031 授業内容は国や地域で変わるものだけど…
今回より、ミハイル達の異世界における学校での平和な授業(?)がようやく始まります。
○2023年4月18日朝 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 異空間混在化地帯 日本・異世界仮共同管理区域内 ジブラルタル学院 学務学校部 探検科4-S教室○
「…あーー、色々ときつい突っ込みを浴びせられた疲れで体が重いけどやっと久々に入れたこの教室にー…」
学院長長室での(自業自得のも混ざるが)疲れる三者面談を終えた後、ミハイルはやっと戻れた己が所属する学校の自身のクラスに入って一息ついた表情をしていた。
ここジブラルタル学院は帝国所属なのでその学制は帝国法にのっとっており、ミハイルが通う同校の上位学校部は地球日本で言う中学と高校を合わせたような存在で年月は地球時間と同じ6年制である。
帝国は地球で言う小学校に値する6年制児童学校があるが、この時点で留年や飛び級の制度もある。
そして、児童学校を卒業するころには通常の職への就職を目指す職務学校か、大学などより高位の学術機関への進学を目指す学務学校どちらかの進学を求められるのだ(一方で、職務学校卒業者を対象にした大学も存在する)。
この学院でミハイルは後者の学務学校部に所属し、主に未開拓領域開発のための開発者やその分野の研究者を目指す探検科、その中で成績最上位者が集うSクラス所属となっていた。
「おはようございます先生、面談の方は大過なく終われたようですね」
「あー、一回起きそうになったけどどうにかいなして後は租界警察に引き渡してすんだよ」
その横隣りの席に光代が穏やかな様子で座って話しかけるとミハイルも何割か気分が良い意味で戻っていく。
「光代も大丈夫? 今回の異世界連結安定化作業で色々聞かれたり先生たちの手伝いをしていたらしいけど?」
「大丈夫です。昨日は休みを貰えたので…それでも一昨日までこの学園と円門を中心とした連絡及ぶ交通のパイプを調整するための手伝いをお願いされてましたから疲れ残ってますけど…」
それでも光代の少し疲労が残っている視線が向けられた先には、ジブラルタル学院を守る塀と隣接した形になっているカールソン家もある海士臣市ループ橋上側集落と、そこで厳重に警備などが付けられた円門、それらを通して地球と上空に鏡合わせの様に半透明状に見える異世界側アトラス星系第二惑星の同学院の取り残された側とその周辺が見えていた。
「…生活物資などを運ぶ輸送船などの通過は円門でないと通れませんけど、周囲を流れている空間の支流を利用して私達や教員の皆様がアトラス側に残されている学院の施設と行き来するための連絡路は出来ました…」
ジブラルタル学院の地球海士臣市側に飛ばされた部分と、異世界側に残されて空に映し出されている部分の間には半透明状の長い階段やエレベーターが幾つも伸ばされており、そこを通して今も教員や生徒が大勢行き来していた。
「…いい仕事するねー今の光代はいつも本当に…政府間協議でここは日本から帝国に貸し出された土地という事になったから、あのアトラス側との連絡通路も実質帝国領ってことになるんで行き来は前みたいに出来るのが助かったよ。余所みたいにパスポートや旅券を検問所でいちいち見せて審査を待たないといけないなんてのは学業ではきついし…」
「…ですがー、その間も色々と各方面から話が来ましてー…、特にーあの連絡通路からでも持ち運びできる代物系は…いろいろな方から相談を頼まれまして…特に探検科の方々から…」
「あー、特に先祖や流派が特に盗賊系か忍者系にスパイ系の人とか特に多そうだよねー…!?」
その学園内で地球側と異世界側を行き来する人々の光景に、ミハイルがひとまず安心しつつも別の悩みが生じたところで、ニュっと二人の間に別の誰かがその顔を逆さまの状態で割り込ませてきた。
「ほほう? 今日も夫…じゃなくて師弟カップルとして仕事や学業を名目に熱々ですなぁ~~~♪」
