017 人や物は見かけだけで決まるものじゃないけど…
今回はようやく異世界側が話の舞台となり、そちら側での主人公の身内の人が登場します。
○神訂暦世界6015年4月8日朝(地球側2023年4月8日朝) エウロパ大宙域 イベリア宙域 帝国領アトラス星系 第二惑星 ジブラルタル学院○
初の異世界との連結という現象で地球が大混乱に陥っているように、異世界側も異なる銀河系との初の接触で激震が走り、その現場である地球においては大きな都市というべき規模のその学院は騒然となっていた。
「ここが例の初めて我が銀河系が他のそれと接続したという円門が見える現場です!!」
「この件について星連はどのように動かれますか!?」
「現在この惑星での影響は!?」
「あのー!? 私共の息子はどのように!?」
「此度の責任はどう取ってくれるんだ!」
あらゆる通りや広場、特に海士臣島のループ橋で出現したものと同じ円門が出現している区域は大勢の報道陣や、学園関係者に生徒の保護者などでごった返していた。
上空は彼らがこの地へ移動するために乗ってきた飛行乗用車、更には宇宙船の類いまで洋の東西様々な意匠に分かれつつも行き来している。
「…うっわーーー、地球で一度生まれ育ち直した身としてはすっごい人の数―…けれど何でこっち側の円門はあの人気のない岩山の中から学園からでも見える場所へ移動になってるんだろ?」
「あの場所はテロリストが行った実験で空間が不安定的でしたから、より安定的に管理できるこちらまで移動させたようです…」
その光景を、地球のフランス風の歴史を感じさせる学生寮の屋上庭園から、こちらの世界に戻ってきたミカエルと光代が見守っていた。
『…へーーー、これが家に戻ってスライムちゃんをお仕置きするまでにミカエルがいたっていう異世界の学園ねー。なんか地球と時間や暦もほとんど同じな星の学校に通ってるって聞いてたけど…思ったよりも大丈夫そう…』
『ちょちょっとかーさん、そんな魔法やモンスターが実際にある危険な世界に息子が行っているのにそんなのんきに…』
ちなみに、その様子はミカエルの魔法によるステルス化で周囲には見えないカメラ付き魔法空中映像越しで、その両親たるマリアとダニエルの二人も見ていた。
「…うーーん、様子からしてこの町が海士臣島に飛ばされたというより…お互いが存在する次元が近づいた状態で安定したっていうのが妥当かな…?」
「…そうですね、先生が病室で目覚めてすぐに空の異変に気付いた所で、映し出されていた向こう側の故郷を見て、思い出して驚いた様子でそのまま翼を生やしてドンって飛んで行かれましたし…」
地球と同じく混乱状態にあるこちら側の様子に、ミカエルと光代は二つの世界が繋がった時のことを思い出していた。
『あら? それでも話の通じそう人達もたくさんいそうじゃない。あの様子からして…』
その二人をのほほんとした微笑みで見守りつつ、マリアは画面越しに見える集まってきた人々を指さして二人を励ます。
『…あの声を聞いてみた感じ、魔法とかを足しただけで私達の世界とそこまで変わらないと思うわ。たくさんの人が買い物したり、お仕事したり、子供が悪いことをしたら親が叱ったり、若い頃のお父さんみたいに提出したラノベ作品がもっと日本語勉強しなさいって返されたり、次に設定は面白いけどキャラの話し方が単調だと言われたり、このキャラの今の行動と最初の頃の挿絵のイメージが合わないって絵師さんがお父さんに怒ったりしてるみたいなことが起きてるような世界よ』
『…何で私の苦渋の新人時代ばかり取り上げるんだ?』
但し、妻の口から自身の若き頃の失敗談ばかりを取り上げられてダニエルは妻に恨めしそうな小言を漏らす。
