032 よく見る地元にも変化はあるものだけど…
今回、出てくるある畑は実際に物語の主要な舞台のモデルである作者の地元の島には実際によくあります。
○2023年4月18日朝 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 異空間混在化地帯 日本・異世界仮共同管理区域内 ジブラルタル学院 学務学校部 探検科4-S教室○
「「「「「……………………」」」」」
地球側の異世界と繋がっている海士臣市側区域に飛ばされたジブラルタル学院において、まだまだ未知の領域が多い神訂暦世界の辺境地での調査や研究を目指す研究者や冒険者を目指す生徒が集う探検科トップのSクラスにて、生徒達はようやく再開した授業の内容を担任のレミーサに告げられて沈黙していた。
「…あのー先生、何人か追い付けなかったり聞こえなかったりした人もいるようなのでもう一度おっしゃってもらってもいいですか?」
「聞こえなかったのか? 草取りだよ。く・さ・と・り!!」
「「「「「だからあんたそれってギャグとかで言ってんのか!!!??」」」」」
その微妙な沈黙に耐えかねてミハイルが微妙そうな苦笑で問いを投げると、いつもの調子に戻ったレミーサの口から再度出たその答えで、4-Sクラスの面々の大半から某アスキーアート化した不良高校の高校生二人のような本音が声になった。
(…まーねー、まだ作者が上手く話しを進められてないから描写されてないけど、既に町だけでなく星や国の1つか2つを文句言いつつも救ってきた冒険やらその原因も幾つか起こしたりしたトラブルを起こしてきた面々からすれば…、若さ特有の傲慢も相まってこの反応は当然だよねー…)
ミハイルはそうして周囲から上がる憤りや不満を察して内心で考察している間に、彼の友人も含めたクラスメート達は次々と立ち上がって抗議の声を上げ始めた。
「そもそもあんたら大人たちによる警備不備のおかげで学園都市内に侵入出来たテロリストによる魔法テロ実験でこんな田舎星と異世界連結するという事態になったせいで今まで学園や寮に缶詰め状態にされていたってのに何ですかその授業は!?」
「そうですよ! 草取りなんて死んだも当然です!」
「ただでさえ実戦での技量を除けば評価や評判があれなあんたの信頼性が更に疑われますよ!」
「そんなのだからあんたかれこれ百年以上生きてるのに未だに結婚できないんですよ!!」
「そんなのやるくらいなら単位取得権なんていりません!」
なまじスペックやある点を除いた場合での成績で言えば高いがゆえに、4-Sの生徒達の抗議は高まり続けていく。
「…単位取得権だと!? そんなもの貴様らにはない! 何故なら4-Sクラスメーツ! 貴様らは既に死んでいる!!」
「「「「「!!!!!????」」」」」
それをレミーサは始め冷たい相貌で舐めるように見回した後、教壇に深いひびが入る勢いで拳を叩き下ろしてそう一喝し、抗議の声を上げていた生徒達をビビらせて黙らせた。
(こ、これは!? まるで秘伝の一子相伝暗殺権を継いだ胸に七つの傷のある男!? いや! ア○公じゃなくてブリ○スIFの方が新大陸征服して覇権を握ったあの作品のロールヘアーなエンペラー親父みたいな威圧感!!)
