002 帰りが早くなりすぎだと戸惑いも生じるのに…
家から送り出した家族が、予想外の姿で速く帰って来る事は現実にもありますよね。
まあ、こんな帰宅は…多分異世界でもそんなには無いでしょうけど…。
それと、皆さんをあまりお待たせしないように投稿の頻度を上げるべく、今回から話は切りの良い所で終わりにしつつも文字数は少なめになります。
○2023年4月7日朝 日本国 鹿児島県南部 海士臣島 海士臣市 カールソン家○
「……………」
ミカエルが家を出た後、父であるダニエルは自身の書斎でもある仕事部屋に籠って、作品を書くための資料の纏めと推敲をしていた。
「あなた、いくら本土へ出社するための準備は昨日のうちにしてるからって、出発前で執筆にそこまで時間をかけていたら飛行機に間に合わなくなるわよ」
「ああ…ごめん、けれど…数日前から昨日までのあの子から聞いた夢の話のデータへの打ち込みが終わって無くてな…」
マリアに注意されつつもダニエルはパソコンのキーボードを打ち続けていた。
「…本当にあの子と実質二人三脚でやっている仕事が好きなのね…。まあ、私も貴方達が書く物語は好きだし、あの子が産まれる時のあのやり取りから無視できないのはわかるけど…」
夫に少々呆れつつも、マリアはその理由については理解を示す。
(…あの子が産まれる前から、あの人とは何故か同じ内容の夢を見て…それで、実際に救われてきた…何より、あの子が予定よりも一月早く生まれそうになった時…家にいた私達は慌てて…家を出て病院に行こうとしたけど…、その時は台風だったから…車の運転が難しくて、その時の強風でループ橋にて倒れそうになった時…)
その時、マリアは陣痛で朦朧としていた視界であったが確かに見たのだ。
暴風によって車が倒されて窓も割れ、車外に身が飛び出て地面に打ち付けられると思ったその時、視界を雷光とは別の眩くも温かい光が包み込んできた。
そして、割れて横転したはずの車は何とか近くの県立海士臣島病院に辿り着けたのだ。
何とか出産を終えて意識が回復した時は、幻覚だと思ったマリアだが夫が言うには同じ現象を目にしたという。
実際、後で車を見たら出発前は経年劣化で色褪せて古びていた当時の車は、どういうわけか大幅な修理と再塗装を得たばかりのような状態に変わっていた。
そして、車の窓には盛大に割れた時の消し忘れであるかのように、記憶にあるのと同じ位置で小さなひびが残っていたのだ。
(…第二次大戦の時も近代兵器で武装した天使を見たという兵隊さんの話もあったし、科学ではまだ説明できない事が多いって言うけれど―――!?)
マリアの思考が回想を切っ掛けに深掘りしようとしたその時、彼女達が居る家を地震とは別の大きな揺れが襲い掛かってきた。
「―――おって何!? この揺れはァ!?」
「外から何かがぶつかってきた音だ! だが何が起きてるんだ!?」
その衝撃と轟音に驚いたダニエルとマリアが驚いて家の外に飛び出すと、そこで彼の書いているラノベの冊子の姿に良く似た巨大なスライムが、カールソン家の家の外壁を次々と破壊して取り込んでいる姿を目にした。
「な、何これ!? 新種のUMA!?」
「そんなに驚いている場合じゃない! 早く奴が気付かない内に周りの皆と共に避難を…!?」
驚くマリアを落ち着かせようとしながらダニエルはどうにか逃げようとするが、そこで巨大スライムが次に荒そうとしている部屋を目にして血相を変える。
「い、いかん! あそこはミカエルと共に書き留めてきた資料が満載している部屋とあの子の部屋が―――!?」
息子との思い出が詰まった場所まで荒らされようとしている現実に、我を忘れたダニエルは少しでも思い出の品を持ちだそうと家に駆け戻ろうとするが、その彼の頬の真横を背後から豪速で何かが通り過ぎた。
「モオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!???」
「―――あ……れ??」
その通り過ぎた何かはスライムの身に命中すると、大きな雷光を放ってスライムを大きく感電させ、目にしたダニエルを呆けさせてしまう。
そして放電が終わると、少し体内が濁ったように変色して目を回したスライムはゆっくりと倒れて地響きをたてた。
「……ふうぅぅ…どうにか間に合った…けど散々な帰宅になったな」
それから、先ほど水銀の巨大柱の傍らで姿が変わった状態で現れながらも、美優紀と宗一に正体を看過されたミカエルが、巨大スライムの傍らにふわりと降り立った。
「きゃあぁ!? な、何なのよこれ!?」
「た、大変だぁぁ! 下のループ橋の方から次々と怪物が出てきてるって…ええ!?」
「こ、こっちにもいるし!?」
「な、何か背中から羽を生やしている様な男もいるぞ!!」
「あ、しまった…」
だが、周囲から騒ぎ見たり、下のループ橋辺りから逃げてきた人々が集まりだしてきて、ミカエルは自身も悪い意味で目立ち過ぎている事に気付いた。
「…な、何じゃあこの化物は…!? それとお前は何もんじゃあ!?」
「あ、ヤバい…近くの猟友会メンバーの田島おじいさん…!?」
立て続けに起きるファンタジー且つ周囲に少なくない被害をもたらす現象に、仕舞には恐慌を起こした人々の一人が猟銃を向けようとするが、それに立ちはだかる人物が現れた。
「や、止めてください田島さん! この子は…何か髪とかの色は変わってますけどウチの息子です!」
必死な表情で手を大きく広げたダニエルが息子を守ろうと、猟銃を構える田島を止めに掛かったのだ。
「…あ、父さん…気付いて…ッ!?」
それに戸惑うミカエルだったが、今度はその目の前にマリアが大きく近づいてきた。
「…えっとーー、家を出て十数分くらいしか経ってない間に何が起きたかはわからないけど…ありがとうね。私達…とここの皆をこのよくわかんない大きな生き物から守ってくれて…」
「………あ…母さんも…気付いたんだ…」
驚きが落ち着いてはいないがいつもと同じ調子で接してくる母に、ミカエルは気付かない内に頬を涙で濡らしてしまう。
だが、両親と違って今のミカエルにとっては、長らく帰る事ができずにそれを諦めた故郷と、そこでの再会を半ば夢物語と感じるようになっていたが故の涙であったためだ。
「…でもー、さっきミカエルが放ったらしい放電のおかげで…あなたも親しんでるお父さんとの仕事場が丸焦げになってるけどねえ…」
「「…あ…」」
故に、自分達の思い出の場所が黒煙を上げている無残な姿に気付いた時は、ミカエルは父と揃って唖然としてしまっていた。
そこで上がっている煙は、ミカエルの幼少期から見てきた夢の内容を中心に書きつけてきたノートや、それを推敲したりしてきた小説のデータにが入っているパソコンなどから上がっているものだったからだ。
「ミハイル君ー! さっき現れた地竜の一体が市街地で暴れてますよー! 後続の隊が既に向かってますけど貴方もー!」
その為、スライムに続けて現れた竜の一体が市街地で暴れ出してそれが目に見える規模になっても、ミカエルは気付くことが大幅に遅れた。
帰宅して安心したというところで、仕事絡みで何か思いだして表情が悪くなるということは現実でも良くありますよね。
多分、魔法とかがあっても無くてもその辺は変わることはないでしょう。