『…だからこそ、そっちも困った人に付け込もうとする人もいれば、それを助けようってする人も大勢いる世界だろうから大丈夫よ。そして…その助けようとする偉い人達の一人にあなたがいるんでしょ♪』
夫の涙声が混じりそうなその口上にあんまりかまうことなく、マリアはミカエルに親として深い信頼を宿した朗らかな笑顔と共にその言葉を向けた。
「…はい、その通りです。幸いにも今の私達の国の皇帝陛下が…何度目か前の人生で先生が深いご親交を結ばれた方ですから…お義母様…」
それを聞いて光代が穏やかな笑みを添えてそう返した。
『あら、ありがとうね光代さん。けれどももうお義母様って…、その子にもあなたみたいに綺麗で器量の良さそうな人が出来るなんて嬉しいわー♪』
「!? し、失礼しましたマリアさん! 誤解をさせる事を言いまして! 私とこの人の関係はまだ師弟の間柄です!」
マリアはその光代の自身に対する呼び名に親心を擽られてからかって彼女を赤面させたりした。
『ほほう? まだという事は…何れはその先も計画していると…? 名前や見た目はSSに出てくる大和撫子だけあって…表向き以外は意外と大胆だねぇ』
「お、お義父様! そんな気を早くしないで…あ…」
しまいにはそののろけ空気に歓喜されて復活したダニエルも加わり、光代は赤い顔を更に強めて所々で隠したい思いが出たりしてしまう。
「…まーー、そういう事でこっちの父さんにも連絡は付けたし…もうまた少しゆっくりしてもいいか…」
『…え? ミカエル…お前はそっちの世界でも父親っていたのか?』
そののろけシーンにミカエルは安堵の顔を見せてベンチに座るが、そこで口から漏れ出た言葉にダニエルが意外そうな反応を見せた。
「…何? その山犬から生まれたという設定の獣の数字の痣を持つ男が前日譚系新作の予告シーンでその設定が変わったと思わせるようなシーンを見た観客のような顔?」
父親が見せた疑わしそうなものを見る顔にミカエルはジト目を向けるが、それ以上に面倒くささが強かったのかそれ以上追求しようとはしなかった。
「…まーー、他にも今の皇帝をしているあの人とも話は昨晩に付けたし…後は僕がまた起きるまでよろしくーーー…ぐふ」
そして事前にした根回しの一部を口から漏らした直後、ミカエルは大量の血をドバっと吐き出し、更に全身から噴水のような勢いでプシューっと鮮血を漏らしながらぶっ倒れて意識を失い、更に体の筋肉部分から徐々に溶けだして骨が見えるという地球の地上波では見せられない状態になった。。
『えーーーーー!!??』
「あ、遂に倒れて崩壊しだした」
血の噴水が降りかかった画面が揺れる勢いでダニエルは驚愕し、ハイディナは嫌な意味で慣れた表情でボソッと呟いた。
「…あーダニエルさん落ち着いてください。あなた達の世界に来るまでの間に、先生はこっちの世界でこの星とそちらの星が纏めて吹き飛びそうな危機を防ぐ戦いに身を投じられていたんですから…。普通の人なら既にショック死か発狂してても可笑しくない苦痛と怪我を魔法で誤魔化しながら一日以上も動いてたんですよ。ゲームに例えれば二兆くらいはあるHPが二千にまで減ってるような状態でしたし…」
『余裕があるのかないのかわからん例えだなおい!?』
「大丈夫です。この感じならもうこちら側のお義父様が…あ、来た」
息子の命にもかかわりそうな事態に目玉が飛び出そうなダニエルを、落ち着いているままの光代が宥めようとしたところでその理由が空から降ってきた。
「…はあ、全く…病室から消えたからまたかと思ったら…まーた無茶をしましたねぇ…」
その空から降りるようにして現れて誰かは、長い白衣を着ている点と持っている手提げバッグから取り出されていく道具からして、医者であるらしかった。
「あ、お義父さん! 先生の身体をいつもみたいに急いで修理してください!!」