そうニヤニヤしながら揶揄ってきたのは、ボーイッシュなショートの黒髪を揺らして黒い瞳の切れ目を中心に飾り気のない美貌をして口元を黒のマスクで覆い、この学院の女子用学務学校生徒の制服を纏いつつも下の方はGパン風ロングボトムで構成している少女で、彼女は天上からぶら下がっている年月と歴史を感じさせるステンドグラス型照明器具のランプの一つに足の裏をくっつけただけの状態でぶら下がっていた。
「ちょっと風音ちゃん! そんな如何わしい噂になるような言葉は止めてちょうだい! まだ私と先生は魔道士としての師弟止まりだから!!」
光代が頬をやや赤くして言葉を荒げた相手は望月風音。
地球世界地図に似た神訂暦世界の宙域図の日本辺りに存在する中堅列強の一つ“和陽皇国”からの留学生の一人で、若くして母国に起源を持って異世界における影の戦士業界の代名詞となっている“忍び”で上忍という高位の地位についている実力者だ。
その風音にとって天井に立ったり、それや壁の表面を普通の道の様に歩くのは階段を歩くに等しい行為であった。
「ほほう? まだという事は何れそうなるということか?」
「…そ、それはぁぁぁぁち……ちが…って何を触ろうとしているの?」
その風音に光代はつい苦しい言い訳をしてしまってそれを指摘されて更に頬が赤くなりそうになるが、風音の妙にワキワキした手が自身の胸元に近づいているのに気付くと能面になる。
「いやー、ハアハア…まだ隣の野郎のものになってないのなら今のうちにその我らが母国和陽皇国産の誇れる白毛和牛系乳牛の象徴を堪能させてもらおうかと…!?」
それを指摘された風音は何処か息を荒くして自分の頬を赤くしつつも光代の胸元へ指を走らせようとするが、触れる直前に彼女の腕は能面のままの光代の手に掴み取られた。
「先生、お願いします」
「はいはい」
「ふん!」
その直後、光代の要請を受けてミハイルが自身の席の背後の壁に触れて魔力を通した後、光代はその短い気勢の入った声と同時に風音を思いっきりぶん投げた。
「ぶぼべぇ!?」
ミハイルによって壊れたりして破片や煙を出さないように魔術で強化されたその壁に投げつけられる形となった風音は、鉄板に人が豪速で叩きつけられたような轟音と汚い悲鳴を上げた後、ズルズルと壁の表面を滑った後に床へ落ちた。
「おい? さっきの音は何だ?」
「申し訳ございません。風音さんが性犯罪をしそうになったので警察の方を煩わせないように対処した音です」
「そうか、あまり派手な音を鳴らすなよ」
ドアを開いて別の教員が何事かと姿を現したが、能面のままの光代にそう説明されて直ぐにその場を後にしたところからして、そこまで珍しいことではないようである。
「…おいー、大丈夫ー風音ー?」
「…ハアハア…あいつの武技と女らしさも併せ持った指に掴まれて投げられるこの感覚も…止められねえ…♡」
一応ミハイルが心配するが、風音が痛む内臓に急かされて声を荒げつつも何処か恍惚とした苦笑を浮かべている点からしても、当人からすれば満更ではなさそうであった。
だが、風音が痛む胸を手で擦っていた所で乱れた衣服の繋ぎ目から、ある一冊の漫画が出るといつもとは少し違った展開になる。
「…あれ? 風音…この漫画…確かここ地球日本産の漫画じゃ…?」
「ああ、それはまだここ学院の警備が今回の異世界連結のショックで戻ってなかった間に山の下の海士臣市に出て…そこで発見した本屋や古本屋から購入したんだ。海○塾書店とかあ○み庵…じゃなくてアマトミ庵って名前の古本屋とかからな」
ミハイルに指摘されて取り落とした事に気づいた風音はその漫画を再び手に取るが、光代はそれに不穏さを感じた表情を浮かべて彼女と再び言葉を掛ける。
「…え? ちょっと待ってください。それは今まで召喚魔術などで海賊やマフィアの方が召喚したものを複製したものではなくて本物を購入したということですよね? どうやって購入したんですか?」
「あー、その街中をこっそり見て回っていた時期にマ○タニ…じゃなくてカドヤニってリサイクルセンターを見つけて、そこが金の換金もしていたからこの学院の依頼授業で得た給料をここ側の換金所で金に交換した後、カドヤニの方で今度はこっちの通過である日本円に換金して買ってきた。いやー! まさかあの忍者漫画の原本を手に出来るなんて思ってもいなかったー!」
