこまで言わなくてももうじき教導の先生方や警備員の皆様が来ますからその時に拘束を外しますよ…? 何をそんなに心配そうに―――)
「う…ううううぅ…み、光代さんの…シューズ越しながらも踵に踏まれるこの感触…ハアハアァ…♡ な、何かが目覚めそう…♡」
「―――ぃ…? え、何で…こんな自業自得とは言え苦しくて恥ずかしい目に遭って…あの人達みたいに嬉しそうな声を…!?」
それに光代は怪訝な顔を浮かべるが、足元から踏み付けている男子生徒の苦悶を続けつつも何処か悪くなさそうな感じの興奮まで滲ませだした様子に、トラウマを刺激されたような恐怖を覚えてしまう。
(…もう今の身体になる前に何千年もの時間のほとんどをグロ含めて○クターンじゃないと書けないようなことをされてきて…どうしてこういう被虐症的な人やその反応には疎いんだろう…? “天然”と言うものにも向き不向きや細やかな傾向の違いというのがあるのかな…?)
そんな光代の様子に、色々と彼女の経歴を政治的にもヤバいのも含めて色々知っているミハイルは、下手に親離れさせることが出来ない大きくなった子供を見守る親のような生温かい眼差しを別の茂みにあるSDBの隙間から向けていた。
「…ん? 何かあそこにもこの破片を解析して分かったこの段ボール箱の魔力の反応が感じ取れるような…?」
(やべぇ! 他の男子たちを尾行するためにSDBを一つこっそり拝借して装備したのが裏目に出た!)
だが、SDBの破片を調べていた女子生徒の一人が今の自分のいる茂みを指さすと、ミハイルはギクッとして急いでその場を後にしたのであった。
まあ、こういうシーンを見てきたのは漫画やアニメの世界で、筆者の学生時代には修学旅行中も実際にこのような事は起きませんでしたけど…(いや、当たり前ですけど…)、この世界はSSなのでありかなと思って出しました。