『おお! 言い方はともかくその人がミカエルのそっち側の世界でのお父さ…ん!???』
光代のぞんざいな単語が混じっている要請からダニエルは息子が助かると安心したが、その安堵で今度はその現れた医者に意識が取られ始めた。
「…えーーっとそれではオペを始めます…まず無菌消毒結界、メス、ガーゼ、疑似生体細胞液、本細胞再生剤…他にはーーーー…」
そうしてあんぐりとしだしたダニエルが顔を見せる画面の前で、異世界側でのミカエルの父は彼の身を無数の残像を残しつつも超高速且つ高速な動作で彼の身を治療していく。
「いっや―ごめんなさい! 今回は歴代最短記録で死ぬかと思ったマジで!!」
医者が駆けつけてきて数分後、倒れる前の怠そうなのとは一変して、立ち上がったミカエルの元気な声があたりに響いた。
『助かったのはいいけどなんか顔が死神という名を先代から分捕った方の二代目の骸骨みたいな素顔になってるぞ!?』
『それでぇ、身体の色が通称を奪われた後で生物型超エネルギー工場になったエッチな蛸さんみたいになったあの中学校の先生みたいになってるわねぇ』
但し、ダニエルが咆哮してマリアが困った声でそう言ったように、そのミカエルの顔は黄色っぽくなった筋肉が薄っすらと着いた頭蓋骨丸出しのようになっていた。
「…あ、あなた方が私の息子がこっちで意識を失って記憶が無くなっていた間に流れついていた向こうで世話になっていたというお二方ですね。ありがとうございます」
その声でカールソン夫妻の存在に気付いたのか、ミカエルを助けた医者である彼のこちら側での父がぺこりと頭を下げてきた。
『…あ、これはまたどうも…そちらで息子は貴方のお世話になってるようでありがとうございます…で、なぁ…ミカエル、その人がお前のそちら側での親なのか?』
「うん」
それに落ち着きを取り戻したダニエルは、医者に礼を述べつつも息子に振り向いて凄く疑わしそうな顔を向けて問い掛けるが、ミカエルは何げない様子で肯定した。
『…そちらの…こっちの世界の太平洋上の海底奥深くに幾何学的に狂った都市諸とも封印されているって設定の邪神をデフォルメぬいぐるみ化したような人が育てのお父さんか?』
「うん」
そして、息子を異世界側で救ってくれた医者である向こう側での父、小さな蝙蝠の翼を生やして緑がかった水色の体表のタコさんウィンナー風ぬいぐるみのような姿をした医者を見てのダニエルの問いにも、ミカエルはあっさりと肯いた。
『…あー母さん、最近はたこ焼きを食べてないな―。小学校時代の息子を家に上げて遊んでくれた戸田君の家の近くにあるたこ焼き屋にまた三人で食べに行こうか~』
「あの店もうやってるかしらー?」
『そうか、じゃー粉もの繋がりでサンゴ通りにあるお好み焼き屋の三日月に行こう』
「あ、ヤバい…現実逃避に追い込んだか…」
少しの沈黙の後、画面から視線をずらして外食の話を始めた父と、それに合わせてあげる母の姿にミカエルは生温かいものを見る眼差しを向けた。
「あ、自己紹介が遅れました。私、この子の父を未熟ながらもやらせてもらっている医者のルルイエ・クトゥルーと言います。よろしくどうぞ」
『…って名前はそのまんまかい!!』
だが、ミカエルの異世界におけるミハイルとしての立ち位置での父であるその医者ルルイエの自己紹介に、ダニエルは突っ込みに引き摺られる形で現実に引き戻された。
話しの最後に出てきたたこ焼き屋の話は作者の小学校時代にいたクラスの人の話が元ネタで、如何せんもう十何年前の話なので残っているかどうかわかりません。
但し、海士臣島のモデルになってる作者の地元の島では、お好み焼き屋の方は名前に同じく“月”の字が入っているお店が今もやっていて、美味しいです。
次回から、異世界側の方法と、異世界側での主人公の地元の様子の幾つかが描かれたりする予定です。