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登校途中に繋がった異世界からやんごとなき方として戻ってきてしまった話  作者: kaioosima
第二章 新天地が新鮮な感動だけとは限らない
18/50

018 どんな社会にも壁は付き物だけど…

今回、異世界側における主人公達の種族についての情報が、ブラックなものも含めて出てきます。

 ○神訂暦世界6015年4月8日朝(2023年4月8日朝) エウロパ大宙域 イベリア宙域 帝国領アトラス星系 第二惑星 ジブラルタル学院 ルルイエ邸○


「…とりあえず、殺菌と特定種族向け有害物質除去は施しましたこちら側のお茶です。あちらに見えます円門(サークル)から流れ出ている支流のうちの安定化出来たものうちの一本を、息子の伝手で無生物転移装置用に貸し出させてもらえたのでどうぞ…」


 学院各所が今もマスコミなどで騒音が鳴りやまない中で、名前とは裏腹に普通の日本武家屋敷風の様式をした客間の一室で、クトゥルーはお茶を卓上に浮かぶ画面に差し出していた。


『あ、どうも…ありがとうございます…』

『ほわー、良い香りですねー。息子がお茶をたてるのが上手いのはそちら側であなたが教えてくださったおかげのようですねー』


 お茶は画面上の前で止まると、稲妻を発して画面の向こう側の地球に瞬間移動し、ダニエルを緊張させてマリアを感心させていた。

 画面は学生寮の屋上庭園からクトゥルーの自宅へと移動されていた。

 一方で、同じように地球側から送られてきた茶菓子をクトゥルーは魔法などで検査し、無害化を確認してから食して、お互いに向こう側の味を楽しみだす。


『…お、おお…これがSFファンタジーな異世界のお茶か…地球の緑茶に似てるようで…味わい深い…と、まあ…つまり、クトゥルーさんは私達の息子ダニエルが…ミハイルとしてそちらにいた時に養父として身元を引き受けてくださったということでよろしいですね?』

「…ハグハグ…ぷは、そうですね、むしろ他の国では吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ばれることが多い、ミハイルの出身種族星守り(クストーディア)族はそういう子が多いですから」


 その間も、カールソン夫妻は息子のそちら側での話を中心に、異世界のことについて細かく聞いていく。

 まず、ミカエルが異世界で生まれたミハイルとしての出身種族は、他の種族、特に他国の人間族で敵対する多くの国々では蔑称として吸血鬼(ヴァンパイア)と呼ばれているが、彼ら自身は自称として星守り(クストーディア)族と名乗っているようだ。

 星守り(クストーディア)族は一部の病か、自殺か他殺でないと遺伝子解析上はおおよそ五千年から一万年前後という超長寿を生きられ、他の種族と比肩して極めて頑健且つ高い再生力を持つ肉体と強大な魔法を扱える魔力、それらを長く扱うに足る頭脳を持った種族。

 だが、ダニエルがそれらのスペック以上に驚いたのが、ほとんどの星守り(クストーディア)族の生まれ方だ。


『…つまりー、そっちでのミカエルもー光代さんもー、生まれた時点では人間で…生んだ血縁の方でのご両親もまた普通の人間だということですか…?』


 マリアもまたのほほんとしたままだが驚いている通り、星守り(クストーディア)は普通の人間から普通の人間として生まれてくるものが大半だというのだ。


「…そうですねぇ。先ずは赤ん坊として生まれてから数十日以内に…瞳孔の色が断続的に赤くなり、それから数日くらいは体表を赤黒い血管が浮き出て…それで体の崩壊と再生を繰り返します…」

『お、お母さんだけでなく赤ちゃんまで生まれてすぐにもそんな苦労しないといけないんですかぁ?』

「ええ、今では医学の発達で死亡者は大幅に減りましたが、それでもおおよそ百人に1人の割合で、赤ちゃん達が死んでしまいます…」


 文明が地球よりも遥かに発展している異世界に存在する多くの知性種族の中で、最強の一角に数えられる種族の出生の過酷さにカールソン夫妻は言葉をしばし失う。


「昔はそういうので生まれた子供の遺体で人体模型を作ることもあって、私が勤めている大学病院や博物館に○―ビー人形風のそれが教材用のも含めて幾つかあるんですよ」

『地球にも昔にホルマリン漬けになった死体を展示してる博物館ありますけど不謹慎ですしそもそも○―ビー人形風にする意味あるんですか!?』


 そこで止めのようにクトゥルーが画面に映し出したその見た目は大きな半分○―ビー人形風になっている赤ん坊の人体模型に、ダニエルが憤りを隠せない様子を見せた。


「…昨日に色々調べて見ましたが、あなた達の星は地域差大きいですが術レベルはともかく人権意識や倫理観は我々よりも優れているようですな。ミハイルもあなた達の頃でミカエルとして生まれ育ったとのは、私のところで育ったよりも良きことだったでしょう…!?」