抗議の声に加わらなかった少数派の一人であるミハイルまでネタ要素込みで慄く中、彼が予想した人物の内の後者みたいな感じでレミーサは教壇より重く響いてくる声音で演説を始めた。
「…既に死んでいる。4-Sクラスメイトらよ…貴様らは既に死んでいるのだ…。貴様らは己が腕と技でこれまでの死地を切り抜けたように思っておるようだが…、貴様らの技で貴様ら自身が流派の祖となった流派はあるか? 貴様らが高めた力で師や学び舎による手入れの無かったものなどあるのか…? 身に纏っている制服はこの中で実際に製造したものはいるか? 家も食事も依頼も…そう…全ては貴様らの親や師に学び舎が与えたものだ! すなわち! 貴様らはまだ生まれてすらいないのだ! それすらに気付いていないその様子…! 何と言う愚昧さ!?」
「し、死んでいる…!?」
「お、俺達が…?」
「…あう!?」
修羅場の数々を生き抜いてきた歴戦の戦士としての眼力と威圧感を添えたレミーサの言葉に、地球の学生のそれなんぞ比較にならない死地を潜り抜けてきたはずの4-Sの生徒達は本能的に震えて仰け反り、中には王の力を手に入れた元王子の幼少期みたいに後ろ向きに転倒して後頭部を机の角に当ててしまう生徒まで出てしまう始末であった。
「…レミーサ先生、いつも先生の解説は肝心な部分の説明が少なくて余計な回り道が多すぎます。今回の異世界連結及びに学院のこの区域の転移による衝撃で我々の側の世界の方のウィルスや病原菌が一部流出して周囲の緑地を汚染して植生に異常が出てしまって魔物化まで起こし、この学院のみならずに学校外の他の地域まで悪影響が出そうだから実戦訓練や調査及び研究も兼ねての草取りが今回の授業でしょう」
「「「「「ああ、なるほど」」」」」
だが、抗議の声に加わっていなかった少数派の一人である光代が眉をしかめた表情で、今回の授業内容の目的と理由をわかりやすく説明すると、生徒の多くからあっさり納得の反応が示されて手がポンっと鳴らされた。
「おい!? 教師であるあたしとそいつのこの差は何だ!?」
「いや! あんたの説明下手過ぎるのが悪いんだろ!」
「光代さんとあんたの信頼度を一緒にするな!」
「あんたは現場における戦技とか魔物の倒し方の教授に集中した方がいい」
「ぐぬぬぬぬ…(…ち、ちくしょう! あの見た目清楚女子学生系中身ビ○チババアめ…! アイツのあたしの孤児時代なんざカスに思えてくるノ○ターンに乗る事間違いなしな外道前世を暴露してやりたい…!!)!!』
(それやると各方面で面倒くさくなるから止めろ…ネタバレになるし、というか作者もまだネタを纏めきれてないから…)
その反応の明確な差にレミーサが再び怒鳴りつけるが、調子を取り戻した生徒達から真っ当な反論で黙らされると光代に逆恨みと放送禁止ワードが混じる思念を向けるが、それを読みとったミハイルに色々メタい内容の念話で突っ込まれた。
○2023年4月18日朝 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 異空間混在化地帯 日本・異世界仮共同管理区域内 ジブラルタル学院 実習地一角○
一応はトップとされる探検科Sクラスの様子がアレなので想像し辛いが、名門であるジブラルタル学院は広大な面積を持ち、その多くは魔法アイテムの原料になる植物や動物などを管理するための実習地や、それを対象とした探検の訓練を行うための訓練場が広く存在する。
「…はー、久々の授業が初っ端から実質新種を対象にした対魔物訓練及び調査研究とは久々に気分が良いなー」
「今まではここ地球の生物がどんなのかわからんって理由で寮や宿泊先で待機状態だったもんなー」
その訓練場の低空を、箒などの魔法道具に乗っていたり、もしくは各々の翼など身体的特徴で空気を切りながら、2-Sのクラスメイト達は各々の用意した装備や授業で使う機器類を入れたバッグを抱えて今回の訓練兼研究対象地に向けて前向きな感じで進んでいっていた。
「でもま~、外に出れるようになっただけでも良かったよ。それとアトラスの方も連絡通路のおかげで今まで通りに今は上に見えている町の方へも出入りできるようになっているし…(日本の方は在日米軍とか以外で初めて陸上国境みたいなものを構える事になったから調整で大変になっているとハイディナが言っていたけど…)」
「そうであるなミハイル殿、今はまだビザやパスポートなどの手続きなどで下に見える地球側の世界とは出入りは出来ぬが、何れはジブラルタル各地にある諸外国の租界みたいに出入りが出来るようになれば…色々と我々の目標も達成しやすくなろう…」