説明しながら風音は、その金髪の主人公と赤い体毛をした狐の幻獣が表紙に描かれた漫画を胸に抱いてウキウキとした様子になった。
「…待ってください。それって税関や発展途上惑星保護条約などからして大丈夫なんですか…?」
その風音に光代は表情に暗さと険しさを生じさせて脂汗を滲ませた状態になる。
「…光代…」
「…何ですかその含みのある笑みは?」
「バレさえしなければ違法にはならないんだよ」
それに対し、風音はどこかの決まった顔を持たない邪神の化身の一種が好みの少年に対して言い放った時のような、暗い表情を浮かべてそう言い放った。
『バレさえしなければ違法にはならないんだよ』
「これ、風紀委員会の皆さんと相談しますね」
「ごめんなさいごめんさい! あの鉄鬼な風紀委員長に知られたらマジでシャレにならないんで止めてくださいっす…!?」
光代はその台詞を映像魔法道具で記録して伝えるべきところへ連絡をはじめ、それに風音は慌てて懇願しながら止めさせようとするが、その問題は思わぬ形で解決する。
「心配すんじゃねえ光代、ほれよ」
このクラスの担任であるレミーサがそう言いながら教室に入ると、拳銃の様に構えた右手の人差し指から高速で小さな魔法による火の玉を銃弾のように撃ち出し、風音の買った漫画を一発で焼失させた。
「アアアァアアアアアアアアァアア!? 私の漫画がぁぁアアアァ!?」
「喧しいんだよ、やっとの授業再開なんだから皆ー席に着けー」
「「「「「はーい」」」」」
それに悲鳴を上げた風音には構うことなくレミーサは朝礼を始める声掛けを来ない、生徒達も慣れた様子で続々と着席していく。
「…さーってと、投稿している連中全員の確認は終わったので早速探検科らしい授業に入るぞー。それも喜べお前ら! 海が無くて且つ住めるところが基本的に温帯なので海水浴とは縁のないアトラスにいた頃と違って今度のはコバルトブルーの亜熱帯の海が広がるここ海士臣島でだ!!」
それから生徒の出席確認を終えたレミーサがこれから行う授業の内容を説明し始めると、生徒達から好感的な反応が出始める。
「えー!? やっと再開した授業が実践形式のか! しかもこんな小さくはあるけどカリブ宙域や和陽南西部みたいな亜熱帯や熱帯系の海と面したリゾート地なところでー!?」
「前のテロで生まれた円門開通の混乱でずっと寮や学院にほぼ缶詰め状態だったから助かるよー」
「えー、私の生まれた星って海とかが無いから楽しみだなー」
「どんな水着を着よー?」
「こら、そういう話は授業じゃなくて学校終った後にしなさい」
「でもこの島って確か海開きもしたって話よねー」
「…それでも光代さんとかボンッキュッボンって言葉が似合う美女達に…ぐへへへへ!」
「うわ、さいてー」
「光代さんをそんな風に見るなんて…」
「うるせえ! 最低だと思うならそこで漫画焼かれて灰になってる両刀くノ一を矯正しろや!」
「でもー、雪国で生まれ育った私みたいな子には楽しみー」
生徒達はここ数週間での混乱で生まれたストレスもあってか好感情を露わにして、外に出ての授業という自分達が選んだ学科らしいその授業内容に士気を高めていった。
「…それじゃー、今回の授業内容なんだがー……お前たちには今回…」
(ん? 何か微妙な感じが…)
だが、その様子を見てレミーサが口元に薄っすらとニヤリとした笑みを浮かべて続けたその言葉に、ミハイルが最初に嫌な意味で慣れた予感を覚えるが、残念ながらそれは次のレミーサが告げた授業内容が肯定してしまう。
「草取りを…して…もらいまーす♡」
そう授業内容を言った時のレミーサの表情は、どこかの時間軸で独裁国家と化した地球の某弧状列島である中学生たちを一クラスごとデスゲームへ叩き込んだ、パロディ教師のような笑みであった。
(((((それってもしかしてギャグとかで言ってないよな!!??)))))
それに対する4-S組の生徒達の心情は、またどこか別の時間軸の日本の何処かにある不良高校に通うある二人の高校生のようなその一念で支配された。
今回も何処かの学校漫画で見るようなパロディばかりでした…。
次回から、詳しい授業内容の説明と授業の様子が描写される予定です。