 それにクトゥルーは何処か憧憬を滲ませた双眸を画面越しながらカールソン父子亜に向けるが、タンっと卓上を叩く音が木霊した。


「そんなことない! どっちの父さんも住んでいる世界と環境が違うだけで立派だ!」

『…ミ、ミカエル…』

「…ミハイル…」


 その音の正体はクトゥルーの隣りに座っていたミカエルで、愛する息子に大きく肯定された喜びでダニエルとクトゥルーは目尻が熱くなった。


『…でもお、その話だと星守り(クストーディア)の人達って、その子とクトゥルーさんが暮らしている帝国領以外でも、人間がいる国なら生まれてくるってことよねぇ。そういう子達ってどうなるの? もしかしてーミカエルモそっちでミハイルとして生まれた時はそうだったの?』


 その感動の空気で、それを感じつつもマリアがその疑問をふと浮かべた。


「…あ、いやーーー…それはーーーー…」


 それにクトゥルーは言い辛そうな感じになるが、思いもよらぬ裏切りで止めを刺される。


「他国で生まれた星守り(クストーディア)って大抵はそこから帝国に売られてくるの」

『はい!?』


 ミカエルがしれッと言い放ったその言葉に、ダニエルは画面から目玉が飛び出そうな勢いで驚いた。


「ミハイル! 誤解を招くような言い方は止しなさい!」

「いやさー、保護とか支援とかどう言っても実態はそんな感じじゃん。生まれた国もほとんど厄介払いって感じで丁度良く金と支援を得られるって感じだし」


 それに隣りからクトゥルーが声を荒げるが、ミカエルはそれに口を尖らせつつもぶっちゃけ続けた。

 そうして場がグドグドになりそうなところで横やりが入ってきた。


「申し訳ありません。先生にクトゥルーさん…今回は地球との接触事件の影に隠れていますから目立っていませんけど…、“施設行き”で租界の検問所にてまた騒ぎが…」


 襖を開けて客間に入ってきた光代が気まずく且つ少し辛そうな表情で入ってきた。


「…そうですか、直ぐに行きましょう」

「そうだね父さん、あ、そっちの父さん達も今さっき言った言葉の理由が分かるから画面越しについて来てね。しっかり隠しておくから…」

『…え…』

『…ミカエル…?』


 そう言って立ち上がったミカエルの顔は、疲弊という概念が骨髄まで染みつきつつも何処か一抹の未練を捨てきれずにいる老人のような諦観が浮かんでいた。






 ○神訂暦世界6015年4月8日朝(2023年4月8日朝) エウロパ大宙域 イベリア宙域 帝国領アトラス星系 第二惑星 宇宙港○


 異世界である神訂暦世界に属するミカエルのミハイルとしての所属国たる帝国が領有するアトラス星系は、帝国本宙域から離れた飛び地もとい飛び星系である。

 距離や日数的には地球で言うヨーロッパに相当するエウロパ大宙域各国の方に近く、その交通上の要所から帝国とエウロパ側の取り決めで、ジブラルタル学院と同じ惑星上の近い位置に後者の租界は存在していた。

 そうなれば租界と帝国領の境には国境検問所が当然あり、その性質から双方が半ば共有している宇宙との出入口と併用して建てられている。

 高い壁や鉄条網で囲まれ、双方の兵士や警備員が厳重に警戒しているのが容易に理解出来た。


【…う、うぅぅ…】


 その国境検問所で、エウロパ側から幼く小さな少年が、明らかに不釣り合いな大きさと重さなのが分かる旅行カバンを引きずりながら、帝国側へ向けて近づいて来ているのが見えた。