ミハイルはその中に混じって今の肉体年齢とそれに引き摺られているメンタルから周囲と談笑しながら、その背から地球側に帰還したばかりのものとは違う黒いオーソドックスタイプの翼を生やして飛んで進んでいたが、その隣を衣服の下には武骨な西洋風鎧で全身を隠しているように見える青年が足の裏より空気をジェット噴射の様に吹き出して進みながら彼と言葉を交わしていた。
「…ジークフリートは相変わらず変わらんね。機械人族なのに生身の種族の子にも性癖発動するんか…」
ミハイルから理解し難そうな眼差を向けられている、その全身鎧づくめの格好に見える青年の名はジークフリート・ギルデンスタイン。
地球で言う北欧辺りに存在するエルフ族の王家が統べるミッドガルド王国で、エルフ達と共に主流派を構成している種族機械人族の出身だ。
機械人族とは生身の身体で母親から生まれるのが多い他の種族と違い、両親によって主に魔法無機物系パーツで体を作られた後に、その両親から魂の情報の一部を分けられてそれが“依り代”と呼ばれる肉体の中で融合して定着することで誕生する種族だ。
その誕生経緯のため、今現在は人間型など多くの姿かたちの形状はあるが基本は地球で言う人型ロボットのような姿をした種族が多い。
機械人族はその特性として電子魔法やそれを利用した魔法機器の扱いに長けており、今回の野外授業に出ているジークフリードも含めて彼らの多くは今回の野外授業でもそうした調査用の魔法機器の操作も担当に含まれていた。
だが、ジークフリード達は腕にこそ信頼はあるがある性癖のおかげで周囲からの信頼、特に女性陣からの評判はお世辞にもよいとは言えず、今回のミハイルからもそれで微妙な姿勢を向けられていた。
「ミハイル殿! 如何に我々が君たちの様に有機細胞ベース種族と大幅に体の構造が違うといって性癖にまで差別を設けるであるか!?」
「いや、別にそう言うわけではないけど…」
「だったらミハイルも女の子のあーんなシーンや!」
「こんなー姿や!」
「そう言う系のシチュエーションに!」
「「「「「興味ゼロではないだろう!!」」」」」
その不評の原因にもなっている性癖を前面に押し出した様子で、ジークフリードを始めとして男子の何名かが親指の胎を突き出しながらミハイルに突き出して迫ってくると、それに若干引きながらもミハイルは視線を斜めに反らして男の性が引き摺りだされてしまう。
「…まあ、わからなくはないけどさあ…これから向かうその野外授業の現場である“うぎ畑”でどうそれを達成するんだよ…??」
ミハイルが若干頬を朱色に染めながら向けた視線には、今回の授業で向かう先のとは別の日本側の領土に広がる、サトウキビ畑であった。
ミハイルの口から出たうぎとは現地海士臣島の方言でサトウキビのことで、今回の彼らが向かう異常生態化しているという現場とは今回の異世界連結の事態で学院側の敷地内に属すことになったサトウキビ畑のことであった。
「…甘いですなミハイル殿は…畑なら畑で出来るシチュエーションはありますぞ…!」
「情けない…今よりも風紀が大いに自由であった時代よりも魂の記憶は積み重ねられているというのに…想像力の方は老化してしまったのか…!?」
「いや、中身の年齢は関係ないだろ…!?」
その事を指摘されても鼻で笑いながら自分の秘密にも触れてくるクラスメートの野郎たちにミハイルは少ししかめっ面になるが、そこで大きな影に自分達が飲み込まれている事に気づき、その原因を目にして彼の目は大きく見開きだす。
「…あらま、これが地球でのサトウキビですか…」
「本当に異世界らしいですねぇ…」
「いや、向こうから見ればこっちが異世界だろうけど…」
「本当に凄いなこりゃあ…」
どうやらその影は目的地のサトウキビ畑に辿り着いた証らしく、探検科4-Sクラスの生徒達はそのサトウキビ畑を間近に目にして興味津々な表情を目にする。
各々の感想を口にしつつも興味深そうにしながらも冷静な反応が目立つ周囲に対し、一人だけ明らかに様子が急速に変わっていっている男がいた。
「何か神訂暦世界でも滅多に目にしないレベルでデカくなってないかーーーーーーーーーーーーーーー--!!!??」
その叫び声と共に目玉が飛び出そうな驚愕に襲われたミハイルの目に映るそのサトウキビ畑は、最低でも地球で言う電柱レベルにまでサイズが巨大化し、その中心にはあろうことか東京タワーレベルにまで巨大化している一本のサトウキビがそそり立っており、改めてミハイルはこの世界で生まれ育った地元の島が異世界と公に繋がってしまったことを残念な意味で痛感させられるのであった。
今回、文中に出てきたサトウキビを意味する“うぎ”は、物語の主要舞台もモデルになっている作者の地元の島の方言で実際にある呼び方です。