『…うわ、小さい子があんな大きな荷物を引きずって…』

『あんな小さな子に1人で大きな荷物を持たせて一人きりにするなんて…』


 帝国側の監視塔の影に上手く隠された画面越しに、ダニエルとマリアが困惑と憤りの色を見せていた。

 二人がそうして視線を向けている先に、光代が少年を心配そうに近づいてきた。


【こんにちわ。大丈夫ですか? 荷物を持ちましょうか?】


 普通に心配しているのが分かる優しさと年齢以上のゆとりのある表情で、光代は少年にエウロパ側の公用語で語りながら手を伸ばしてきた。


【…!? 消えろ化物!】


 だが、拙いが確かな憎しみと恨みを感じさせる拒絶を添えて、少年はその手を払いのけた。


【……ッ…失礼しました…】


 それに光代は悲しそうな反応を見せたが怒りはせず、むしろ馴れているような反応で少年を少し離れた距離で静かに追いつつ見守り始めた。


『…え、どういう事なの?』

「見ればわかるよ…」


 マリアは画面越しに困惑を強めてミカエルは注意を促す。

 そうして少年とそれを尾行する光代は帝国側の検問所に向けて近づくが、そこで石が何処からか少年に向けて飛んできた。


「ッ!」


 光代は瞬時に気付いて手を払って生じさせた小さな斬撃状の衝撃波でそれを撃ち落とした。


『…え!? 今のは…!?』


 ダニエルがそれに困惑を強めたところでその周囲を見渡すが、壁とフェンスで遮られたエウロパ側の通路に十数人ほどの人だかりがある事に気付いた。


【お止めください。このような小さな子に大の大人が何人も集まって来て大人気が無いです】


 そして、綺麗に断面を見せる撃ち落とした石を彼らの足元に投げ、光代は表情こそ若干目を細めた程度だが、静かだけど素人でも確かに感じられる怒気を見せて彼らを注意する。

 それにエウロパ側の人々は始め唇を噛み、何人かが怯えや恐れの色も見せ始めるが、光代の姿を一通り見て彼女が向こう側の存在であることに気付くと、敵意と憎悪を露わにし始める。


【そうか…お前もそいつの仲間なんだな…! この化物が! 金に物を言わせてあちこちから買いあさりやがって…!】


 先頭に立つ男のその叫びを皮切りに、人々から罵詈雑言と非難の嵐が巻き起こる。


【この人の皮を被った化物が! 生まれた時点で処分されりゃあよかったのに!】

【向こうで俺達に復讐するために邪法を手に入れるつもりなんだろ!】

【虫みたいに吹き飛ばした母さんを返せぇ!】


 仕舞には石や空き缶が投げられだし、そのいくつかが旅行カバンを引きずる少年に当たった。


【い、痛い! 止めてよぉおお!!】


 その石の一つが少年の米神に当たって血が一部出た瞬間、泣き声混じりのその叫びと共に出た衝撃波が軌道上の地面から土煙を大きく巻き上げながら人々に向かっていく。


『あぁ!? 皆ぁ逃げてー!!』


 それに驚いたマリアが隠されているのも忘れて声を上げるが、衝撃波が人々に当たるその直前に、それは太鼓を大きく鳴らしたような轟音と土煙を出しただけでパッと消えた。


【【【【【んなぁぁ!?】】】】】

「…………」


 その衝撃波の不発で生じた土煙の中より、驚く人々の前に姿を現したのは、見るからに特殊部隊の格好をして身元や顔がわからない姿に着替えたミカエルだった。

 だが、その僅かに見える眼光はむやみやたらと振り向くものではないが、まるで嵐の前の凪のような静かな怒りを宿しており、素人しかいない人々に、今まで追い詰められた経験のない鼠が角に追い込まれて猫を通りこして虎に近づかれているような恐怖を与えていた。


【…とりあえず、頭を冷やしましょうか?】

【【【【【………………………………】】】】】


 その上で、口元こそマスク越しだが綺麗に目を瞑って穏やかな声音で放たれたその言葉が、より恐ろしさ増させて人々から流れ出る冷や汗を更に増させた。

 一方で、画面越しに様子を見るダニエルとマリアに、周りには聞こえない魔法による思念で語る。


(…子供のうちから癇癪で親すらも殺しかねない力を宿しているんだ。こんなの…たとえ親でも身近に居られ続ける人なんてそうはいないよ…)


 その時のミカエルの声は、悲しさや怒りをもう当の昔に過ぎ越して、諦観というべきもので、それがダニエルとマリアに親としての無力感を覚えさせた。


「…ミハイル、真面目になっているところ悪いが、手術したばかりの状態でそんな急に高速移動すると…」


 だが、クトゥルーが帝国側検問所の施設から出たその瞬間、異世界での名で呼ばれたミカエルは頭からプシューと再び噴水の如き鮮血を噴出した。


「…あ…」


 その赤い噴水の勢いで再びミカエルはパタリと倒れて意識が遠くへ飛んだ。


「…あーーーー、また子供の頃に私が石を投げつけられたと思って誤って噴出したイカスミのようまた血を…」

『え? クトゥルーさんってイカだったの?』

「ああ、はい、見た目からよく間違われますけど地球で言えばイカの仲間です」

『こんな状況でこれが今回のオチィ!?』


 クトゥルーはそれに幼少期の苦い記憶を思い出し、マリアはそれにいつもののほほんと意外そうな表情を見せ、ダニエルがシリアス展開で起きた普通なら凄惨な場面にそぐわぬ様子に突っ込みの声を上げた。

今回の話は何かと暗さを感じさせる話になりましたので、ギャグが清涼剤にでもなってくれれば幸いなのですけど…。

次回も、まだ明るくない話が続く予定です。

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